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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
2年生
117/433

第117話 合同練習試合前日 鳳城高校と鳴弦館高校と

春の陽がまだ穏やかな風とともに吹いていた。寒さに揺り戻ったかと思うと、暖かい日が続く。


去年同様、前泊予定で鳳城高校の弓道場に来ていたが、今年は鳴弦館高校も来てる。まだまだ余裕があるというから、いったい、鳳城高校の規模ってどれぐらいすごいんだろう。


相変わらずのスケールに圧倒されつつも、練習を終えて夕食を取っていると、麗霞さんが現れた。


「杏子さん、あれからおじいさんの具合はどうですか?」

「はい。もう全然問題ありません。ご心配いただき、ありがとうございます」

「あと、今年はつぐみさんが居ないのも、寂しいですね。彼女は元気でやってますか?」

「はい。実はわたしもよく知らないんですが」

そう言って杏子は、つばめを呼んだ。

「麗霞さん、こちらがつばめで、つぐみの妹なんです。つぐみのことは、彼女の方が詳しいので。」


そう言ってつばめを麗霞に紹介した。

つばめは、姉が憧れ続けた相手が目の前に居る、そのことに感動して、まるでアイドルを目の前にしたかのような緊張と喜びを全身で表していた。


つばめとの話を邪魔しないように、少し場所を変えると、その直後、まるでドラマのタイミングを読んだかのように割り込んできたのが、鳴弦館高校の篠宮かぐやだった。


「ねえ、あんたが杏子?」


その言葉には、どこか挑発的な響きとともに、人懐こい響があった。

かぐやはにやりと笑った。


「なんか、すごいらしいじゃない。麗霞がびびってるって噂になってるわよ。

でもね、それ、明日の“わたし”を見てから言ってくれる?」


ちょっと何を言ってるのか分らない。わたし、自分で何か言ったことってないのにな。

そう杏子が思ったとき、横に来た栞代が口を開いた。


「おい。ちょっと何言ってるのか、わかんないぞ」


低くて鋭い声に、かぐやが「ひっ」と肩を引いた瞬間、いつのまにか、つばめと一緒に戻ってきた麗霞がため息混じりに呆れたように言った。


「かぐやさん、久しぶりに会うけど、変わらないね。その相変わらずの開幕ボケ。」


杏子が不思議そうに麗霞を見ると、麗霞は少し笑いながら言った。


「栞代さんも、許してあげてください。この人、悪気のカケラもないんだけど。」

そして続けた。


「中学1・2年のときは準優勝してたの。でも、勝てないのがイヤになったらしくて、大会に出るのを辞めちゃったのよね。不思議な人。」


「ち、違うわよ!」


かぐやが急に声を上げる。「わたしは……好きな人が……その……あっいやいやいやいや!!」


急に赤面し、乙女モードに突入。自分で墓穴を掘って焦っていると、そこへ鳴弦館の主将、鷹匠(たかじょう)(かがり)が背後から現れた。


「またかぐやは“黒歴史”を自分で吹聴してるのか。結局、振られて弓道に戻ってきたんだろ?」


「ちっ、ちがうもん!! わ、わたしが振ったのよ! わたしがふったんだってば!! くっそおおおおおおっ!!」


と、叫びながら、いつも連れている真壁妃那妃那(ひな)のほうへ逃げていく。

見ると、ひとつも表情を変えない真壁だが、頭に手をやってよしよししてる。


その姿を見送りながら、鷹匠は肩をすくめて杏子たちに向き直る。


「……ま、アレだけ見るとただのアホに見えるけど、弓の腕は本物なんだ。時々は弓を引いていたとはいえ、復帰してちょっと本気出したら、もううちのエースだから。まったく。でも、明日はよろしくお願い居たします」


そう言って、深々と頭を下げる。栞代は相変わらず杏子のボディガード体制を解いていないようだったが、、杏子はにっこり微笑みお辞儀を返した。


夜寝るときにみんなと話していると、篠宮かぐやは、全員に同じような挨拶をしているようだった。

情報を仕入れてきたのか、あかねが報告してくれた。

「かぐやって人、とにかくいつも話しているんだって。その口が閉じるのは、弓を握っている時だけだって。でも、実際に弓をに握らせると、実力は天下一品らしいわよ。いろんな人が居てるから面白いわね」


たしかに文字だけ抜き出すと横柄な態度とも言えたが、長い黒髪、ぱっつん前髪に超整った顔立ち。あの表情で言われると、破壊力抜群だな。と杏子は思った。



翌日杏子は、起床時から空気が変わっているのを感じた。

練習とはいえ、去年の選抜大会の優勝校と準優勝高、そして3位が集まっての練習試合だ。空気も緊張するというものだろう。


光田高校、鳳城高校、鳴弦館高校、全ての選抜メンバーがそのまま参加しているが、今回は夏のインターハイを睨んでの合同練習試合。それぞれの高校の層の厚さが試される瞬間だとも言えた。夏を制するには、総合力が必要だった。


今回の練習試合は、伝統を持ち、弓道界の未来を担う若き射手たちの真剣勝負の場でもある。各校とも全国レベルの実力を持ち、礼儀作法にも厳しく、美しく整った所作が求められる。だが、どんな場所にも必ず“隙間”は生まれる。


試合が始まる前、光田高校のBチームの構成が知らされると、射場の後方でささやきが漏れた。


「椅子に座って……弓引くの?」「……大丈夫なのかよ、それ」

「座って休めるのはいいな」「なんか見るからに力なさそうだけど。無理しないでいいんじゃねーの」

「あんだけしか部員いないのかな」

いくらでも聞こえてくる。


昨日の篠宮かぐやとは違い、文面はまだしも、その奥には、かすかな嘲りとともに、バカにするような笑いが混じる。その声は鳳城と鳴弦館の一部の生徒たちから出たものだった。


「静かに。」


その声を遮ったのは、鳳城高校の至宝、雲類鷲麗霞だった。背筋を正したまま、冷静に言い放つ。


「どんな形であっても、弓を引くということの重みを、私たちは忘れてはならない。ましてや、相手への敬意を欠くなんてことは言語道断です」


その静かな一言に、場がぴたりと静まる。


しかし、空気はまだ刺々しい。すると、怒りを露わにして前へ出ようとしたのは光田高校の栞代だった。


「……おい。今、誰が言った?」

隣にいたあかねも一歩前へ出る。


「栞代さん、申し訳ありません」。麗霞が間に入って頭を下げる。


そこへ割り込んで来たのは、篠宮かぐやだった。

その景色を一瞥したかと思うと、小さく笑いながら、口を開いた。


「椅子に座ろうが、寝転がっていようが、当たればいいんだよ、あたれば」


「いや……」と少し間を置き、澄んだ声で続けた。


「あたるかどうかはどうでもよかったな。弓が引ける。それだけで、なんの問題もない。」


その言葉に、雲類鷲も無言で頷く。


そのやりとりを聞き、まゆは、椅子に座りながらも背筋を伸ばしていたが、わずかに手が震えていた。それを見て、瑠月がそっと声をかける。


「大丈夫よ、まゆちゃん。気にしないで。あの人たちの言葉なんて。ほら、まゆちゃんには、杏子ちゃんがついてるわ」

そう言って杏子に視線を向けた。


杏子は何も言わずに、ただまゆの手を優しく握る。その手は、何よりも温かかった。


そして試合が始まる。



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