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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
2年生
125/433

第125話 光田高校体育祭 後編

午前の競技が終わると、校庭のあちこちからお弁当の包みを開く音と笑い声が聞こえてきた。

シートを広げ、家族と一緒に昼食をとる生徒たちの姿もちらほら見える。


杏子は、栞代と木陰の涼しそうな場所を確保し、祖父母との合流に備え、シートなどの準備をしていた。


「杏子、頑張っとるな~」


満面の笑顔の祖父だった。

その大きな声に、杏子はちらりと顔を上げた。

手を振りながら、祖父母が合流してきた。

杏子を応援するためなら、どこへでも行く筋金入りのファン。

今日は体育祭なのに、相変わらず杏子愛全開で来ていた。


「おお、ええ笑顔しとるな!」

おじいちゃんは自慢げにガッツポーズを作り、隣で微笑むおばあちゃんが小さく微笑む。


祖父が大きな包みを広げる。

杏子の手元には、おばあちゃんが作ったお弁当が広がった。

卵焼き、唐揚げ、彩り豊かな煮物。ふわりと立ち上がる香りに、杏子の顔がふんわりほころぶ。


「杏子、たっぷりたべるんじゃ」

「ほれ、栞代もたっぷり食べんかいっ。」

そう言って、祖父は大きな重箱を広げる。


「おじいちゃん、さすがにこんなには食べられないぞ」

栞代はコンビニで買ったパンなどをカバンにしまい、杏子の祖母の作ってくれたお弁当を頬張る。


栞代はお弁当を持ってこれないかもしれない。心配した杏子は、念のために祖母に頼んでいたのだ。

杏子はほんのり笑いながら、お弁当を口に運んだ。

栞代と祖父は、いつもと同じ、軽妙なトークで、場を盛り上げていた。


その背中越しに、遠巻きのクラスメイトたちがひそひそと話している。


「あれ、杏子のおじいちゃん?」

「もうすっかり元気になったみたいだね」

「弓道の試合だけやなくて、体育祭にも来るんや」

こうして大事に思ってくれる人がいることは、杏子は感謝した。


その頃、紬とソフィアは、クラスメイトの輪に入って昼食をとっていた。

ソフィアは、フィンランドの家庭料理をお弁当に詰め込んできて、

「これ、食べる?」とあちこちに配っていた。


「ミートボール!フィンランドのやつ!」

「うまっ!」


周囲の男子も女子も、ソフィアのペースに飲み込まれている。

ここぞとばかりに群がってくる男子も多い。

紬はその隣で、おとなしくおにぎりをつまみながら、

「……本当に、すごいな」

と呟いた。


ソフィアは、紬にもミートボールを差し出す。

「ほら、Tsumugiも!」


「それは、私の課題ではありません」

と、つい口にしてしまったが、ソフィアのキラキラした目に負けて、

紬はミートボールを受け取った。


「……おいしい」

「でしょ!」


紬の孤独を許さないソフィアの勢いは、今日も変わらない。


あかねは、まゆと並んで、クラスの輪から少し離れたベンチに座っていた。

あかねはコンビニのおにぎりを豪快に頬張り、

まゆは小ぶりなお弁当を丁寧に開けて、ゆっくりと箸を動かしていた。


「ほんま、午前中は燃えたなー」

あかねが肩を回しながら言う。


「うん。声もすごかった」

まゆが笑うと、あかねはちょっと照れくさそうに頭を掻いた。


「まゆが見てくれてると、調子ええねん」


まゆは何も言わず、あかねの隣でゆったりと微笑む。

この空気が、あかねにとっては何よりの力だった。


そして、昼休みが終わると、午後の競技が始まった。

最後のクラス対抗リレー決勝。


予選を勝ち抜いたクラスが並び、再び歓声が上がる。

弓道部のメンバーは、それぞれ違うクラスで参加していた。


栞代が相変わらず張り切っていた。


結果は、真ん中くらいの順位だったけれど、

クラスメイトは意外と盛り上がっていた。


それぞれのクラスで、それぞれが走り抜けたリレー決勝。


どうしても弓道部のメンバーのことが気にかかる。いつもは同じチームで協力しあう仲間が、違うクラスに別れる体育祭は、こうして終盤へと向かっていった。


体育祭が終わり、夕方の柔らかな風が校舎の隙間を抜けていく。

熱気に包まれていた校庭は、すっかり静かになっていた。


その頃、弓道場には、ぽつぽつと部員たちが集まっていた。


杏子は、まだ競技の余韻が残る体で、いつもの場所――的の先を見つめていた。

疲れが心地よかった。

でもやっぱり、この静かな空気が一番しっくりくる。


「全員揃った?」

沙月の声が道場に響いた。


冴子、沙月、そして瑠月。三年生の顔ぶれ。

そこに、つばめ、真映、楓、一華の一年生たちが加わる。

普段よりは少しリラックスした空気で、けれど、ここは自分たちの場所だという感覚が漂っていた。


まゆは、車椅子でゆっくりと道場に入ってくる。

あかねがすかさず駆け寄って、手を貸す。

「大丈夫?ずっと外で疲れただろ?」


「ありがとう。でも、ここに来ないと、なんか落ち着かなくて」

まゆは微笑んで、座布団に腰を下ろした。


ソフィアは、まだ少し興奮が冷めない様子で、紬と話している。

「Tsumugi、私、玉入れも得意かも! 弓道の練習にもなるかもね!」

「……なる?」

紬が静かに返す。

でも、微かに笑っていた。


杏子は、ぽつりと呟いた。

「やっぱり、ここが一番、落ち着くなあ」


栞代がうなずきながら、矢筒を肩にかけた。


あかねは、まゆの隣に腰を下ろした。

まゆがそっと顔を向け、ぽつりと言った。


「今日、あかね、かっこよかったよ」


その言葉に、あかねは一瞬、照れたように視線を逸らす。

「……ちょっ、照れるやん」


「ほんとだよ」

まゆの笑顔は、柔らかくて、力強かった。


「十分身体もあったまってるやろうから、準備運動は軽めで行こう」

冴子が声をかけると、全員が自然と準備を始めた。


つばめは、的をじっと見つめ、楓と一華がその隣で支度を整える。

真映は「ほんまに私らえらいなあ。自由参加やのに、全員参加やん」と笑いながら弓を手に取った。


勝負じゃなくて、自分と向き合う時間。

それが、弓道の練習だった。


矢が放たれる音が、道場に響く。

昼間の喧騒とは違う、静かで、凛とした音。


杏子は、的を見つめながら、矢をつがえた。

正しい姿勢だけ。結果はたまたま。


そして、一本の矢が放たれ、的を射抜く音が、静かに響いた。


その音を、みんながそれぞれの場所で聞いていた。


体育祭の余韻は、少しずつ薄れていく。

けれど、ここには変わらない空気があった。


また、ここで会おう――そんな言葉もいらないほど、

自然とそう思える場所が、ここにはあった。


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