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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
2年生
167/433

第167話 つぐみとの再会

弓を心から愛する杏子にとっても、自分の仲間の試合を見るときは、また格別だった。

まだ競技は続いていたが、杏子の気持ちも少し落ち着きを取り戻していた。


祖父の視線がそっと寄り添う中、杏子は再び選手たちの弓を目で追った。


そういえば、わたしはいろんな姿を見て楽しいけど、おじいちゃんはずっとわたしを見て飽きないのかな。


祖父は祖父で、驚くほど豊かな杏子の表情の変化を見ては幸せいっぱいになっていた。杏子はなぜ、同じような射型を飽きずに見ることができるんがろう、いったい何が見えているんだろう、と不思議に思っていた。


試合の緊張が一段落した会場に、着替えを済ませた栞代が戻ってきた。


「おじいちゃん、ちょっと紹介したい人が居るから、きてよ」

「ん? なんじゃ? きゃりーぱみゅぱみゅ様か清原果耶さまでも来てるのか?」

「罪深きおじいちゃんに、そんな天使がくるわけないだろ」

「う、、う、、、。怒っていいか、誉めていいのかワカラン」

と、いつもの調子のやりとりをしながら、杏子にさりげなくウインクを送ると、栞代は祖父を連れてその場を離れた。


栞代の怒りも少しは落ち着いてくれたのかな?


ぼんやりと杏子がそんなことを思っていたら、つばめがやってきて、さ、来てくださいっ、と言うので、一年生に荷物を任せて、まゆと瑠月さんと、会場の廊下へ連れて行かれた。


「あっ、つぐみっっ」

「杏子っ」


つばめは杏子に抱きついた。「ありがと」そう言ったあと、つぐみは嗚咽した。

声にならない声を聞いて杏子はまた、涙が突き上げてくるのを感じた。

ダメ。習慣になっている気持ちになった瞬間、

あっ。杏子は先ほどの栞代のウインクを思い出した。


そうか。だから、おじいちゃんを連れて行ってくれたのか。

杏子が泣き出した瞬間、空気がふっと揺らいだようだった。つばめも、そしてまゆも、瑠月も、誰一人として涙をこらえようとはしなかった。





「いや、あなたが録画をしてくれたおかげで、つぐみを、そしてみんなを助け出すことができたんじゃ。ほんとにすごい勇気じゃ、え~と、野蒔さんっ」


「杏子さんのおじいさんですね。つぐみ先輩からも聞いてます。なんでも、めっちゃ杏子さんを溺愛しているとか?」


「味方はいたのかい?」


「とにかく、杏子のおじいさんが居れば、杏子は絶対に守ってくれるはずだって、つぐみ先輩行ってました」


「おい、二人とも、全然会話がかみ合ってないぞ?」

栞代がそうつっこみ、三人は顔を見合わせては大笑いした。


なんの説明もなく、突然監督が交代したこと。この大会は臨時監督で挑むことになったが、詳細はまるで説明されていないことを、野蒔は祖父に伝えた。


祖父は、大会運営は選手を第一に考えたんじゃな。そして、厳敷高校の選手たちは大会に参加する権利があるから、とにかく終わってからじゃな、と伝えた。


野蒔は、監督が交代したことで、それでもう満足だと伝えたが、祖父は、それだけでは不満のようで、何が起こったから、何があったのか、きちんと公表して、第二第三の厳敷高校を出さないことが大事だ、と改めて言った。




「わたし、下手になったでしょ?」

つぐみが寂しそうに言う。

杏子はその言葉に一瞬、呼吸を止めた。

「……射型、強制されたんだってね」

「そうなんだ」

「でも、つぐみは、クラブを辞めることも出来たのに、わたしやみんなに、つばめさんに会うために、辞めずに頑張ったんだよね」

杏子はそういと「すごいね、ごめんね」とまた大粒の涙を流した。

「いや、なんで杏子が謝るんだよ。わたしはわたしの意思でやったんだ」

といいつつ、つぐみもまた泣いていた。


「わたしの方こそ、ほんとにごめんな」

ひとしきり泣いたあと、つぐみは言った。


「え? 何が?」

「杏子が、まさか個人戦であんなことするとは、夢にも思わなかった」

「ふふ。楽しかったわ」

「うそつけ。栞代が怒ってたわ。おじいちゃんに言われたんだろ? わたし、杏子はおじいちゃんが付いてるから、絶対に守ってくれると思ってたのに、まさか、こんなこと考えるなんて」

「つぐみ。わたし、つぐみをもちろん助けたかった。みんなも。でも、弓が好きだから、やったの。許せないって怒ったおじいちゃんが、嬉しかったの。だから、づくみのことは」

一呼吸おいて杏子は続けた。

「たまたま、なんだよ」

そう言って杏子はまた泣いた。

つぐみと杏子は、少し話しては泣き、泣いてはまた話をした。


そこに、徐々に敢えて空気を読まずあかねが参加し、会話を明るくし、いつのまにか笑いに溢れた。瑠月が安心したように微笑んでその様子を見ていた。


もう今日の涙は打ち止めになったと思った時に、栞代が祖父と野蒔を連れてやってきた。


反対側に連れて行ってたらしい。


「あっ、栞代、つぐみとはもう話したの?」

「ああ、もうたっぷりとな。」

そう言うと、栞代は、杏子のまっ赤な目を見て、ウインクした。


おじいちゃんはつぐみの姿を見ると、

「おー、つぐみ~、痩せたな~。寮の食事は美味しくないに決まってるからのう。また、いつでもわしが鍛えたおばあちゃんの美味しいご飯と、わしの紅茶を飲みにこいよ、必ず」

「鍛えたってなんだよ・・・・。いや、おじいちゃん、倒れたんですよね? 元気そうで良かった。そのせいなんですよ、わたしが痩せたの。おじいちゃんのことが心配で心配で……ご飯が喉を通らなかったんですよねえ」

「うう、やっぱりワシは罪深き男よのう。美しき孫娘たちに心配されるとは。のう、栞代」

ついさきぼと栞代に言われた言葉を使い、栞代の方を見る。

「まったく意味は逆だ」と栞代は突っ込む。

「わしはもうすっかり大丈夫じゃ。だから、必ず遊びに来るんじゃぞっ。なんなら住み着いてかまわん。わしの面倒を見るのは、ぱみゅ子と栞代とおばあちゃんだけじゃ、少し手薄じゃからのう」

軽口を叩く祖父だったが、事情を知っている祖父の目には、少し光るものがあった。


久しぶりに会う仲間たち。

話は止まることがなかった。


「勉強にはなったと思う。実際に杏子の基本の射型、でもあったからな。

でもやっぱりわたしは、麗霞と同じ射型がぴったりくる。それで麗霞を超えたいんだから。もう監督も居ないし、そもそも、総体出場が決まった時に、元に戻す準備はしてたから、明日からは、元の射型に戻す。」

「でも、今日は違ったよね」

「ああ、今日は、サヨナラ公演だよ。今日の結果だと、光田高校と会うのは決勝だな」


栞代が

「でも、その前に厳敷は鳳城高校倒さないとあかんやん」

「ああ、だけど悔しいけど、強制で暴力的ではあったが、実力はあったからな、苧乃欺監督は。だから余計に反発もしたんだけど。うちのみんな、やっぱりそれなりに力付いたからな。それにも一度生まれ変わった、転生したわたしだろ。麗霞に一泡も二泡もふかせてやるぜ。わたしたちより、光田高校が心配だよ。わたしが原因とはいえ、杏子が参加できないだろ。鳴弦館高校の篠宮、あいつ、性格は変わってるけど、矢はとにかく凄くて、世間では、麗霞を倒す候補筆頭らしいじゃん。ざけんなっての。それはわたし!」

もうすっかり強気一辺倒なつぐみが戻ってる。

杏子は懐かしいつぐみ節を、嬉しそうに聞いていた。


「いや、つぐみ」

「なんだよ、栞代」

「こちちも、杏子が団体には出られないって分かってからは、オレらで全力でやるって決めてんだ。杏子は居ないが、うちは相当やるぜっ」

「ああ、冴子さんが特に気合入ってるな。絶対に決勝で会おうな」


つぐみは栞代と固く握手をし、野蒔と共に厳敷高校のメンバーのもとに帰って行った。


「少し話しただけなのに、もうすっかり前のつぐみに戻ったな」

「うん。強敵だね」

「杏子、お前のために必ず優勝してやるから、任せとけ」

「わたしのため?」

「そう。そして、みんなのためにっ、我が愛する光田高校弓道部のためにっ」

その芝居がかった栞代の表現がおかしくて、杏子はケラケラと笑った。

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