3話
一人称苦手なことに気が付いたので、今回から三人称で行きます……
薄暗い牢獄から解放されたリリアは、釈放されたその足で、期待に胸を膨らませて新生精鋭部隊の兵営へと足を踏み入れた。しかし、そこに広がっていたのは、予想とは異なる光景だった。
「え? 部隊ってこれだけ?」
広々とした兵営には、可愛らしいウサギ耳の少女と、モノクルをかけた几帳面そうな男性の姿しか見えなかった。ユーリは複雑な表情で口を開いた。
「ああ、今はな」
リリアの問いに、彼はそれ以上何も答えなかった。沈黙が二人の間に流れる。
「とりあえず、お互いに自己紹介でもしたらどうだ」
ユーリが沈黙を破り、提案した。リリアは笑顔で頷き、口を開く。
「えっと、私はリリアです。ユーリおにい……って、そんな怖い顔しないでくださいよ! 嘘です、ユーリさんに拾っていただき、家族になりました!」
リリアの言葉に、少女の顔がみるみるうちに真っ赤になる。
「か、家族!?」
驚きのあまり、少女のウサギ耳がぴくぴくと震えている。
「いや、書類上だ。そんなに気にするな」
ユーリは冷静に訂正するが、その少女の動揺は収まらない。
「書類上!? 偽装結婚ですか!?」
「いやいや、落ち着け」
ユーリは少女の肩を優しく叩き、深呼吸を促す。しばらくして、ようやく落ち着きを取り戻したようだった。
「さっきは取り乱してすみません。私は、ラパン、ミルフィーユ・ラパンです。一応、ユーリ隊長の副官をやらせていただいています」
ラパンは、少し恥ずかしそうに自己紹介する。続いて、アルバートが口を開く。
「俺は、アルバート・フォン・ローゼンバーグ。書記などをやっている」
そして、ユーリが静かに言葉を続ける。
「俺は、ユーリ・スタルライト。この部隊の隊長だ」
短い自己紹介が終わると、再び沈黙が訪れた。
「とりあえず、歓迎会でもしますか?」
その沈黙を破るように、ラパンが明るい声で提案した。彼女の言葉に、アルバートも頷く。
「そうだな。ささやかだが、歓迎の宴を催そう。俺たちは仲間だからな」
*
こうして、三人は近くの酒場へと向かった。周囲のテーブルは、冒険者や仕事終わりの職人たちによって埋め尽くされていた。ユーリたちは、空いているテーブルを見つけ、そこに座る。
「まずは酒だな」
「おつまみも少し頼みますね」
アルバートとラパンは、慣れた様子で注文を始める。リリアは、その様子をぼんやりと眺めていた。
「どうした? 何か食べたいものでもあるのか?」
そんなリリアに気付き、ユーリが声をかける。彼女は慌てて首を振った。
「い、いえ! ただ、こういうところに来たことがなくて……」
「そうか」
そんな会話をしているうちに、料理と飲み物が運ばれてくる。ユーリは、グラスに入ったビールを一気に飲み干すと、再び口を開いた。
「今日は、お前の歓迎会だ。好きなだけ食べて飲んでくれ」
「はい! ありがとうございます!」
リリアは笑顔で答えると、目の前に置かれた料理に手をつけ始めた。その様子を見ながら、ユーリが口を開く。
「ラパン、アルバート。お前たちも遠慮せずに食べろ」
その言葉に、ラパンたちも料理に手をつけ始める。
少し腹も膨れ、場も温まったところで、雑談を始める。しかし、男性陣の生真面目な性格が災いし、会話はどこかぎこちない。
「えーっと、リリアさんは、好きな食べ物とかあるんですか?」
ラパンが必死に話題を振ろうとするが、リリアはどこか上の空で、きょろきょろと周りを見渡している。ユーリとアルバートは、ただ黙って酒を呷っていた。
「あ、えっと、好きな食べ物ですよね! やっぱり人の金で食べる焼き肉かなぁ、なんちゃって! ははっ……」
「え? ははは、いいですね……」
リリアは、慌てて取り繕った。ラパンはその発言に顔を引きつらせる。
リリアは、そんな凍り付いた場を何とか温めようと地蔵のごとき男性陣に声をかける。
「あの、男性方二人とも、何か面白い話とかないんですか? 一応私の歓迎会ですよね?」
リリアの問いかけにも、二人は「ああ」「そうだな」と曖昧な返事をするばかり。
次第に、テーブルには気まずい空気が漂い始めた。
「えっと、じゃあ、そろそろ……」
耐えきれなくなったリリアが切り出すと、二人はすぐに立ち上がった。
「本日はありがとうございました」
アルバートは深々と頭を下げ、ラパンも慌てて続いた。
「また、明日!」
こうして、リリアの歓迎会は、微妙な空気のまま幕を閉じた。彼女はユーリと二人、ユーリの家へと行く道すがら、空を見上げて呟いた。
「なんか、思ってたのと違うなぁ…」