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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
2年生
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第108話 朝令暮改

拓哉コーチと部長である冴子は、弓道場の片隅で小さく息をついた。


「……申し訳ない」

拓哉コーチが開口一番、そう言って頭を下げた。いつも堂々とそして、クールなる指導者が頭を下げる姿は珍しい。冴子は思わず身を引く。


「どうかしましたか?」


「実は、鳳城高校から練習試合の招待を受けたんだ。それで今回は、鳴弦館高校も加えて三校での試合にすることになった。そのためもあって、1高2チームずつで試合をしたいと言われてな」


冴子は目を丸くする。

「えっ? でも、うちは瑠月先輩を入れても7人しかいませんよ?」


「うん、それは分かってるんだが・・・」


「2チームだと、10人……ってことは、足りないじゃないですか!」


「う、うむ。すまん。どうしても無理なら、最悪1チームでお願いするが、できることはしておきたくてな」


「そういえば、鳳城の不動監督とコーチ、親しいですもんね」


「親しいというか、昔かなり世話になってな。そして去年も無理言って胸を借りたし」


「そうですね。あの練習試合は、わたしたちにとって、とても大きな意味がありましたもんね」


「そこで、新入生のつばめと真映、そしてまゆを試合に出せないかと考えている」


「えっ……?まゆも?」

冴子は戸惑った。つばめと真映は入部したばかり。経験者だから一緒に練習させてくれという真映を、わざわざ杏子と試合をさせてまで、基礎練習の大事さを諭して、そこに集中するように言ったばかりなのに。


さらに、まゆに関しては、的に届くかどうかすら不安定な段階だ。そんな彼女たちをいきなり試合に出すというのは、いくら何でも無謀すぎる。


「コーチ、つい先日、真映には基礎を固めるまで弓を引かせないと決めたばかりじゃないですか。それを急に変更するなんて……」


「分かってる。申し訳ない。やはり、去年、うちの都合で鳳城高校に無理を言って試合を組んでもらった恩があってな。今回は断りにくくて。もう少し早めに言ってくれればとは思うが、年末の試合も、うちが無理言ってすぐに決めてもらったしな」


「そうでね。つぐみのための試合でしたもんね」


「気がついてたか」


「コーチ、秘密主義もいいですけど、ちょっとは話おいてくださいよ。もう心臓に悪いんだから」


「申し訳ない。ということで、なんとか話をまとめてもらいたいんだ」


「それは分かりますけど……わたしの立場が……」


拓哉コーチは冴子に向き直り、深々と頭を下げた。


「この通り、頼む」


「いや、謝られると困りますって……!」


冴子はため息をついた。やるしかない、と腹をくくる。

「分かりました。まず三年生に、次に二年生、最後に新入生に話を通します。それでいいですね?」


拓哉コーチは頷いた。

「頼む。まゆが一番難しそうだが……」


「そこは説得してみます。まゆには杏子と組ませてもいいですか?」


「そうだな。杏子となら可能性あるな。まゆにとって、杏子と同じ的前に立てるのは、夢だろうしな。」


「いや、それ、結構部員全員の夢ですよ。了解です。お任せください。あと、チーム構成は部員の希望聞いてもらえますか?」


「うむ。今回は仕方ないだろうな」




三年生に話を通した後、冴子は二年生を集め、説明を始めた。


「こんなことになった。コーチも断りづらかったみたいだ」


まゆはすぐに顔を曇らせた。

「わたし、的にもやっと届くかどうかなのに、試合なんて出られません……」


「まゆ、その気持ちは分かる。だけど、弓道は姿勢だ。的に当てることがすべてじゃない。杏子とずっと練習してきた成果を、試合の場で出してみないか?」


「でも……」


あかねが横から口を挟んだ。

「部長、まゆにはまだ無理ですよ」


「いや、まゆにはできる。ちゃんと正しい姿勢を見せればいいんだ。杏子と組んで出場してもらいたい」


「えっ、杏子と?」


「そうだ」


そのやりとりを聞いたあかねが不満そうに言った。

「部長、まさかわたしとまゆを離すつもりじゃないでしょうね?」


「ええ?」


今度は栞代が口を挟む。

「部長、わたしと杏子を離すつもりじゃないでしょうね?」


「えええええっ!? そんなこと言われても……!」


もはやカオスである。困惑する冴子は、瑠月さんに「このわがまま娘たちのお守りを頼めますか?」とすがる。


そんな冴子を見かねて、瑠月が笑いながら口を開いた。

「仕方ないわね。じゃあ、わたしが試合に出てもいいのね?」


全員が一斉に頷く。


「いいに決まってるじゃないですか!」


沙月が冴子の肩をぽんと叩く。

「むしろ瑠月先輩が出られない試合なら、コーチが何と言っても受けないですよ。部員全員が。」


「まぁ、確かに」それに、そんなことを言い出す相手も居ないな。冴子が呟く。


あかねが少し楽しそうに笑った。

「ちょっと楽しみになってきましたね」


「でも、鳳城高校は去年の年末、うちに負けてるし、ただ勝つだけじゃない、圧倒的て勝ちを目指してるぞ」


栞代がニヤリと笑う。

「相手にとって不足なし、ですね」

「不足なさすぎるわっ」 沙月がつっこみ笑う。これって、つぐみの役目だったな。




そして、一年生の番が来た。沙月と紬を連れてきた。


「……というわけで、真映とつばめにも練習に参加してもらいたい。朝令暮改で申し訳ない」


真映はすぐに顔を輝かせた。

「そんなのどうでもいいですよ! 分かりました。鳳城高校に勝つために、わたしの力が必要なんですね!」


「う、うん。まあ、そういうことに……」


「任せてください! 絶対に勝ちます!」


つばめが呆れたように笑う。

「姉以上の自信家だな」


冴子も驚きを隠せない。

「うちには珍しいタイプだな。でも、胸を借りるつもりでな」


「いや、わたしの胸を貸してやりますよ!」


「……そ、そうか」

冴子が付け加える。

「ところで、チーム分けはもう決まってて、わたし、沙月、真映、つばめ、紬のチームだ。紬、何か質問はあるかい?」


紬はさらりと答えた。

「それはわたしの課題ではありません」


沙月がツッコミを入れる。

「いや、紬、これ、紬の課題なんだよ」




そして、皇楓には、すぐに瑠月がフォローしに行っていた。一年生の経験者が的前練習に入ると、楓が一人で基礎練習をすることになる。


一緒に付き合って基礎練習するからね、と楓にフォローしていると、杏子と栞代、そしてまゆとあかねもやってきて、わたしたちも一緒に、と言い出した。


部長はこのチーム、大変そうだと思ってたみたいだけど、いやいやどうして。もうこんなに素晴らしいチームワークを発揮してる。


立ち順は、チームで決めていいのかな?



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