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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
2年生
166/433

第166話 団体戦予選

個人戦が終わり、いよいよ団体戦だ。


個人戦は、雲類鷲麗霞が去年に続き連覇。個人戦では中学一年生の時から個人タイトルを取り続けている。2位、3位、4位は、紙一重で、日比野希、黒羽詩織、篠宮かぐやという並びになった。勝負が決したあと、篠宮が控室を出た瞬間泣きだし、慌てて日比野が慰めたら「昨日、直行のやろーがインスタに女の子との写真をあげてたのを思い出した~。もうわたしだめだ~」と言い出した。日比野が戸惑っていると、どこからともなく鳴弦館高校の主将鷹匠篝がやってきて、「お騒がせしました~」といいながら連れていった。


さらに後ろに控えていた真壁妃那の元へ走っていき、頭なでなでしてもらってた。


昨日日比野にその様子を聞いた栞代は、大笑いするとともに、真壁はきっと楽しいだろな、なんて杏子を見ながら思った。


体戦の朝。杏子と瑠月は、緊張気味の部員たち一人ひとりに声をかけて回った。拓哉コーチも、「いつも通りでいい。普段の射を思い出せばいい」と静かに語りかけ、空気を和らげることに努めていた。


高校総体の団体戦は「高校弓道界の頂点を決める最も重要な団体競技大会」であり、全ての学校・高校弓道関係者から最高の目標と位置づけられている。いよいよその高校弓道の最高の栄誉をかけての戦いが始まった。


公式での発表はなかったが、厳敷高校の苧乃欺監督は交代し、会場には姿を表さなかった。拓哉コーチに内々に伝えられたところでは、詳細の発表は大会終了後になるということであった。大会は監督を交代してそのまま続けられることになった。


コーチはその後、秘密厳守を言い渡された。杏子の祖父には「全ては大会終了後」と伝えた。


「特別許可なんじゃよ」と得意げに笑いながら、杏子の祖父は観覧席に座った。もちろん杏子隣に。嬉しさを隠しきれない祖父は、試合が始まっても、つい横の孫ばかり見てしまう。杏子はシツコツ小声話しかけてくる祖父を、実に上手くいなしている。


「でも、ぱみゅ子はやっぱりあっちが良かったんだよな」

競技開始前、最後にぽつりと祖父が呟いたのを耳にすると、杏子は小声で

「うん? だからここに居られるよ。みんなの弓が見ることができるよ」

と笑顔で返した。


さすがに競技が始まる時には、祖母から注意され、声は出さないが、いったい試合を見ているのか横にいる杏子を見ているのか分らないぐらい前を見ていなかった。


この調子じゃ、杏子を失格させることが良かったと思いかねないな。絶対に栞代に報告しよ。

まゆはそんな二人を見て強く思うのであった。


杏子は、試合に出場していたら見ることができない、都道府県の代表者の射型を見ることができて、実にご機嫌であった。


杏子の目がふっと輝く瞬間に気づいた祖父が、ようやく前を向くと、そこには雲類鷲麗霞率いる鳳城高校、そして篠宮かぐやの鳴弦館高校の姿があった。


杏子ばかり見ていた祖父は、杏子の目がふっと輝く瞬間があることに気がついた。

ようやく前を見ると、雲類鷲麗霞率いる鳳城高校、そして篠宮かぐやの鳴弦館高校の姿があった。


そろそろかな。杏子がそう思った瞬間、

「あっ……」

小さく漏れたまゆの声に、杏子が顔を向ける。そこには、厳敷高校の選手たちの姿があった。


つぐみの姿が見える。光田高校時代のつぐみを知ってるまゆと瑠月は、少しショックを受けているようだ。

だが、弓を引く姿を見て、杏子はさらに大きな衝撃を受けた。話には聞いていたが、雲類鷲麗霞を目標に、同じ射型で弓を引いていたつぐみが、射型を変えていた。あんなに自分の射型に誇りを持っていたのに。


成績も、杏子が知っているつぐみではなかった。

麗霞を超えたい。そう思い、練習の時でも、試合の時でも、どんな時でも、迫力を感じさせた姿はそこにはなかった。

「整いすぎている」というか「機械的で心が感じられなかった」。それでも、手堅くまとめていたのは、さすが、だとは思ったが、いったいどんな気持ちで弓を引いているんだろう。そう思うと杏子は突き上げてくる涙を、祖父の前では見せないように、必死で堪えていた。横で瑠月は静かに泣き、杏子の手をそっと握った。


祖父はそれでもつぐみが気になるのか、前を向いていた。良かった、と杏子は思う。

「あれ? つぐみ、ちょっと痩せたか?」



そして、光田高校の姿が見えた。

観客席の光田高校弓道部、みんなの気持ちが盛り上がっているのが伝わる。

杏子と瑠月はお互いを会う支えあうように、しっかりと手を握り直し、祈っていた。


最初は栞代。ゆっくりと歩を進める彼女の背中は、静かで、しかし芯の通った緊張感をまとっていた。射型は美しく、的心に吸い込まれる矢が、会場を静かに震わせた。


よしっ。杏子は心の中で呟く。最初の一矢。自分が一緒に立っている時も勇気をくれたが、こうして見ていると、最初の栞代の一射が持つ意味の大きさ、そして緊張が分かるような気がした。


続いて、沙月。本番に少し弱い、となにより彼女自身が思い込んでいるところがある。いつもよりわずかに硬さを見せ、ギリギリで外す。


沙月さん、落ち着いて。自信を持って。


冴子は、部長としての気概を持って射場に立った。風格すら漂わせながら放たれた矢は、堂々とした弾道を描き、的を突いた。観客席のどこかから小さく感嘆の声が漏れた。


さすが冴子さん。いいぞっ。瑠月の手に力が入ったのが分かる。杏子も祖父側の手で小さくガッツポーズをした。


そして紬。相変わらず表情が変わらない。それが彼女の持ち味だ。いつもの通り冷静ではあったが、矢は惜しくも外れる。


だが、紬は全く動じていない。杏子は、その姿に、自分を見ているような気持ちになった。たまたま、だもんね。


そして、つばめの順番が来た。


杏子はその姿を見つめる。いろんなことを乗り越えてきたね、つばめ。お姉さんとはもう話したのかな?

ずっと頑張ってきた姿を、絶対にお姉さんは見てるよ。


つばめは深く息を吸い、弓を握る。

弽を嵌める指先が震えていないことに杏子は気づいた。

(大丈夫。つばめ、ちゃんと立ててるよ)


つばめが弓を引く。その姿は、ずっと知っているつぐみのそれだった。力強さでは少しお姉さんに届かないけど、お姉さんは凄かったからね。


一射、真っすぐに矢は飛び、見事に的を射抜いた。


光田高校の応援席から、短い拍手が鳴った。


瑠月と杏子は、思わず離してしまった手に気がつき、目を合わせて笑った。



光田高校は、冴子と栞代が皆中、つばめと紬が3本、沙月2本の合計16本という好成績を収めた。


結果、予選で5位グループ。大会規約により、6位相当扱いで決勝トーナメントに進出となった。

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