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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
2年生
187/433

第187話 地区予選

新人戦の地区予選。


トップチームが3位までに入れば、県大会への出場が決まる。

本番は県大会、というムードが強い中、もちろん脱落したらちそこで終わり。


杏子には油断も気負いもまるで無く、いつも通りだが、部長としてハッパをかけることもない。

その役割は栞代が引き受け、スケジュールの確認、調整は、今回はまゆが選手として参加するので、一華が一手に引き受ける。


もの足りたいとも言えたが、頼りになるとも言えた。


圧倒的な安定感の杏子は普段通り、栞代も気合十分で皆中。つばめは、最後の4射めを外すが、トータル11射で、文句なしの1位通過。


つばめは、意識の範囲ではないだろうが、勝負の決まったあとの4射めを、決められない、という弱点がある。

決めても決めなくても勝利、という場面で、どこか決めきれない。


2位は川嶋女子、3位に青竹高校が入った。

伝統校でもある海浜中央は、代替わりがスムーズに行かなかったのか、光田高校、川嶋女子のBチームにも遅れをとった。


とりあえずは、実績からいえば順当に県大会への進出を決めた。

メンバーに取り立てて笑顔は無かったが、それでも、Cチームでまゆが1本を決め、なんとか調子がいい時は、4射中1本を決めることも増えてきた。


自分の結果はまるで意に介さない杏子だったが、チームメイト、特にまゆの結果に対しては、大きく揺れていた。


一緒に、一つ一つ確認してきた射型。

視線は自然と、まゆの弓先へ向かう。

その瞳に映ったのは、まゆ自身の瞳の震え、そして――


ぽろりと、一粒の涙がこぼれる。


的前に立つまでの時間、立ってからの時間、そして辿り着いた場所。


その光景は、杏子にとって――世界の全てが輝いて見えるようだった。

光の粒が弾けた。


まゆは、心を震わせて俯き、そっと拳を握りしめた。

それは、歓喜と安堵と――自分を超えた自信の結晶だった。


そして――

杏子は何も言わず、ただ駆け寄った。

その背中は、手を伸ばしそうになるほど優しかった。


「まゆ……やったね」

そう、笑顔も涙も混ざった声が、まゆに届く。


その言葉に、まゆは顔を上げた。

「うん……うん!」

控えめな声が、でも力強く感じられた。


栞代は昼の光のように微笑み、つばめは胸を高鳴らせて近づいていった。

「すごいよ、まゆ!」

「かっこよかったですっ」

部員たちが静かに拍手を贈る。

その拍手のひとつひとつが、まゆへの祝福の光だった。


そして杏子は――

まゆに深く感謝した。まゆが居てくれたから。

まゆの頬には涙の跡が残り、笑顔が輝いていた。


まゆがもたらしたこの瞬間は、

“共有した瞬間”だから尊く、そして永遠だった。


控室に戻ったまゆは何度も自分の手を見つめていた。

ほんの少し震えている指先。的を貫いたあの瞬間の感触が、まだ指の奥に残っている。


そのすぐ隣には、着替えを手伝いに来たあかねが寄り添っていた。

あかねにとって、まゆは産まれた時から一番側にいる。弓道もともに歩む、かけがえのない親友であり、いつも隣で頑張り続ける誰よりも大切な存在だった。


まゆは、杏子が駆け寄ってきた時の顔を忘れられずにいた。

杏子が涙ぐみながら笑ったあの瞬間。

県選手権で優勝した時にも見たあの表情。


あかねは、ごく自然にまゆの耳元で小さく囁いた。

「……杏子をあれだけ喜ばせることができるのは、まゆだけだな」


まゆの頰が赤く染まる。

――自分の矢が、杏子を笑顔にした。

その笑顔は、すべてを与えたくれる気がした。

「嬉しかっただろ?」

「……うん。……すごく」


小さく、でも確かにうなずいたまゆに、あかねはにっこりと笑った。

まゆが言う。

「あかねはなんでも分かってるね」

その笑顔は、まるで春の日差しのようにやさしかった

彼女たちの"絆"そのものだった。


着替えを終えてみんなのところに戻ると、騒々しい声が太陽に届いていた。


その中心にいるのは、もちろん――光田高校弓道部が誇る生ける感情爆弾、真映。


「ううぅぅぅ〜〜! また当たんなかったあああああ!!」


まるで床をのたうち回るタコのように、奇怪な体勢で嘆きまくる真映に、楓がタオルで汗を拭きながら苦笑いを浮かべた。


「真映、力が入りすぎなんだよ。……でも、全部惜しかったよ?」


「惜しいじゃダメなの! 惜しいってことはつまり外れてるってことなの! わたしは杏子先輩を越えるんだよおおおお!!」


目にはうっすら涙、拳は握りしめ、何かに覚醒しそうな勢いで地面を睨む真映。


そんな真映の横で栞代がぽつりとつぶやく。

「お前……宇宙人を越えるつもりか??」


「ひくっひくっ。杏子先輩はずるいっ。宇宙を取ったらそれ以上に大きいものってないじゃないよおおおっ」


杏子はいつものようにニコニコして眺めている。

自分で自分を宇宙人だなんて言ったことは一度もないのになあ。


「宇宙より大きいものは、人間の思考です」

ソフィアが真面目に答える。

「または、私たちが観測できる宇宙を超えた全宇宙や多元宇宙が存在する可能性があり、これらは私たちの知る宇宙よりもはるかに大きいと考えられています」


「そ、それだあああ、ソフィア先輩、ありがとう~。わたし、多元宇宙人になるううううう」


一華が「もはや地球語じゃ通じない真映には、その資格があるね」とつぶやき、楓が「そろそろNASAが迎えに来るかもね」と返す。

まゆは笑いすぎて腹筋をおさえ、つばめは「弓道って、宇宙進出の競技だったっけ?」と小首をかしげた。


「目指せ多元宇宙最強弓道士」

一華が言う真映は、「横文字がいい~。そうだ、一番美しい星雲ってなに?」

ソフィアが応える。

「一番美しいと言われている星雲は、キャッツアイ星雲か、オリオン大星雲でしょうか」

「わたしにそっくりなのは、どっちよおお」

ソフィアは表情を変えず

「真映さんに似合いそうなのは、タランチュラ星雲でしょうか?」

「なんかその名前いや~。なんでわたしにそっくりなのよおお」

「最も明るい星形成領域なので。わたし、真映さん以上に明るい人、見たことありません」


ひとしきり笑いに包まれたあと、杏子がぼそりと言った。

「そろそろ帰ろ?」


一番最初に反応したのは、真映だった。

「よしっ帰りましょう」


確かに、切り替えの早さは、杏子を越えている。

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