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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
2年生
126/433

第126話 県大会へ、部内試合へ

県大会に向けての練習が始まった。

地区予選とは違う。1位だけが全国に行ける舞台。

その重みが、弓道場の空気をじわりと染め上げていた。


杏子は、いつも通りに的を見つめている。

わたしにできるのは、正しい姿勢で弓を引くことだけ。

あたるかどうか、勝つかどうかは、ただの結果。それは杏子の中でずっと変わらない。


けれど、その隣で矢を構える栞代は違った。

額に滲む汗を拭う間もなく、視線は遠くを見つめていた。


「栞代、どうした?」

冴子が声をかける。

冴子もまた、弓を持つ手がどこか重たかった。


二人とも分かっている。

今度こそ、自分たちが勝たなければならない。

昨年度の選抜大会、全国3位。

けれど、それはつぐみを失い、さらには杏子まで欠場し、火事場の馬鹿力とでも言って良かった。

そして、瑠月が居てくれた。瑠月がエースとして支えてくれたから、結果をだせたんだ。

前だけ向いていれば良かった。ダメ元。欠場した杏子のために、そんな思いでいっぱいで、あたるかどうかなど、迷いはなかった。やるだけ、だったんだ。


だが、今回は違う。

自分たちがチームを背負わなければならない。


負ければ敗退というプレッシャーがそれほど無かった地区予選でさえ、激しい緊張を経験した。

あれ以来、本当に私がレギュラーを務めていいのか、というところまで追いこまれた。


翌日、川嶋女子高に行った時は、いつも通りの矢だった。

問題は気持ちだけ。努力をしてきた、積み上げてきた技術は間違っていない。

すぐに気持ちを切り換えることができたのは、川嶋女子に連れて行ってくれた、杏子のおかげだ。


だが、部内試合を前に、また不安が沸き上がる。



「栞代。なんか顔が恐いよ。」

杏子のその何気ない一言に、栞代は動きを止めた。


「杏子、杏子はいったいどうなってんだ?」栞代が突然問いかけた。「なんでそんなに安定してあたるんだよ。緊張とかしないのか?」


栞代の声には、焦りと羨望が混ざっていた。選抜大会で、団体とはいえ全国3位という輝かしい実績を持ちながら、今回の県大会に向けて不安を吐き出した。


「つぐみの言ってたことが、今なら本当によくわかるよ」栞代は続けた。


杏子は首を傾げた。

「あたるかどうか、だから、勝つかどうか、だね。それはもうただの結果だから。私のできることは姿勢を正しくすることだけ」


「それがオレにはできないんだよ」栞代はため息をついた。


「そうなの?」杏子は純粋な疑問を浮かべた。まっすぐ栞代を見つめた。

「弓を引くのが大好きなんだ」


「好き?」

「うん。静かな気持ちになってほかのことは考えない。姿勢のことだけ。その瞬間がすごく好き」


栞代は杏子の言葉を聞いて、初めて杏子の弓を見た時のことを思い出した。同じ言葉だった。

ずっと杏子は変わらない。


意地悪く栞代は言った。「おじいちゃんの干渉を忘れられるもんな」


「栞代~。だから、違うんだって~」杏子が頬を膨らませる。


この、いつものたわいないやりとりが、少し、栞代の心を軽くした。


そうだな。杏子に誘われ弓を始めた。そしてオレもいつしか弓が好きになった。だから頑張れた。

弓を引く、そのことだけを楽しめばいいんだ。




冴子の葛藤


一方、弓道場の隅では冴子が黙々と素引きを繰り返していた。


冴子は、弓を握りしめながら、

地区予選で崩した自分の射を思い出していた。

翌日の川嶋女子高との練習試合では上手くいった。

でも、大会本番になると、心が揺れる。


「今度こそ、ちゃんと勝ちに行かないと」


彼女の心の中で、その言葉が繰り返し響いていた。選抜大会の時とは違う。あの時は「杏子のために」という思いと、「ダメ元」という気軽さがあった。失うものがなかった。


だが今は違う。前回の実績があるからこそ、プレッシャーがある。地区予選で調子を崩したことも、彼女の自信を揺るがせていた。


「本当に自分がレギュラーでいいのか?」

胸の奥に、小さな疑問が芽生える。


その思いが、矢を放つたびに頭をよぎる。


ふと栞代を見る。「大丈夫だよ」そう声が聞こえた気がした。

けれど、栞代自身も多分同じ迷いを抱えている。



沙月の決意


「冴子、もう準備はいい?」

沙月が声をかけてきた。同じ3年生として、二人は特別な絆で結ばれていた。


「ええ、大丈夫」冴子は笑顔を作った。


沙月は冴子の表情から、彼女の不安を読み取った。

「最後のチャンスだからね。私たち」

「そうね」


「だから、悔いのないようにしよ」沙月の目は真剣だった。

「私は絶対にメンバーに入りたい。これが最後だから」


冴子は沙月の決意に、自分との違いを感じた。沙月は「出たい」という純粋な思いがある。自分は「勝たなければ」というプレッシャーがある。

揺れる心、交わる思い




あかねとまゆの絆


部室では、あかねが服装を整えていた。手が少し震えている。


「あかね、大丈夫?」まゆが優しく声をかけた。

「うん...でも、..」あかねの声は不安に満ちていた。


まゆは微笑んだ。「あたしは出られないけど、あかねがその分頑張ってくれたら、それで十分だから」


あかねは驚いて顔を上げた。まゆの目には涙が浮かんでいたが、笑顔は揺るがなかった。

「...いつか、一緒に試合出ような」あかねは拳を握りしめた。




紬の静かな強さ


紬は一人、的前に立っていた。彼女の表情は穏やかで、周囲の緊張感とは無縁のようだった。


「紬、緊張してないの?」あかねが不思議そうに尋ねた。


紬は小さく首を振った。「緊張しても、自分には自分にできることしかできない。それだけ」


その言葉に、あかねは少し杏子を思い出した。そういう割り切りが二人は似ている。爆発的な力ではなく、揺るがない安定感がある。



つばめの迷い


つばめは弓を手に、じっと的を見つめていた。


「つばめ、部内試合に出るの?」沙月が尋ねた。


「...まだ決めてないんです」つばめは正直に答えた。「個人戦に集中したいけど、でも...」


「でも?」


「みんなが苦戦してるのを見ると、私も力になりたいって思うし」つばめの目には迷いがあった。「でも、そんな中途半端な気持ちじゃ、結果は出せないとも思うし」



朔晦の悩み


朔晦真映は、自分の練習の矢が的を捉えているのを見て、ため息をついた。


「なんで...試合になるとあたらないんだろう」


彼女の呟きを聞いて、九一華が近づいてきた。

「緊張してるんじゃない?」


「私が?...」朔晦は自分の手を見つめた。「まるで気にしてないつもりだけど、本番に弱いのかな、私」


九一華は優しく肩に手を置いた。「大丈夫。マネージャーとして、しっかりサポートするから」




拓哉コーチがきて、県大会に出るメンバーを決める、部内試合の日程を伝えた。


「杏子」栞代が声をかけた。「さっきの話だけど...弓を引く、そのことだけを楽しめばいいんだよね」

杏子は笑顔で頷いた。


栞代は深呼吸をした。「私も、楽しんでみるよ」決まったからには。覚悟が決まった気がした。

その言葉に、杏子の目が輝いた。「うん!」


冴子と沙月


「冴子」沙月が弓を構えながら言った。「私たち、最後の県大会だね」

冴子は頷いた。「ええ」


「だから、絶対に後悔しないようにしよう」沙月の目は真剣だった。「私は全力で挑むわ」


冴子はその言葉に、自分の中の迷いが晴れていくを感じた。「そうね...私も」


そんなやりとりを、一抹の寂しさを抱えながら見ていた瑠月だったが、全員が力を出し切って欲しい。

心からそう願っていた。


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