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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
高校入学から県大会
13/206

第13話 練習試合開始。杏子の衝撃。

「全員食事は終わったか?」


拓哉.コーチが全体を見渡しながら言った。

鳳城(ほうじょう)高校の合宿所での食事は、朝から試合を控えた彼らにとっても緊張をほぐす落ち着いたひとときだったが、その余韻も束の間、彼らは全員試合モードに引き戻された。


そして、男子は今日の朝から合流した滝本先生の元へ、女子は拓哉コーチの元に集まった。


それぞれ、今日の試合進行の予定と、メンバー、立ち順の発表を行った。


「それでは今日の予定を発表します。

男子の試合から先に行います。

最初に軽く練習をしたあと、そのまま試合です。。

女子は男子の試合が終わったあと、同じ順番で、練習、試合です。」


拓哉コーチは、一息ついて、

「先に伝えていた通り、女子は、通常は5人の団体戦になるが、今回は特別に6人の団体戦になります。」


コーチの一言一言が部員たちの心に重く響く。特に、今回の試合が団体戦の選手選考を兼ねていることもあり、部員たちの緊張感は増していた。コーチは視線を巡らせ、各自の表情を確認すると、続けて女子の立ち順を発表した。


「立ち順を発表します。特別に6人になるから、単純に順番で呼ぶことにします。」


拓哉コーチの言葉が場の緊張感をさらに引き締めた。


「1番は、」

コーチは一拍置いた。


部員たちに、少し緊張が走った。


高校弓道の団体戦では、単に力のある人を最後に置くだけでなく、チーム全体の戦略と各選手の特性を考慮して立ち順を決める。大前(最初)と落ち(最後)に実力者を置くことが多いが、チームの個人個人の個性を最大限に生かし、チームの総合力を最大限に引き出せるよう配置することが求められる。

そして、本来はその順番を、または何通りかの流れを、練習の時から試し、全体のチームワークを育てていくことが大事なのだが、今回はそこまでは着手していなかった。

本戦の選手選考を兼ねていることもあったとはいえ、性格に合わない順番に決まってしまうと、力が発揮できないということも多い。

コーチは慎重に熟考し、結果もっとも無難な選択をすることにした。


入部時から、旋風を巻き起こしながら、緊張する場面でも安定した射を見せてきた杏子、対する小鳥遊つぐみは、中学時代に全国準優勝という輝かしい実績があり、1年生でありながら、自身がチームのエースであるというプライドも高い。


優先したのは、つぐみの気持ちだった。杏子は、おそらく、順番には無頓着で、どの順番になっても、平常心で居られるだろう。


だが、対するつぐみを最後(落ち)から外した場合は、かなりショックを受けるに違いない。勝負をして明確に杏子に負けた、のならまだしも、二人が同時に的前に立つのは今日が初めてだ。

中学の全国準優勝、という実績は、やはり伊達ではない。そこはやはり尊重するべきだとコーチは考えたのだ。

団体戦の勝負、そして、性格を考えたときには、勝ち気なつぐみを大前(最初)に、動じない杏子を落ち(最後)にした方が理想だとは思ったが、少なくとも今日は、この順番がつぐみの力を発揮する鍵だと考えた。


「1番は、杏子さん、2番に奈流芳(なるか)瑠月(るか)さん、3番に国広花音(かのん)さん、4番に松島沙月(さつき)さん、5番に三納(さんの)冴子(さえこ)さん、そして6番に小鳥遊(たかなし)つぐみさん。以上の順番で挑みます。」


発表を聞いて、部員たちの中に様々な表情が見えた。コーチの思惑通り、杏子は特に表情を変えることなく、まっすぐに前を見つめていた。


そもそも杏子には、どこで打つか、順番のことは頭に無かったのかもしれない。彼女の頭の中にあるのは「正しい姿勢で射つ」ただ、そのことだけなのかもしれないとコーチは改めて思った。


その一方で、小鳥遊つぐみの顔には安堵の色が浮かんでいた。いつものように堂々とした様子を見せつつも、自分が最後に立つことで大役を任されたと感じ、身が引き締まる思いだった。彼女は、自分の誇りにかけて鳳城高校に一泡吹かせると誓った。





男子の試合が終わった。結果は鳳城高校が、18-13で勝利を収めた。だが、光田高校の男子部員たちは健闘し、伝統校らしい気迫で強敵に立ち向かった。立ち順が先立ちだったからだが、二順目の中(3番目)が終わった時点で同点、その後、落ち前(4番目)、落ち(5番目)が踏ん張ったので、二順目が終わった時点では同点だったのだ。残念ながら三順目で崩れたが、応援していた女子も大いに盛り上がった。

試合後、今度は男子部員たちは女子部の応援に回り、光田高校全体が一つとなって女子部の試合に臨むことになった。


ついに女子の試合が始まる。両校のメンバーが発表され、鳳城高校も全国大会制覇に挑む強力なレギュラーメンバーの有力候補を揃えていた。


鳳城高校のメンバーは、1番、圓城(えんじょう)花乃(かの)(2年)、2番、霜月(しもづき)夏帆(かほ)(3年)、3番、帆風(ほかぜ)秋音(あきね)(3年)、4番、草葉(くさば)冬花(とうか)(3年)、5番、羽山春美(はやまはるみ)(3年)、そして6番、雲類鷲麗霞(うるわしれいか)(1年)。


この並びに、光田高校の部員たちは圧倒された。中学時代から全国で名を轟かせた無敗の女王、雲類鷲麗霞の存在感は圧倒的であり、さらに3年生の4人は、偶然四季が揃う名前だったこともあり、「鳳城の四季」という愛称がある。昨年はBチームでありながら、鳳城高校のAチームと死闘を繰り広げた、これまた相当な実力者である。


試合の順番、先立か後立かは、遠征してきたこともあり、地元である鳳城高校が配慮し、光田高校が決めてよい、という申し合わせになったので、コーチは先立を選択した


杏子が中ててくれれば、続く選手のプレッシャーは軽減されるだろう。だが、外したら、総崩れになるかもしれない。初試合の杏子に対して、コーチもある種賭けに出たのだが、勝算は十二分にあると判断した。。


緊張感が徐々に高まっていった。場に張り詰める緊張感が増していく中、光田高校の大前(1番)、杏子が前に進み出た。


光田高校の大前(1番)、杏子。入場時にはかなり緊張している様子だったが、一旦弓を構えると、すぐに平静を取り戻した。その凛とした姿に、心配していた栞代が、杏子の入部直後を思い出していた。杏子の「正しい姿勢で射つことだけ」というおばあちゃんの言葉が、彼女の心を支えていることを知っている栞代は「大丈夫だ」と小さく呟いた。


杏子は弓を引き絞り、矢先をしっかりと見据えた。息を整え、わずかな乱れもない美しい動作で矢を放つ。静寂の中、矢が的の中央に命中する乾いた音が響き、光田高校のメンバーだけでなく、見学する鳳城高校の部員たちも一瞬息を飲んだ。


この緊張する雰囲気をものともせず、自分の射型のことだけを考える集中力。素晴らしい射だった。

「杏子はただ自分の射型を貫いているだけだ。まさに、それこそが弓道の本質なのかもしれない」と、コーチは心の中で称賛していた。杏子の背後には、弓道を教えてくれた祖母の姿が重なり、さらに中田先生の指導も確実に刻み込まれていることが感じられた。


そしてもう一人、そんな杏子の一矢を見て、驚愕した人物、それこそまさに雲類鷲麗霞、その人であった。


昨日、つぐみが口にした「秘密兵器」が杏子のことだったのかと理解した麗霞。昨日の前日練習の時は、1年生だったので、先輩の手伝いや雑用をしていて光田高校の練習を直接目にする時間はなかったが、今この瞬間、杏子の射型に心を奪われていた。


この緊張感の中の、最初の一矢。その中で見せた完璧な射型。美しい。

目を奪われる、とはこのことなんだと思った。


麗霞は中学時代から数々の試合で強豪の射型を見てきたし、また実家の道場でも、白鷲一箭流の名弓士と言われる人の姿も見てきた。だが、杏子の射型には特別な美しさがあった。その集中力と正確さ、そして凛とした佇まい、ほんの少しでも触れば壞れてしまうかと思われる繊細な美しさに圧倒され、思わず見入ってしまった。


今はまだ、力強さ、弓の鋭さには、わたしに分が有る。しかし、「これから彼女が力をつけていけば、どれだけの存在になるのだろう。わたしがほんの少し油断ですれば、彼女は間違いなく、たちまち追いついてくるだろう。」麗霞は杏子の一矢を見ただけであったが、未来の脅威を感じずにはいられなかった。

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