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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
2年生
137/433

第137話 ブロック大会の体制と瑠月の練習

梅雨の湿り気が空気を重たくしている放課後、光田高校の弓道場には、期末テストを終えたばかりの部員たちが集まっていた。幾分張り詰めた空気は、無事に全員が赤点を免れたという安堵感と、新たな戦いへの決意とが交錯していた。


杏子は試験の結果を確認した後、ほっとした表情を見せた。英語はぎりぎりだったが、ソフィアの的確なアドバイスと瑠月の根気強い指導のおかげで何とか乗り切った。あかねもまた、笑いながら「もう赤点はいややわ」と肩をすくめた。冗談めかしてはいるが、その瞳には達成感が宿っていた。


そして迎えた三者面談。静かで重々しい空気のなか、それぞれが自分の将来を少しずつ意識し始めていた。杏子は祖母との三者面談で、一応の希望を伝えていた。祖母は、高校卒業後、専門学校へ行き、実家を出て下宿生活をしたのだが、自分は祖父母と一緒に地元に残りたい、というものだった。

祖母は、杏子の好きなようにすればいい、とだけ言っていて、先日の夜、祖父が、側にいてくれ~っと相変わらずのことを言った時には、祖母は、全くしなくていい、と杏子に伝えた。


期末テストが終わると、弓道部はいよいよインターハイへ向けての練習が本格的に始まる。ただ、その前に、ブロック大会という、インターハイとは直接繋がらないものの重要な大会が控えていた。昨年、インターハイの切符を3年生に譲った悔しさを晴らすかのように、この大会では団体・個人ともに光田高校が頂点を制し、その名を轟かせたのだ。


杏子や冴子、沙月は、結局去年の部長の国広花音とは、県予選が最後に一緒に的前に立った以降は、団体戦を組むこともなく終わったことに、悔やむ気持ちが強かった。


だからこそ、今年は、瑠月、冴子、沙月の三年生は、できるだけ同じ舞台に立ちたいという思いが強かった。


インターハイでは年齢制限があり、特例を認めてもらおうと働きかけていたが、やはり規則の壁は高かった。しかしながら、インターハイとは直接繫がっていない、ブロック大会への出場は、認められた。


蓮遥祭弓道大会への出場が決まった今となっては、様相が異なってしまたが、インターハイに出場できないので、このブロック大会を、瑠月の公式試合としては引退試合になるかもしれないと思っていた。


だが、今は蓮遥祭弓道大会がある。とはいえ、それでも、冴子と沙月は、一緒に出たい、という気持ちが強かった。


けれども、やはり、というべきか、瑠月はきっぱりと辞退を申し出た。「わたしはもう、蓮遥祭弓道大会に全力を注ぎたい。遠的の練習もしたいし、やり切りたい。」


冴子と沙月は反対した。実力的にも、現在弓道部で杏子に次ぐナンバー2だし、出場する視覚は十分ある。それに、蓮遥祭弓道大会はあるとはいえ、今までずっと練習してきた近的、団体としての最後の試合を、共に戦いたかった。


杏子も、栞代も、そしてあかねも瑠月へ出場を促した。

瑠月がメンバーに入る場合、一年生のつばめはメンバーから外れるのだが、それでも、つばめまでもが「瑠月さんが出るべき」と訴えた。つばめの場合は、去年姉が大変にお世話になった、という気持ちもあった。


だが、瑠月の決意は揺るがなかった。「これは、インターハイへの貴重な体験の場であると共に、直接インターハイとは繫がっていない分、来年への財産にもできる大会。去年出ていない栞代ちゃん、紬ちゃん、あかねちゃん、そしてなにより、わたしがメンバーに入ることで登録できなくなるつばめちゃんは1年生のエース。彼女の貴重な公式戦の体験の場を、用意するべきだと思うの。

その言葉は、3年生たちにとっても重く、納得せざるを得なかった。


光田高校を、鳳城高校に並ぶような強豪校にしたい、常々、冴子、沙月、瑠月は話し合っていた。そのためになにができるのか、なにを残すべきなのか。


「でも、たぶん、蓮遥祭弓道大会に出られなかったら、ブロック大会には出させて貰ったと思う。でも、今は、ね」

そう言って瑠月は笑った。

瑠月の言葉に、皆が静かにうなずくしかなかった。

杏子はいつも自分のことしか考えていなかったことを反省した。自分の目標のために、結果的にクラブを強くする方向に向いていたけれど、自分が居なくなったあとのことなど、考えたことが無かった。


瑠月さんの思いを聞いて、私も変わらなければならない、と身を引き締めた。


そんな中、拓哉コーチが瑠月の遠的への取り組み方を報告した。


自分はブロック大会もそうだが、インターハイに向けて、部活を離れる訳にはいかない。そこで、今メンタルコーチとしてお世話になっている深澤コーチに来てもらうことにした、と。


今は現役は引退してはいるが、遠的の力も確かで、なにより、去年の瑠月の実力を飛躍的に伸ばしたのは、深澤コーチのメンタル指導があったからこそで、瑠月の信頼も大きかった。


瑠月が、心なしか安堵の表情を浮かべた。


さらに、と拓哉コーチは続けた。


去年の三年生、つまりは卒業生だが、国広元部長に相談すると、ぜひ協力させてほしい、という申し出を受けた。花音元部長は、今大学でまさに弓道をしていて、遠的も一から練習している。瑠月さんにとっても、相談しやすいと思う。


そして、OGたちが交代で付き添いを申し出てくれた。だから、隣町まで遠征して練習することになるが、大丈夫だろう。


「挨拶はちゃんとしろよ。」拓哉コーチの声に、皆が笑顔を見せた。


かつては衝突もあった卒業生たち。しかし、花音と瑠月が下級生との橋渡しをしてきた過去があり、OGたちもまたそのときの反省と、インターハイ出場という恩義があり、「支えたい」と心から願っていた。花音たちの存在は、瑠月にとって大きな励みとなった。


冴子と沙月も、本当に強い部活にするには、卒業生の協力は欠かせない、と思った。自分たちも卒業してからも協力したいと思っていたが、その道筋まで、瑠月さんがきっかけを与えたくれたことに、感謝した。


一方、ブロック大会まで事実上瑠月が練習に参加しないことによって、楓、ソフィアの練習は、杏子が全面的に担当したいと申し出た。


自分も、もっと積極的にならなければ、という思いが芽生えていた。


「その気持ちは本当に嬉しい。ただ、今までも瑠月さんが責任者という立場ではあったが、全部一人で見ていた訳じゃない。コーチも、そして我々も、今まで通り当然協力する。瑠月さんに変わって、練習計画などは任せるけど、一人で抱え込必要はないからな」


冴子からの言葉だった。栞代は、すぐにその気になるところは、やっぱりおじいちゃんの血を引いているんだなあ、と笑いを誘った。そして、紬に、「紬はどう思う?」と尋ねる。


「それはわたしの課題ではありません」全員で応えた。


試練を超えるたびに、人は少しずつ強くなる。弓道場の静寂の中、矢が放たれる音が未来への約束のように響いていた。



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