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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
2年生
174/433

第174話 冴子、沙月参加。

三人の濃厚な合宿が始まって5日め。世間でのお盆休みの始まりと同時に、冴子と沙月が、それぞれ両親と共に合宿に合流した。

両親との参加、が二人の家庭から出た条件でもあった。


合宿場では、瑠月、杏子、栞代が、再会に喜んだ。遠的の練習の様子を互いに話し合う。瑠月が「杏子ちゃんはやっぱり弓を握らせたら宇宙人だった」と言うと、二人は深く頷き、「やっぱりな」と笑った。


この日は、他にも合宿場にいろんな人がやってきた。


杏子の父母。

毎年お盆は杏子と三人で家族旅行に行く予定なのだが、今年は杏子の希望でこんな形になった。祖父に外見は似ているが中身はまったく祖母似な父は仕事人間。杏子を祖父母に預けている形になっているが、それは杏子も希望でもある。人を助ける仕事をしている父を、杏子はとても尊敬している。


それぞれ父兄の挨拶でそのことを知った、冴子と沙月、それぞれの両親が、せっかく久しぶりの再会なのだから、1日だけでも、信州の観光に行ってきたらどうか、と提案した。


ずっと練習漬けの毎日を過ごしている。もちろん好きなことではあるのだが、リラックスすることも大事だ。拓哉コーチも大賛成した。


杏子は、それなら瑠月さん、栞代も一緒に行きたい、と言い出す。言い出す前ならまだしも、言い出したら終わり、ということを栞代はもちろん、瑠月も知っていたので、素直に杏子の意見に従う。

そこから祖父の行動はまたしても早かった。自分のことだと何一つ動かず祖母にまかせっぱなしなのに、杏子と遊べるとなったら、すぐにスマホを取り出し、予約を取り計画を立て始めた。


そのうち、顧問の滝本先生も到着。弓道部員は若干緊張するも、同行している榊原夏美コーチと深澤コーチの姿を見て、少し緊張が解ける。

滝本先生から、遠的を見てもらっていた深澤コーチから参加したいと申し出があったことが伝えられる。弓道部員は、榊原コーチが臨時に参加するのも嬉しかったが、ふと、理由を考えた。

その気持ちが伝わったのか、滝本先生をみると、滝本先生は、杏子の祖父を見て、優しく目配せして、微笑んだ。


なるほど。

杏子も杏子の祖父もよく知っている栞代は当然、瑠月も冴子も沙月も、全員すぐに理解した。おじいちゃん対策、だなと。

今までも、瑠月と杏子の二人に対して、拓哉コーチが指導していたのだが、祖父の不満はありありと分かった。とにかく、どんな立場であっても、杏子に男を近づけたくないのだ。拓哉コーチが瑠月を間に入れて指導する様は、見る角度によっては面白くはあったが。

なにせ、合宿場の掃除や洗濯、買い物などそれなりに役割があるはずなのに、杏子へ指導する瞬間には、必ずコーチはチェックするような視線を感じていた。


どんな時代錯誤やねん。栞代はちょっとイライラする時も呆れる時もあったが、肝心の杏子が祖父の味方だから、もうどうしようもない。


でも、遠的練習そのものは、杏子の希望。そこで多分、拓哉コーチと滝本先生が榊原コーチを召還したんだな。


栞代は、突然の参加になった榊原夏美コーチに、「夏美コーチ、すいません、杏子のおじいちゃん対策ですよね?」と話しかけると、夏美コーチは

「杏子ちゃんを指導できるのは光栄よ。ほんとは、みんな(夏合宿の臨時コーチ)来たがったんだけど、やっぱりお盆じゃない? 予定を動かせ無かったのよね。良かったわ。わたし、時間があって」と穏やかに笑った。それに、と付け加えた。

「栞代ちゃんも練習しなくちゃね」と言われ、今までのんびりと練習の補佐をしていた平和な日々が終わることを知った。



そして、翌日は、杏子、瑠月、沙月、杏子の祖父母、父母は1日観光に。そして、沙月、冴子は、遠的の練習を始め、それぞれの父母は、神楽木管理人と家事などの担当について相談した。


信州の朝は、気温だけじゃなく空気の粒子までシャキッとしていた。

まるで「お前ら、ちゃんと青春しとるか?」と空気に問い詰められてるような爽快感。


合宿場の玄関前には、すでに杏子の祖父が自家用アルファードの前で仁王立ち。

その横では、杏子の母が「あんまり張り切らないでね、腰痛めますよ」と笑っていたが、

祖父のテンションは、そんなんで緩むはずもない。


「このワゴンはなあ、去年の冬に雪道仕様にしてある。チェーン? そんな軟弱なもんは使わん! ブリザック様にしてあるからな!」

誰も雪の心配はしていない。8月だ。


杏子はと言えば、早朝の練習で髪を結び直したばかり。

「少しだけでも」と短い時間弓を引いていた。夏美コーチは少し呆れながらもチェックしてしてくれる。「これぐらいで、今日はいっぱい楽しんでおいで」


「ぱみゅ子、準備はええか?」

祖父の声が飛ぶ。


一方、レンタカー班では、杏子の父が慣れない車にそっと触れるようにドアを開け、

「ま、まあ…俺も…運転できるし…な」

とつぶやいた直後、杏子の母が助手席からノールックで「今日は私が運転ね」と宣言。

「……はい」

父、秒で敗北。まさか家庭内合宿も始まっていたとは。


そのレンタカー班には、瑠月と栞代。

初めてまともに杏子の父母と長時間一緒に過ごすとあって、

やや緊張していたが、母のほうが異様にフレンドリー。


「この前の団体戦、ネットで見ましたよ~! 」

「は、はい……ありがとうございます」

「んも~! あのピシッて揃う瞬間、鳥肌でしたよ!」

「ほ、ほんとに……恐縮です」

栞代が、祖母と、そして杏子の父との違いに改めて驚き、血が繫がっていないはずの祖父となぜここまでそっくりなのか、不思議に思った。


8時ちょうど。全員が荷物をまとめ、出発の時間を迎えた。

祖父は自信満々だったが、もう一台の車では、母がルート確認アプリを立ち上げ、父に助手席でナビ係を命じた。


杏子は

「なんだか、おじいちゃんとおばあちゃんと三人でどこかに行くって、意外とないよね」

「まあ、いつも家だからなあ。だいたい、ぱみゅ子が悪い。ぱみゅ子が時間があれば弓道の練習をするからだな」と思ってもみない方向から祖父の愚痴が始まるが、祖母がきっちりと遮ってくれた。


こうして二台の車は、静かに出発した。

行き先は、高原の風と絵本の世界。

それを決めたのは杏子。理由は、おばあちゃんが好きな場所だから、だった。




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