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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
2年生
150/433

第150話 保護者参観日

朝の光が差し込む道場に、少しだけ緊張感が漂っていた。今日は合宿七日目――つまり保護者参観日。普段の稽古とは違う、見られているという意識が、どの部員の背中にもほんの少し力が入ることだろう。

弓道は精神、集中力が必要な競技。

こうした経験も練習になる。


一番乗りでやってきたのは、もちろん杏子の祖父母だ。

「ぱみゅ子がんばれ~」

という祖父の心の声にも、ちゃんと杏子は反応する。

あ、おじいちゃん来たな。栞代は杏子の様子を見ただけで分かる。幼稚園児のように、いつものニコニコ顔が、ニッコニコ顔になる。

祖母はにこにこと座布団を整え、早くも見学モードに入っている。


続いて、あかねの母が現れ、次に紬の両親、つばめの母、まゆの両親――と、少しずつ控えめに、でも心配げに門をくぐってくる。冴子や沙月の親も揃い、午前練習のころには、見学席はにぎやかな応援団席のようになっていた。


そして、どこか異国の香りをまとった風格ある老紳士が道場に入る。「ソフィアの祖父・エリック」だ。端正な姿勢で座し、杏子の祖父と小声で「どうも」「どうも」と挨拶を交わす。


午前の練習は普段通りに行われた。けれども、始めての体験の一年生はどこかぎこちない。普段は声をかける真映も、今日は黙々と弓を引き、楓は集中しすぎて引き終わった後に座り込んでしまう。「緊張してるなあ」と冴子が小声で笑い、沙月は「見られてると思うと、普段できることができなくなるの、あるあるやな」と言って、下級生に小さく親指を立てた。


そして冴子、沙月、杏子の三人は、遠的の練習に向う。

それぞれの保護者も一緒に移動し、瑠月と合流する。

瑠月は母が来ており、それぞれの保護者に、蓮遥祭弓道大会への参加のお礼を伝えているようだ。


遠的は、また近的とは違った気持ちよさがあり、それぞれが楽しそうに弓を引いていた。

弓を引く、という本来の楽しさはもしかしたら、こちらの方があるのかもしれない。


午前の練習が終わり、着替えたあと、それぞれの保護者の元へ向う。

祖父母の元へ向かった杏子。


「お~、ぱみゅ子~、調子はどうじゃ?」

「うんっ。すごくいいよ。おじいちゃんとおばあちゃんは大丈夫?」

「そうじゃのう。家が静かで退屈じゃのう」

「ちゃんとお散歩してる?」

「大丈夫よ、杏子ちゃん。ちゃんと見張ってるから」

そうこうしているうちに、栞代も合流。

「な、なんか栞代、たくましくなったな」

「そこはおじいちゃん、綺麗になったと言うところだろ」

いつもの調子だ。


お昼は、父兄と部員が一緒にとるお弁当スタイル。あかねの母が「いっぱい食べてね!」と巨大なおにぎりを差し出し、紬の父が妙に専門用語を使って杏子に質問してくるのを、杏子はにこにこしながら応えていた。


午後からは、交代で合宿後半に指導する臨時コーチたちが到着。

江原順子、徳永由実、そして草林吾朗、大和慎吾――おなじみの顔ぶれに、二年生たちは「今年も来てくれたんだっ!」と、ちょっとだけテンションが上がる。


「みんなの成長、楽しみにしてるぞ」と草林が言えば、

「杏子ちゃん、あなたは去年より何段も射型が整ってるわね」と徳永が目を細めて言う。

大和は相変わらず穏やかに、「力を抜いて、丁寧にね」と伝え、江原は「一人ひとり違って、それでいいんだよ」と、緊張を解いてくれる。


父兄のいる前で、こういうコーチ陣の安心感は、なにより部員たちの背中を支えてくれる。


そして午後。いよいよ、試合形式で、保護者に見てもらう。

その形式が発表された。審判、進行、は去年同様深澤コーチ。

コーチからごく簡単な説明があった。


部員の数が揃わない点があるので、1年生男子チームに、真映が加わることになった。

真映は「お前ら緊張するなよ」なんてすっかりリーダー気取りだ。


男子は3年生の矢島が全国大会への切符を取り、本来は参加する必要がなかった引退した3年生の矢嶋と菊島も協力したいということで合宿に参加しており、試合形式は最後ということで、盛り上がっている。


男女コーチチームに、ハンデが課されるのも去年と同様。

遠的チームは4人で組まれ、また予選を意識して一人8射ということで、数の上では有利ではあったが、練習量の違いから、そこもハンデとして横一線に計算する。


そして去年は見事に女子チームがハンデがあったとはいえ、コーチチームを破り優勝し、見事に部員全員にエビフライ、そしてチームにはその食べ放題という賞品があったが、今年は、もっと多くの賞品の用意があるという。


そして、その賞品は、順位を決定したあとに発表という。

合宿という場所の性格上、レクリエーション要素が強い。


だが、もちろん、弓を持てば、真剣そのもの。


父兄たちは拍手の準備、ビデオカメラの構え、そしてときおり「がんばれ~」の声援。


杏子が構えると、祖父は「正射必中じゃ。いけ、ぱみゅ子!」と叫び、エリックが「ぱみゅ子とは誰のことだ?」と小声で尋ね、杏子が顔を真っ赤にする。


いつもは応援も厳格な弓道だが、このときばかりはゆるゆるだった。


コーチたちの射は、さすがに安定している。普段一緒に居るが、めったに見ることの出来ない、滝本顧問、そして拓哉コーチの矢の確かさに、部員のみならず、保護者の間からもため息が漏れた。

つぐみが拓哉コーチの射型を、なぜか自信満々に自慢してたっけ。

今年は姿がないつぐみを思い出して、杏子は少し感傷的になった。

でも、そのつぐみと今度の高校総体では会える。

そのことも、この合宿での杏子の快調を支えていた。


ここまでが、長いようであっという間だった七日目。

光田高校弓道部の夏は、確かに「今、最も熱い場所」にあるのだった。


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