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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
2年生
152/433

第152話 表彰と肝だめしと団欒と

試合が終わり、陽も少しずつ傾き始める頃。

ざわつく部員たちの前に、審判を務めていた深澤コーチが立ち上がる。普段は少し飄々とした印象だが、今日は作り顔ではあったが、重々しい表情で口を開いた。


「さて、本日の部内試合、みなさんお疲れさまでした。まずは結果の発表に参りましょう」


部員たちが息を呑む中、深澤コーチが紙を手に読み上げる。


「第一位、男子コーチチーム、16本。第二位、女子コーチチーム、15本。……と、まあ、なんの面白みもない結果になりました。とはいえ、弓道は常に全力である、という精神は本当にお見事でした。その姿勢、矢の力、などはやはり一流のものです。みなさん、大いに盗んでください。」


一拍置いて、笑いが起きる。


「来年はもう少し的を小さくしようかと考えています。あるいは、もういっそ失格にしようかとも……思いましたが、それもアレですので、両チームのご健闘を称え、こちらを贈呈いたします。みなさん、拍手をお願いします」


大きな拍手の中、深澤コーチはにっこりと笑いながら、封筒を二つ取り出した。それぞれ草林コーチと江原コーチに手渡した。受け取った両コーチは首を傾げながら中を確認し――


「な、なんだこれは!?」

草林コーチが思わず声を上げ、カードを掲げて見せた。


『有効期限:本日中

内容:家事・炊事・洗濯・掃除権利/食事当番権利券 譲渡不可能』


「えええっ!? なんで我々が!?」


動揺するコーチ陣をよそに、部員たちは歓声を上げて盛り上がる。


「うわー!やったー!」「今日は何もせんぞー!」「ありがとう!草林コーチ!!」


深澤コーチが涼しい顔で言い放つ。


「今日は部員たちに骨休みしてもらおうと思ってね。まあ、コーチもみなさんのために、自主的にやろうとされてたと思いますが、照れもあるでしょうから。これで義務です。法的効力は……知らんけど」


江原コーチは苦笑しながら、「覚悟はしてたけど、こう来たかあ……」と小声で呟いた。


「さて、続いて第三位。女子、インターハイチーム。おめでとう」


冴子が代表して封筒を受け取り、中を確認する。中に入っていたのは、カード一枚。


『本日のおかず選定決定権』


「おおおおーっ!」


どよめく部員たちの中で、すかさず声が上がる。


「やっぱエビフライでしょ!」

「いやいや、ここはお寿司っしょ!」

「すき焼きだろ、やっぱ!」

「ビフテキぃ!」

「カニ道楽行こうぜ!」

「どこにあんだよっ」

「フカヒレの姿煮!」

「アンコウ鍋は!?」

「シャトーブリアンいっちゃう!?」


「やめとけ。おかずや言うてるやろ」

爆笑と混乱の中、冴子が落ち着いた声で言う。

「じゃあ後で全員の希望を聞き取って、ちゃんと集計して決めます」

「真面目すぎるっ!」

そんな喧騒を横に、杏子が祖父に尋ねる。

「おじいちゃん、シャトーブリアンってなに?」

「こりゃぱみゅ子。一番高い牛肉じゃ。毎日食べてるフリをしなさい」

それを聞いて栞代は笑う。そしてソフィアがそっと杏子に耳打ちする。

「杏子、フィレミニョンってもっと珍しいお肉もあるのよ」



さらに深澤コーチは特別賞として、男子に、通称“シマトリオ”に言及する。


「真嶋、矢島、菊島の三年生コンビ――じゃない、トリオには、友情と努力への敬意を込めて、特別賞を贈ります。矢島くんの全国大会出場は本当に素晴らしく、合宿後半も強度のある練習が続きますが、真嶋くん、菊島くんは、これが引退試合となり、合宿の残りの期間は、みなさんの裏方と、勉学に勤しむことになります。みなさん、大きな拍手をお願いします」


保護者や部員たちから大きな拍手が起きる中、封筒が手渡された。


「お。ちょっと重いぞ。これは……なんか、めちゃくちゃ緊張するな」


真嶋が封筒を開けると、中には英語の問題集と、手書きの小さなカード。


『この問題集を合宿中に完璧に仕上げたら、一緒にお茶を飲んであげます。江原より』


「え、これって…マジで?」

男子部員が騒ぎ出す。

「デート券か!?」「マジで!?」「俺にもくれ!!」


女子部員からは冷ややかな視線が突き刺さる。


冴子はため息混じりに呟いた。

「男って単純で、いいよねぇ」


試合の後、夕食までの時間は、家族参加型の「肝試し改め、散歩大会」が行われることになっていた。


今年は夜ではなく、夕方の明るい時間に開催され、道のりにはまゆお手製のオリジナルキーホルダーが置かれている。光田高校弓道部のエンブレム入りで、控えめに光るそれを見つけるたび、部員やその家族は笑顔を見せていた。


そしてその間、食事の準備は女子コーチ陣の役目となっていたのだが、そこへ問題が発生した。


「コーチのみなさんにそんなことさせられません!」

「私たちがやりますから、コーチは休んでてください!」


意気込む保護者たちの申し出に、コーチ陣が一瞬ひるむ。


「い、いえ、それは……」

「いえ、大丈夫です。お気持ちだけ受け取ります。今日はご家族とのひとときを優先してください」


押し問答の末、最終的に数人の母親・祖母が交代で厨房に入り、指導役の神楽木の下で料理に腕を振るうこととなった。厨房に入りきれない保護者たちは、外でテーブルを拭いたり、配膳を手伝ったりと和やかな雰囲気で協力していた。

また、リーサが手元の材料で簡単ながら和菓子を作ることになり、杏子の祖母も協力した。


一方、保護者が来ていない部員も何人かいた。

だが、彼、彼女たちの元には、しっかりとコーチたちが寄り添い、今日に限っては厳しい面は一切見せていなかった。食事もともにしていた。


「こっちはこっちで盛り上がりましょう」

白石コーチが優しく言うと、にこりと微笑んだ。


「先生方に囲まれてるなんて、むしろ緊張します」

「あら、じゃあもう一人増やす?」


「わあ、それは勘弁してください!」

場が笑いに包まれる。


そして夜――宿舎の個室を使える家族はそのまま、今日に限ってはいろんなルールが解除されていた。


杏子は、祖父母、そして栞代と四人で布団を囲み、他愛ない話をしていた。


「栞代、すまん。気を使わせて」祖父が栞代に伝えると

「いまさら気を使うことねーよ。こっちの方こそ、混ぜてくれておおきに」

「栞代、ぱみゅ子を頼むな」

「あらためなくても。その代わり、フィレミニョンな」

「聞いてたのか」


青くなる祖父をおいて、穏やかな笑い声が包む。杏子は布団の中でそっと頷く。


どの部屋にも、同じように家族の時間が流れていた。けれど、来られなかった部員たちもそれぞれ集まり、特別な部屋でしっかりとコーチが寄り添っている。


光田高校弓道部の合宿七日目。折り返し地点。

もういちど、ここから改めて総体に向けて。


温かな光に包まれたこの日が、皆の心に残る一日となったことは間違いなかった。

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