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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
2年生
119/433

第119話 合同練習試合 その夜 鳳城高校と鳴弦館高校と

一連の試合が終わり、鳳城高校の全勝という結果を受け取るしか無かった。


それでも光田高校弓道部は、まゆを中心に、お互いの健闘を讃えあう。


弓道場を出たところで、(いちじく)一華と、杏子の祖父母が出迎えた。練習試合だといえども、杏子の行くところには必ず出没するのが、杏子のおじいちゃんだった。


杏子はいつものように、おばあちゃんのところへ行き、今日の姿勢はどうだった? と聞くと、おばあちゃんもいつものように「とても綺麗だったわ」と返した。


栞代がおじいちゃんに向って。

「おじいちゃん、あの応援の一言、ちょっとだけかっこよかったぞ」

というと、おじいちゃんは

「栞代はまだまだ青いからのう。わしのかっこよさがちょっとしかワカランとはな。がはははは」

と豪快に笑った。

それを受けてあかねが、

「いや、おじいちゃん、めっちゃかっこよかったよ。ありがとう」

そしてまゆもその横で、車椅子に乗って、片方の手の甲を上に向けて固定し、その上にもう一方の手を垂直に乗せて上に上げた。手話でありがとう、の意味だ。


いつもなら、手話はなるべく避けるまゆだったが、試合の緊張からくる疲れで、ノートを出す力も、声をだす気力も残っていなかった。


「そうじゃろそうじゃろ。あかねはさすがじゃの~。栞代も少しは見習えよ。」

「そんなこと言って、麗霞さん見て鼻伸ばしてたんだろ?」

「栞代」

「なんだよ、おじいちゃん改まって」

「わしが、いつまでも麗霞さんばっかり見てると思ったら大間違いじゃゾ。

わしゃ、今日、もう一人すごい弓士を見つけたんじゃ」

「ほー」

「鳴弦館高校の落ち、篠宮かぐやさんじゃ」

「弓士とか言って、弓見ずに顔ばっかり見てたんだろ?」

「か、栞代・・」

「なんだよ」

「お前、いつからわしになったんじゃ」


この二人に話をさせてたら、永遠に続くに違いない。ましてや、クセが強い篠宮かぐやが嗅ぎつけでもしたら。

冴子は、沙月と瑠月に目配せをして、強制終了させた。


そして、杏子と話している祖母に何度もお礼を言って、解散した。



弓道部のメンバーは、夕食を済ませ、拓哉コーチの講評を聞いた。基調はクールで、勝った時も負けた時もほとんど変化のない監督だが、今回き試合はコーチの若干の無理強いがあったこともあって、特に優しくはげましてたようだ。


弓道部メンバーが、なんか変に優しかったな、なんて軽口を叩きながら、就寝する部屋へ入った時、


「みんな、ほんとにごめんなさい」


まゆの小さな声が響いた。彼女は椅子に座ったまま、膝の上で握りしめた両手を見つめていた。


「え? 何が?」


朔晦とあかねが同時に振り返った。光田高校弓道部が誇る、切り替えの早さにかけては並ぶものの居ない二人は、既に中間テストの話題に興じていた。テストの話も楽しくできる。この才能も並ぶものは居ない。


「だって…もしわたしがひとつでも的中させてたら」


まゆの声は震えていた。


光田高校Bチーム

栞代  〇×〇〇

瑠月  〇〇〇〇

まゆ  ××××

あかね ×〇〇×

杏子  〇〇〇〇

13本


鳴弦館高校Aチーム

鷹匠 篝  〇〇〇×

日下部 茜理〇×〇×

神尾 慧  ××〇〇

真壁 妃那 〇×〇〇

篠宮かぐや〇〇〇〇

14本


「光田高校Bチーム、13本。鳴弦館高校Aチーム、14本」


彼女は指を折りながら続けた。


「あの鳴弦館に勝てたかもしれないんだよ」


その言葉を聞いて、栞代は杏子と紬を見て少し微笑んだ。何かを思い出したような、懐かしさの混じった表情だった。


つばめがゆっくりとまゆに向き直った。


「まゆさん、団体戦の結果に、誰が失敗したとか、誰が成功したとかないですよ」


そして続けた。


「そんなこと言い出したら、わたしなんて、今日は全然だめだったし。もしわたしがもう少し当ててたら、もう少し鳳城を慌てさせることが出来たかもしれない」


つばめがぐっと唇を噛んだ。その横顔には、初めての試合で感じた緊張と悔しさがまだ残っていた。


輪に入ってきた冴子が、ぽつりと続けた。

「それじゃ、わたしも外したしな」


沙月が肩をすくめながら続く。

「わたしもな~。しょぼんだよ」


そして瑠月が、つばめの方に向いて、不思議そうな表情で言った。

「いいわね、姉妹って」


「え?」


戸惑うつばめに、栞代が口を挟む。彼女の声には、どこか懐かしさが混じっていた。


「去年もさ、鳳城高校との練習試合でな。瑠月さんが同じこと言い出したんだよ」


「懐かしいなあ」栞代はため息をついた。「まだあれから1年しか経っていないんだよね。もう100年ぐらい経った気がするよ」


部室の空気が、ほんの少し柔らかくなった。まゆは顔を上げ、周りの顔を見回した。


瑠月さんが椅子から立ち上がり、まゆの前に膝をついた。その目には優しさと、どこか懐かしさが浮かんでいた。


「まゆちゃん、わたしとまったく一緒だね。だから、今まゆちゃんがどれだけ辛くて悲しいか、ほんとに分かるよ」


彼女は少し間を置いて続けた。


「でも、つぐみにこう言われたんだよ。『ずるい』って」


「え?」


まゆとつばめが同時に尋ねた。


「『ずるいって。じゃあ、調子が良くて当てて勝った時は、一人の手柄なの?』って」


瑠月は、まゆに向って微笑んだ。その笑顔には、過去の痛みを乗り越えた強さがあった。


「わたし、はっとしたの。その通りでしょ?」


まゆは少し安心したように微笑んだ。彼女の肩から、少しずつ緊張が解けていくのが見えた。


冴子が引き継ぐ。彼女の声は、いつもより少し柔らかかった。


「まゆ、それからの瑠月さん、凄かったんだよ。自分のできることを全てやるようになった。今は普通にやってるメンタルトレーニングも栞代さん主導で取り入れたんだ。そこからの栞代さんの快進撃は凄かった。そうだろ、まゆ?」


まゆはゆっくりと頷いた。彼女の目には、少しずつ光が戻ってきていた。

去年鳳城高との練習試合が終わってからマネージャーとして入部した。だから、瑠月さんがどんなトレーニングをして、どんどん結果を出したことを誰よりも知っていた。

そんなことがあったんだな。

そして瑠月さんは、先の全国選抜大会で、全国で4位というすばらしい結果を残している。


「もちろん、まゆと瑠月さんは立場も違うし、同じじゃないけど。それでも、この経験を生かすことは、きっとまゆにもできるよ」


栞代の言葉を引き継ぎ、冴子が付け加えた。


「実は瑠月さんは、ここでレギュラー落ちを通告されたんだよ。紆余曲折あって、逆に瑠月さんが主力でインターハイに出場したんだけど、それは結果。あの時の瑠月さんはほんとに凄かったな。

去年の展開にならなかったとしても、コーチは瑠月さんを抜擢してたと思う。それぐらい凄かった。まゆだけじゃない、わたしたちも、ここで学んだことを飛躍に繋げないとな」


全員が大きく頷いた。


「選手とマネージャー、二役してるんですから、大変なのは当然ですよね。これからはわたしにもっとマネージャーの仕事、させてくださいね」

一華が、優しく付け加えた。彼女の言葉には、まゆへの敬意が込められていた。


「結果は全員で受け止めるもの」瑠月がゆっくりと言った。「だからこそ、自分のできることはしっかりやっておきたい。それが的前であっても、マネージャーの仕事であっても」


まゆはしっかりと頷いた。彼女の目には、もう迷いはなかった。


「ありがとう、みんな」


まゆの声は小さかったが、確かな強さがあった。


「次は、絶対に…」

「みんなも、油断しないでね。」


言葉の途中で、彼女は口元を手で覆った。涙が頬を伝い落ちる。それは悔しさの涙ではなく、仲間の温かさに触れた安堵の涙だった。


栞代がそっと立ち上がり、窓際に歩み寄った。彼女は静かに言った。


「弓道って不思議だよね。一人で引く弓なのに、みんなの心が一つになる」


瑠月が隣に立ち、肩を並べた。


「それが団体戦の大きな魅力なのかも、なんだけど、ほんとは、個人戦だって、わたしはみんなに支えられていたのよ」


部屋では、相変わらず才能を爆発させているあかねと真映が、もうテレビドラマの話をしている。

ほんとに得難い存在だよ。


失敗も成功も、すべては彼女たちの弓道の一部。それを分かち合える仲間がいることの幸せを、まゆは胸いっぱいに感じていた。


明日からの練習が、また一歩、彼女たちを成長させるだろう。


「よーし、明日からまた頑張ろう!」


あかねの元気な声が響き、みんなの顔に笑顔が戻った。


窓の外では、去年瑠月を支えた月が、変わらず輝いていた。

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