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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
2年生
147/433

第147話 部長は見た。 ~合宿一週間、うちの部員たちはこうなった~

合宿も明日で折り返し。

去年の今頃は、三年生との微妙な緊張感と、三年生に絶対負けたくないという思いがあって、胃を3割ほど縮めて過ごしていたけど――

今年は、あの時みたいなギラギラした空気は、ほとんどない。


むしろ、ちょっと拍子抜けするくらい“平和”だ。

仲間同士、誰かを蹴落としてやろうなんて空気は一切ないし、誰も手を抜いてない。みんな真面目で、黙々と弓を引いている。

沙月と瑠月さんも、しっかり引っ張ってくれている。瑠月さんは年上だけど、ちゃんと“同級生”って意識で動いてくれるのがありがたい。

瑠月さんは遠的オンリーで、私と沙月と杏子はローテーションで遠的練習をする関係上、ペアでの練習がなんか新鮮で楽しい。

私が遠的する時、練習は沙月が中心となってくれてるのも、助かる。


去年は花音さんの思いを尊重したけど、簡単じゃなかったな。

でも、杏子が居たからインターハイに行けたし。もちろんつぐみの力も大きかった。でも、その杏子が最初に手を引いて、それに気付いた沙月とつぐみと私が「じゃあ自分も」と引いた結果、三年生に全員譲ったという形。

まあ、その鬱憤をブロック大会で見事に晴らしたんだけど。


でも、杏子はまるで気にしてなかった。あいつは、ずっと“姿勢”のことしか考えてない。自分の射がちゃんとできているかどうか、いつもそれだけ。

自分が出るとか出ないとか、勝ち負けとか、そういうことに全然執着しないんだよな。

それがまた、逆に悔しくて、あたしも沙月も「じゃあ見せてやろう」って燃えてた。

けど正直、去年は「実力では私たちの方が上」って、ちょっと意地もあった。だからこそ、練習もピリピリしてて。


自分でもびっくりするくらい、ギラッギラに燃えてた。「あたしがあたしを見せてやる!」ってやつ。

……今はその“ギラ”が、なぜかない。


別に気を抜いてるわけじゃない。むしろ練習時間は減ってるけど、密度は濃い。疲労感もそこそこある。

でも、なんか“敵”って感じじゃなくて、“仲間”になってるんよね、全部員が。

このチーム、変なトラブルも無いし、なによりみんな真面目。

逆に言うと、部長の出番が減って寂しいまである。誰かもっと問題起こして?(やっぱいいわ)


…でも、あの競い合いがあったからこそ、三年生も、私たちも、全員めちゃくちゃ強くなった。

だから今年は、その成果を証明したい。目指すは、全国優勝。打倒・鳳城高校。

今年こそ、あの白い道場に立つんだ。杏子と一緒に。それが、あたしと沙月が一緒に的前に立てる最後のチャンス。逃したくない。


さて、でもなんといっても今年は今年でいろいろとある。


たとえば――


事件その1:杏子、自由時間を練習で潰すの巻。


あいつ、本当に趣味が弓道しかないんじゃないの?ってぐらい、黙々と弓引いてる。

しかも、つばめとまゆの練習まで丁寧に見てくれてて、自分の練習時間がどんどん削れてる。だから自分の練習は自由時間にやってんの。なんかそれ、逆だよな?


栞代がずっと杏子に寄り添ってるから、栞代の負担もすごい。

そこで、沙月が考案してくれました。“杏子当番”。

当番制で、誰かがちゃんと杏子の練習につきあう。まあ、見てるだけでいいんだけど。

やっぱり弓道は一人じゃ危ない、というのもあるけど、じっくりと杏子の姿勢を見るのは、何よりも練習になる。

杏子の姿勢が、やっぱり弓道部の柱になってる。

特に栞代は、矢数がすごい。もう肘が消し飛ぶんじゃないかと心配。

杏子の夢、全国優勝を一番叶えたいのは、栞代だと思う。



事件その2:沙月、部長の健康を管理し始める。


沙月、たまに私の顔をじーっと見てくる。「何見てんの?」って聞いたら「いや、冴子が疲れてそうだったから…」

やめて。そういうこと言われると急に疲れが出るから。


でも頼りになるんよ。コーチミーティングだって、ずっと一緒に出てくれてる。瑠月さんも練習の様子を知りたいからって一緒に。結局三年生全員でコーチとミーティング。

去年は花音さんがひとりで全部回してたんだと思うと…ほんと申し訳なさすぎて、空に向かって謝ったよ。「すまんでした」って。星しか返事くれなかったけど。

花音さん、天国じゃなくて大学で元気ですか?



事件その3:一、二年生、今年もキャラが濃い。


つばめ、杏子の後ろをストーカーのごとく追いかけてる。なんかもう、野良猫が懐いた感じ。姉に追いつけ追い越せで、杏子を全部盗もうとしてる。杏子も「私も妹ほしいな」って言ってたけど、いや、お前姉感ゼロやろ。なんならお前が妹説まであるからな。


紬は紬で、ソフィアとセットで安定。あの組み合わせ、なんか“異文化交流”みたいで見てて楽しい。文化祭で展示やってくれ。


あかねと真映は、漫才師を目指してるのか?ってくらい掛け合いがキレてる。

「もうやめなよ〜w」「ええっ?なになに言ってんの〜?」って言ってから30秒後にはまた爆笑してる。真映がボケであかねがツッコミかと思ったら、逆だったりするから油断ならん。


まゆと一華は、マネージャー魂の双璧。

まゆは、今は堂々の選手兼任。体調と相談しながら椅子で弓を引いてて、それでも集中力がすごい。あれこそ“真面目”の権化。

一華はマネージャー魂が重すぎて怖い。あの調子じゃ、この世に存在する弓に関する書物、全部読破するぞ。

部員ノートも、今じゃ百科事典みたいになってて、見たら心が震える。理科年表かな?ってくらい情報ぎっしり。



事件その4:遠的練習、あたしもようやく前進。


蓮遥祭(遠的の大会)に向けて、やっと正規距離で弓を引けるようになった。

でもさ、このペースで本当に仕上がるのか不安はある。総体も控えてるし、どっちも本気でやりたいから、ちょっとコーチに相談しようかな。

それにしても、瑠月さんはやっぱりすごい。

確かに先に練習してたってこともあるけど。

黙って練習して、黙って当ててくる。まるで遠的のAI。いや、魂はこもってるんだけどね。


明日は、いよいよ父兄参観日と部内試合。

親が来るって、なんか小学生感あるけど、案外、嬉しいもんだよ。照れくさいけど。

何より、杏子と沙月とあたし、この3人が一緒のチームで試合に出られるのは、インターハイとこの部内試合だけ。

それだけでも、意味のある一日になると思ってる。


このメンバーで、また的前に立てることが、本当に嬉しい。

きっと、あの全国の舞台で――今度こそ、あたしは“主力”として、杏子と肩を並べて、全国優勝を掴む。

去年の悔しさ、杏子が出られなかった選抜大会。全部を超えていく。

そう決めてる。


全員の努力が結果として見える日。楽しみでもあり、ちょっと怖くもある。でも、部長として、ちゃんと見届けないとね。


さて、そろそろ戻ろうかな。

あたしの仕事は、弓を引くだけじゃない。“チームの空気を守る”のも、部長の役目。

たぶん誰も気づいてないけど、今日の味噌汁の塩分、微妙に調整したのは私です。あれでみんな練習中に喉が乾いて水分取って、結果、熱中症予防になる。

(…というのを、勝手に“気配りポイント”として換算中)


部長冴子、がんばってます。たぶん。



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