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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
2年生
178/433

第178話  蓮遥祭初日 篠宮かぐやの背景

蓮遥祭の地に着き、試合会場に最も近いホテルに到着した時には、全員すでに旅路の疲れをまとっていた。だがその空気をあっさり切り裂いたのは、やはり杏子だった。


「練習、できないんですか?」


目を丸くする一同。疲労の中にほんの少し笑いが漏れた。

「杏子、部屋で素引きしよっ」

栞代が杏子を部屋に連れて行った。


翌日、割り当てられた公式練習の時間が終わると同時に、光田高校弓道部が貸切バスで到着した。


応援気分で興奮気味の部員たちの中で、まゆと一華はノート片手に練習内容を細かく記録していた。

慣れない遠的にもかかわらず、徹底したフォーム修正を重ねて的中率を上げた杏子の様子を聞き、二人は舌を巻いた。


大会初日の予選は、一人8射を3人。合計24射での的中数を競う。上位8校が明日の決勝トーナメントに進む。


光田高校は瑠月、冴子、そして杏子が予選に出場。


杏子は見事にトータルの練習量の成果を見せ皆中8本、瑠月が5本、沙月が3本の、合計16本。

予選3位で決勝トーナメントに進出した。


杏子の総体での行動は一部では騒がれており、真相を知らない高校から揶揄する声が届いたが、光田高校弓道部、総出で杏子をカバーしていた。


そんな様子に、改めて栞代は、礼の心、心技体、真善美、というものは何か、たとえ意図が通じていないとしても、こうして陰口を投げかけるのが、弓道部たるものの行動なのか、と考えた。杏子の祖父のことを、少し理解した瞬間でもあった。


だが、もちろん、そんなことにまったく興味を持たない高校も多い。その中の双璧は、やはり四連覇を目指す鳳城高校と、覇権奪還に燃える鳴弦館高校だろう。


予選では、総体と同じように、鳳城高校と鳴弦館高校が、互いに一歩も譲らぬ技を繰り広げていた。


蓮遥祭では、かつて地元の覇者だった鳴弦館高校は、四年前の鳳城高校の登場により、その地位を大きく揺るがされた。

それまでほぼ優勝していた地元の鳴弦館高校に対し、鳳城高校が4年前、霜月夏帆、帆風秋音、草葉冬花、羽山春菜を擁し、初出場初優勝した。後年鳳城の四季と謳われた四人は圧倒的な安定感を見せ、総体、選抜、そして蓮遥祭と、すべての大舞台で優勝をさらった。

さらに昨年、雲類鷲麗霞が加わると、他校を圧倒する鉄壁の布陣が完成。完全無欠の“春夏秋冬”に“麗”が加わった。


屈辱を味わった鳴弦館高校が雪辱を期して招いたのが、地元黒曜練弓流の若き至宝、篠宮かぐやである。


黒曜練弓流——白鷲一箭流と並ぶ、弓道界の双璧。だがこの流派には、ひとつの鉄の掟がある。

「他流試合、固く禁ず」


この掟ゆえ、現代、多くは高校弓道で弓の基礎を学び、卒業後に改めて入門するルートが一般的だが、家元の家系という恵まれた環境から早くも才能を開花させたが、これが障害となった。


この掟ゆえ、かぐやは中学時代の公式試合には一度も出場していない。

だが、天才は檻の中にとどまる器ではなかった。


鳴弦館高校の校長・久住(くずみ)宗嗣(そうし)は、黒曜練弓流の門下として深い関係を築いてきた人物だった。

門下生として修練に取り組む中、早くからかぐやの才能に惚れ込んだ久住は、家元・篠宮黒曜に直談判した。


卒業生の多くが黒曜練弓流に進む鳴弦館高校、門下生ということで掟を守り、高校の弓道部への指導までも一切行わず、側面支援に徹している掟に忠実な久住の苦境。


第十四代家元・篠宮黒曜。黒曜練弓流の根幹を成す厳格そのものの弓士。

しかし、久住宗嗣の願いとあっては、篠宮黒曜もまた、無下に扱うことはできなかった。孫娘であるかぐやに意向を尋ねたところ、同じ年の白鷲一箭流のホープ・雲類鷲麗霞と戦いたい、とはっきりと応えた。


掟ゆえ、かぐやは中学時代の公式試合には一度も出場していない。同じ歳の雲類鷲麗霞に激しいライバル心を抱くのも当然のことだった。


その一言で、流派を一時“破門”という形にし、鳴弦館高校弓道部への入部が認められた。


ところが箱入り娘であったかぐやは、いきなり男性を好きになり、弓を捨てる。これには祖父・篠宮黒曜、父・篠宮彰嶺しのみや しょうれいも驚き激怒したが、しかし唯一、黒曜に意見できる存在——その妻、篠宮静音黒曜の妻・篠宮静音しのみや しずねが「破門した師弟には自由がある」と言い、見守る姿勢を見せた。


祖母の一言で見守ることにせざるを得なかった家元をよそに、久住は最後の手段に出た。黒金がアメリカ留学を希望していることを知り、時期を早め、ほとんど強制留学させ、ふたりを物理的に引き離したのである。


弓を捨てたかぐやが、再び弓を手に取ったのは、その後だった。


弓道部に復活したかぐやは、わずか数か月で力を再構築し、高校総体に挑むが、黒金からの不用意な写真アップに心を乱され、鳳城高校、雲類鷲麗霞と対戦する前に、光田高校に敗れ無念の3位。


だが、黒金直行のことは誤解だとわかり、いきなりの復活。

弓道は精神性がもっとも大事である、ということを違う角度から証明した。


そして今回、奪還しなければならない蓮遥祭。かぐやも誤解が解けて安定し、いよいよ本番である。


そして高校総体では実現しなかった、杏子と雲類鷲麗霞との対戦がいよいよ迫っていた。

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