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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
2年生
190/433

第190話 県大会

朝の光が体育館の高い窓から柔らかく差し込み、床に長い影を落としていた。張り詰めた空気の中で響くのは、選手たちの静かな吐息と、時折聞こえる弦音だけ。出場12校の高校生たちが、それぞれの思いを胸に会場へと足を向けていた。


光田高校弓道部は、全国大会準優勝の実績を背負った圧倒的な優勝候補だった。対抗馬として名を連ねるのは、伝統と格式を誇る海浜中央高校、そして同地区のライバル・川嶋女子高校。頭一つ抜けた実力を証明するべく、光田は団体戦に臨んだ。


予選。

一人4射で、的中数を競う。上位8高が決勝トーナメントへ向う。

どれほど評判が高くても、どれほどの実績があっても、この日、この時に力を発揮できなければ、なんの意味も持たない。


杏子はいつもどおりの凛とした姿で的前に立つ。静寂を切り裂くように放たれた矢は、的の中心を射抜いた。昨日、全員に見せた見事な矢。そしていつも通りの姿勢。


それを完璧に再現して見せた。


そのまるで変わらないいつも通りな杏子に、栞代もつばめも安心する。いつも通りにすればいいんだ。


杏子は、完璧な皆中だった。


栞代とつばめは、それぞれ三本ずつを確実に決める。合計十本という堂々たる結果で、全校トップの予選一位通過を果たした。重圧それぞれにあり、それぞれに異なる対応を迫っていたが、それでも、むしろ冷静さを研ぎ澄ませながら、光田は予選を駆け抜けた。


決勝トーナメント一回戦


「個人戦に集中したい」

つばめの申し出により、以降は紬が出場することになった。つばめの願いは全員が知っていたし、紬はいつものように、他人事のように表情を変えることもなく、淡々としていた。杏子とはまた種類が違うが、同じ動じなさ、だった。


きっと心の中で「それはわたしの課題ではありません」そう言ってることだろう。

栞代は思う。そして、いや、それは紬のことなんだよ、とひとりでつっこみ、ひとりでわらった。


杏子と栞代の両エースは、相変わらずの安定を見せつける。

二人とも皆中。紬は2本の的中に留まったが、チームの士気は微塵も揺るがなかった。合計10本。相手の東川第二高校が4本に終わったのに対し、光田は圧倒的な力を見せつけて完勝した。


二回戦は準決勝だ。


相手は同地区の新興勢力・青竹高校。


紬がここで3本と安定感を取り戻し、チーム全体で11本を記録。青竹高校の7本を大きく上回って勝利を収めた。


もう一つの準決勝のカードは、さながら光田高校への挑戦者決定戦の様相を呈した。

光田高校にとっては、同県の伝統校海浜中央高校と同地区の伝統校川嶋女子。それは、今までの同県の決勝戦の模様でもあった。


両校にとって、今はここからさらに大きな壁がそびえていた。


激しい戦いになった。同じ的中数から、競射へ。絶対的なエース、日比野希を卒業で欠いた川嶋女子が、一歩届かなかった。


メンバーが劣っていた訳では全くない。いやむしろ実力的には分があった。

それでも、絶対的なエースが抜けた。精神的な支柱を欠いたあとのチームの課題を、栞代は見たような気がした。

それは、そのまま、光田高校の来年の姿に重なる。

川嶋女子の前田霞の姿が、そのままつばめの姿に重なった。

楓と真映。二人がどこまで支えあえるのか。来年以降のことも考えていた、冴子さん、瑠月さん、沙月さんの気持ちが、今栞代にも分かった気がした。


だが、今は最優先にするべきことがある。


決勝戦


ついに迎えた海浜中央高校との決勝戦。ライバル同士の真剣勝負が始まった。光田高校も伝統校ではあったが、近年の不振からのいきなりの覇権奪取。

海浜中央高校にとって面白いはずもない。


しかし、そんな思いを、栞代と杏子は、揺るぎない皆中を披露することで受け取った。

紬も3本を確実に決め、チーム合計11本。海浜中央の7本に対し、その差は歴然としていた。

海浜高校は、準決勝で気力を使い果たした感があり、その中でのこの結果は上出来だと言えた。

しかし、光田高校弓道部の見せた圧倒的な力は、同校が、全国レベル、いや、全国で優勝を狙うレベルにあることを、示した。




弓を握っていない杏子は、まるで頼りない。ずっと泣きそうな顔をしていたが、ようやく肩の緊張がほぐれたように、微かに「ほっ」と息を吐いた。


栞代は力強く頷きながら、紬に向かって言った。

「紬、さすがだな」


紬はそっと首を振る。

「それは、わたしの課題ではありません」

「いや、間違いなく紬の功績なんだよ」

栞代は笑顔を交えて続けた。小さな笑いが周辺で起こる。つばめも安心した表情を浮かべる。

ソフィアが優しく声をかけると、やっと紬の表情に微笑みが浮かんだ。


歓声がまだ消えぬ中、真映がいつもの調子で声を張り上げた。

「やっぱりわたしの応援は効き目あるなあ!」


それに続いてあかねが軽く突っ込む。

「よし、次は個人戦。続けて頼むぞ」


「もちろんですよ、あかねさん。勝利の女神としての実力は世界一、いや、宇宙一ですから」

「タランチュラね」

ソフィアが呟くと

「その名前はイヤ~」

と返し、笑いで包まれた。


真映が胸を張って返すと、チームはすぐに個人戦への準備に移った。光田高校弓道部の全員が、次なる挑戦——個人での全国大会の出場、に向けて心を一つにしていた。


勝利と敗北、静寂と歓声、緊張と安堵。様々な感情の波が交錯する中で、光田高校は確かな一歩を踏み出した。


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