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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
2年生
118/433

第118話 合同練習試合 鳳城高校と鳴弦館高校と

そして試合が始まった。


第一試合では、光田高校Aチームと鳳城高校Bチームが対戦。試合会場には張り詰めた緊張と、静かな期待が漂っていた。


冴子さんと沙月さんがひっぱり、紬も健闘したが、真映とつばめは、高校入学始めての試合ということもあって、実力を発揮仕切れなかった。


それにしても驚いたのは、鳳城高校のBチームだ。Aチームと比べても、遜色がない。鳳城高校の層の厚さに圧倒される結果となった。


続く第二試合、光田高校Bチームと鳴弦館高校Aチームとの試合が始まる。鳴弦館は全国でも屈指の実力を誇る名門。落ちは、篠宮かぐや。その凛とした姿と、いつも見せていた姿と同じ人物とは思えぬ静寂を纏う雰囲気が、観る者の心を圧倒する。


一方、光田高校Bチームの注目は、なんといってもまゆだった。

まゆが椅子に座っての射を行う。まゆは小柄な身体に見合わぬ集中力で一つ一つ丁寧に弓を引く。その姿勢の美しさは、杏子譲りだ。


栞代も瑠月もあかねも杏子も、公式戦以上の気合を見せ、充実した矢を披露する。

まゆを支えたい、まゆに勝利をプレゼントしたい。その思いでチームはまとまっていた。

そしてまゆも、始めての試合で緊張しながらも、丁寧にひとつひとつの矢を見せていた。

チームに迷惑をかけたくない。その思いは強かったが、憧れていた杏子と同じ的前に立てる機会はもうないかもしれない。この時に緊張と幸せが押し寄せていた。

そうした特殊な緊張感の中、いつもの力は発揮できなかった。

「……どうしよう……」


顔を伏せたまゆは、肩を震わせていた。緊張で体が硬直し、力が入らない。練習では届いていた矢が届かない。彼女の後で弓を構えていたあかねは、そっと唇を噛む。


一本目。

二本目。

三本目。


栞代も、瑠月さんも、あかねも、そして杏子も、わたしを支えてくれる。

ひとつ、的に届けたい。


四順目、それまで矢を届けることができなかったまゆは椅子からふらりと立ち上がった。


「まゆ!? 大丈夫……?」

驚くあかねと杏子。だが、まゆの目は真っ直ぐに的を見据えていた。


あかねと杏子が、すぐさま、介添えをしていた真映に弓を預け、まゆのもとに駆け寄る。

両側からまゆを支える。三人の影が一本の線となって、射場に立った。


栞代と瑠月も気配を感じ、心配そうに振り返る。


息を整え、まゆが力を込める——緩んだ腕に震えながらも、矢を離した。


矢は、まっすぐに飛んだ。だが、的にはわずかのところで届かず、あと一歩のところで外れる。


場が、静まり返る。


だがその瞬間、その沈黙を破り、ひときわ大きな声が響きわたった。


「まゆさ〜ん!! ナイスファイト〜っっ!!」


立ち上がり、大きなジェスチャーで両手を高く掲げて、手を叩いている。


その拍手が波紋のように広がり、会場全体を包んだ。各校の選手たちが、次々に拍手を送る。


「ほら、まゆ。胸を張って。素晴らしかったよ」


あかねが、涙をこらえながら声をかける。杏子もそっとまゆに目を合わせ、頷いた。


杏子が振り返ると、祖父が満面の笑みで親指を立てていた。


本来の試合であれば、失格と判断される場面だった。しかし、鳳城高校の不動監督、鳴弦館高校の監督である東雲(しののめ)浩一郎は、静かに頷いた。


「何の問題もない。これは、弓道の精神そのものだ」拓哉コーチにそう言った。

それを聞き、拓哉コーチは深々と一礼した。


少し時間をおいて、再開した。


次に立つあかねは緊張のせいか、矢を外す。

溢れ出る感情を抑えきることができなかった。

だが、杏子は静かに息を整え、凛とした姿で弓を引いた。


空気が張り詰める。

——的心に、鋭く突き刺さる。

こうした場面でも、いや、どのような場面でも、一向に動揺せず決めるのが、杏子の凄さだ。

外からのプレッシャーには、本当に強い。

それは、光田高校弓道部、全員の思いだった。


拍手が再び起こる中、杏子はゆっくりと戻る。そして、礼をし、栞代、瑠月、あかね、と共にまゆのところに集まる。


「まゆ、ほんとに素晴らしかったわ」

杏子が呟く。

それを聞いてあかねが言う。

「杏子のおじいちゃん、めっちゃかっこよかったな」

栞代は

「ああいうとこ見ると、おばあちゃんの気持ちも1%ぐらいは分かるな」

褒められているんだかどうだがよく分らなかったが、杏子はちょっと誇らしく感じていた。

今度、あずきバーでも付き合ってあげるか。


春の陽が、光田高校Bチームの五人を包む。

その姿を見つめながら、篠宮かぐやは小さく笑った。「……やるやん」

弓道とは、ただ的を射るだけの競技ではない。

——心を射る、それこそが本質だ。

この日、一本の矢が、多くの心を貫いた。



残念ながら、光田高校はA、B両チームとも勝利することは出来なかったが、大きな経験を得ることが出来た。


この後、鳳城高校Aチームが鳴弦館高校Bチームと対戦。貫祿を見せ、鳳城高校が勝利。

そして、決勝として、鳳城高校と鳴弦館高校、両方のAチームが対戦した。

おそらく、現在の高校のトップチームの対戦は大変にすばらしいものになった。

雲類鷲麗霞と篠宮かぐやの両エースはさすがに一歩も引かず、見事な矢を披露していた。

かろうじて鳳城高校が勝利したが、鳴弦館高校強し、を印象つけた試合でもあった。


それを見ていたあかねは、鳴弦館高校の下級生から仕入れた、もうひとつの噂を思い出していた。


最近、特に団体戦では圧倒的な強さを見せる鳳城高校。それはかつての鳴弦館高校の姿でもあった。

打倒鳳城に本気になった鳴弦館高校は、その秘密平気として篠宮かぐやを弓道に専念させるため、かぐやの彼氏をアメリカに留学させた、という。


真実なのかどうかは確かめようも無かったが、結果として、杏子の金メダルに、またひとつ乗り越えなければならないものが出来たということだった。



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