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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
2年生
172/433

第172話 合宿予定変更

風が合宿場の森をすり抜けた。

その日、長野の高原には火の粉と笑い声が舞っていた。


光田高校、全国高校弓道大会、準優勝。

新しい歴史を刻むには一歩届かなかったけれど、それでも創部以来の最高位に並んだ快挙だった。

そして今、バーベキューの火を囲みながら、その結果をかみしめるように、皆が笑っていた。


杏子の祖父は、すでに差し入れハイだった。

ナガノパープルと巨峰、冷え冷え状態で大袋に山積み。信州りんごジュースの箱も三段重ね、そして山のようなトマトとレタスのサラダを持ち込んだ。


「ソフィアのおじいさん、エリックさんからは、冷やしトウモロコシに野沢菜とおやきを指定された」

といって、こちらもドッサリと届けられた。


「ガハハハハ。全部平らげるには、一週間ぐらい掛かるかもしれんな」

祖父のいつもの軽口だったが、まさかこの言葉が生きてくるとは、この時には誰も思っていなかった。


その横でジュースを飲みながら、まゆがしっかりと栞代に報告する。


「杏子はちゃんと試合を見て応援してたけど、おじいちゃんは試合そっちのけで杏子ばっかり見てたよ。もう(とろ)けるぐらい幸せそうだった。来年も、杏子の近くに居たいから、また変なことを考えて、杏子を独り占めするんじゃない?」


栞代は、いかにもおじいちゃんが考えそうなことだと思い

「まゆ、良く言ってくれた。オレが釘を刺とく」

といい、さっそく祖父のところに向う。


「おじいちゃん、来年は絶対に杏子に変なことさせるなよ」

祖父は何かを察したように両手を広げ、大げさに言う。


「栞代! わしはな、ぱみゅ子の夢を叶えたいんじゃ! ぱみゅ子の夢を叶えさせてやりたいっ。だから、団体金メダル、協力してくれよな? 紬さんも、あかねさんも、まゆさんも、つばめちゃんも、真映ちゃんも、楓ちゃんも一華ちゃんも、そしてソフィアさんも、頼んだぞおおお!」


なぜか名前フルコンボで呼ばれた全員が微妙な空気になったが、差し入れぶどうの甘さで全部帳消しだった。


宴もひと段落した頃、杏子がふらりと祖父の元へやってくる。

「おじいちゃん、ちょっと相談があるんだ」


その瞬間、栞代の内なるレーダーがMAX反応を示す。

「おい待て待て杏子、今度は二人きりでは話させん。オレも聞く」


「…栞代、落ち着いて。笑」


「ぱみゅ子、なんでも言ってええんじゃぞ。わしは、ぱみゅ子のためなら、なんでもできるんじゃ。人を騙すこと以外はな」

ほんとに、おじいちゃんは口から生れた口大王だな。栞代は呆れた。


杏子は少し照れながらも言った。

「予定じゃこの後、家に帰って、そこから遠的の練習に通うって話だったけど…わたし、このままここで、ずっと練習したい。ここならすぐ練習できるし」


「おおおおおっっ!?!? ということは、わしもここに居ていいということじゃな!?」

まったく、一番大事なことはそこかいっ。栞代はさらに呆れる。

だが、ちょっと待って。練習?

「それは、おじいちゃんの思う通りでいいよ。とにかく練習がしたいの」


その場ですでに祖父ターボ発動。

神楽木管理人のもとへ突撃→滝本先生のとこで土下座→拓哉コーチに靴脱ぎながら相談。

もはやスピード感だけで物語が動いていく。


「杏子、合宿場も次の利用者居るんじゃないか?」

「盆明けまでは空いてるって、それとなく神楽木さんに確認したの」

なにがそれとなくだ。神楽木さん、絶対察しついてるよ、それ。


拓哉コーチも焦る。そして確認にやってきた。


「……杏子さん、本気? 休息なし?」


杏子は即答だった。

「練習がしたいんです。蓮遥祭弓道大会で金メダルを獲るために。」


栞代は、まあ、確かに蓮遥祭も全国大会団体の金メダル、ということには変わりない、と思う。

それにしてもこの子って、とため息をついた。

一度決めたことは絶対に譲らないからな、特に弓のことについては。

次からは、まだ決める前に相談してくれよ、杏子。

けれど、どうせ放っておけないのも自分の性分。

家に電話して、即「盆、帰りません」宣言。


拓哉コーチは実家の神社から「帰ってこい」と詰められたが、

「杏子さんが練習したいと。ほら、去年の“御的初の儀”に出てくれた生徒なんだ。恩があるんで…」と伝えると、

「ならば、手を尽くせ」と速攻で許可が下りた。


神楽木も、杏子祖父母が日常の世話を手伝うと聞き、それなら特に問題はないだろうと、閉館する予定を変えて合宿場を空けてくれることになった。


瑠月は、当然のように一緒に残った。不完全燃焼だった杏子。遠的はまだまだこれから。杏子の夢への思いと、杏子の成長を、そばでずっと見ていたいと思った。そしてなにより、自分の高校生活の集大成なのだ。自分も最後に追いこみたい。


瑠月が、自分も残る、と伝えると、杏子は本当に嬉しそうに笑った。


蓮遥祭団体メンバーの沙月と冴子は、一度は帰るが、蓮遥祭一週間前に再合流が決定。


慌ただしく予定が決まっていく。

バーベキューの終盤、杏子が残るらしいという話が広まると、他の部員の“わたしも残りたい熱”が大炎上した。


特にまゆと一華は「マネージャーの務めは最後までやらないと。練習を見届ける義務がある」と譲らない。

栞代と瑠月が、それぞれ手分けをし、話をする。


弓道部の活動はこれからも続く。一番大事なのは、ご家族の理解だ。本当は、もちろんわたしたちも全員で練習したい。けれども、今回は本当に突然なこと、家族で大事なお盆という時期、そして、夏期講習などの予定もあるって聞いている。

練習も、蓮遥祭に向けての遠的に特化してる。それを含めて考えると、みんなに無理はさせられない。

そして、二人は、頷きあい、全員に伝えた。


「…あたしたちは家庭の事情で、今、家が“居場所”じゃないんだ。だからここにいる方が楽なんだ。でも、みんなは違う。家族を大事にしてほしい。勉強も。あたしらが弓道を続けられるのは、みんながいろんなこと背負ってくれてるからなんだ」


栞代が、めったに見せない真剣な目で言った。

その重みが、静かに火の粉の中に沈んだ。


みんなは少し泣いて、でも笑って、「じゃ、蓮遥祭、応援に行く!」と言い出した。


そして夜、部員たちは、スマホ越しに集合写真を送り合いながら、じゃれまわった。


その夜、杏子と瑠月は、同じ月を見ながら思う。

「冴子さん、沙月さん、瑠月さんを、必ず金メダルで送り出す」

「杏子ちゃんの夢を叶える。支えてくれた冴子、沙月に報いたい」


それは願いじゃない。

決意だった。

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