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皐月の会合

一方、王達は会合を終えて、宴の席に出ていた。

白虎の宮は白亜の宮殿で、大広間も真っ白でそれは美しい。

大きく庭を向いて開いた多くの窓から庭を眺めながら、壇上で炎嘉が言った。

「…先月はいろいろあった。面倒この上ないゆえ、もうそろそろ落ち着いてほしいものよ。」

維心が、答えた。

「もう無いであろう。碧黎は片割れ消失の衝撃から立ち直ったし、椿は消えた。我はその場に立ち会ったゆえ、真実消失したのは知っておる。」

焔が、うんざりした顔で言った。

「誠にもう、勘弁ぞ。そもそも維心の舞いで損傷を受けておった臣下がやっと立ち直ったかと思うたらあの気の嵐。誠にあちこち面倒ばかりであったわ。」

確かにあれは連続して皆、疲れ切った。

志心が、言った。

「維月が呼んでくれたので、多香子は今頃主の宮よな。あやつもあれから綾を気遣って鬱々しておったようだったので、良かったと思うておる。」

維心は、頷いた。

「そうだの。奥宮を使う事を許して来たので、今頃奥の居間で話しておるのではないか。綾も来ておるはずよな?」

翠明は、頷いた。

「その通りよ。綾は維月のお陰で気を取り直して、何とか毎日過ごしておったが、しかし無理をしておるようにも見えてな。少しは羽根を伸ばせておったら良いのだが。」

漸が、言った。

「…しかし、アレはどんな最期であったのだ。箔炎を連れて行けぬで荒れて、黄泉へ行かぬとごねたゆえに消したと聞いたが?」

維心は、息をついた。

「そんな簡単なことではない。そも、そんな事ぐらいなら、天黎とて天媛とて、消滅などという重い決断はしなかった。あれは…狂うておってな。姿などもうなかった。」

焔が、眉を寄せた。

「姿がなかった?どういうことぞ。」

維心は、答えた。

「黄泉へ参れば、そもそもどんな命でも狂うておったとしても正気に戻る。が、椿はそれが無かった。漸を恨み、箔炎に執着し、狂うたまま型を崩して、再び現世へ戻ろうと門を拒否して力を求め、そこらを己の門に向かって歩く命を喰らって力を付けていた。おちおち死んでもおられぬのかと、それを見て焦ったものよ。煽と観が必死に留めて…」と、そこでハッとして駿を見た。「…駿。紅蘭は身籠っておるな。」

駿は、驚いた顔をした。

「え、まあ、そうだの。何故に知っておる。まだ分かったばかりぞ。」

維心は言った。

「観が言うておったからよ。それは観ぞ。あの時は転生準備をしておって、それなのに駆り出されておるのだと文句を言うておった。」

誠か。

皆が驚く中、漸がせっついた。

「それで?話の途中で脇へ逸れるでないわ。」

維心は、答えた。

「…我が見た時には、椿は黒い塊でしかなかった。その黒い塊から、食われた者たちの手足が不自然に突き出ていて、あちこちに苦悩に満ちた顔があった。あんな醜悪なものは、あまり見たことがない。」

皆が、その様を想像して黙り込む。

維心は、伝わらなかったかと、手を上げた。

「我の脳裏にある映像を見るか?床に投影しようか。」

床も真っ白なので、それは綺麗に投影されるだろう。

炎嘉が、慌てて言った。

「いや、良い。充分に伝わった。見とうないなと思うたところ。」

維心は、手を下ろした。

「そうか。我とてできたら見せぬで欲しかったと思うておるぐらいであるからな。」

皆がホッとして、志心は言った。

「…それで、天黎は消したのだの。命の底から狂うたか。」

維心は、頷いた。

「その通りよ。あれではもう、どうにもならぬ。が…維月が話してくれたが、碧黎が申すには、あれは消滅の瞬間、己の前世含めた全ての生を脳裏に見て、正気に戻っておったようよ。最期に一言、すまなかった、という言葉が、伝わって参ったそうな。救ってやれなかったと、碧黎はそれゆえ後悔したのだとか。そう思うたら…哀れであったか、と我も思うた。しかし、他に方法はなかった。」

最期の最期で正気に戻ったのか…。

箔炎は、黙り込んでいる。

焔が、言った。

「…まあ、済んだことぞ。あの時はそれしかなかった。その時その時で、最善と思われる事を成して行ったのに、避けられなかったのだ。仕方がないことよ。」

炎嘉が、神妙な顔で言った。

「…維月はどうしておる。あれも、直後は己の母親がと苦しげな様子であった。堪えておるのではと案じられる。」

維心は、息をついた。

「…確かに直後はの。綾を立ち直らせようと、黄泉で椿が反省して励んでおると嘘をついたゆえ、逆に己は苦しくなった。が、あれもそれからそれどころではなくなって、忙しゅうなったゆえ、大丈夫なようよ。碧黎が荒れたのを、抑え込んだのは維月なのだ。その後、十六夜と命を繋いで完全体になってみたり、そんな事で持ち直したようだの。」

翠明は、暗い顔をした。

「…あれは助かった。我もそれを信じておったが、後に維心殿から連絡を受けて…駄目だったかと。綾には話しておらぬ。」

駿が言った。

「その方が良い。我も、紅蘭には言わぬでいる。」

志心は息をついた。

「我は多香子には言うたわ。綾には申すなと申しておいた。何しろあれは、誤魔化そうとしても気取りよるからな。漸が文を送って来るし、隠す方が難しかった。多香子は誰にも言わぬだろうしの。」

渡が、ハッとしたように塔矢を見た。

「…うちも妃には何も言うておらぬが、そういえば主。聡子が月の宮から戻ったとか聞いたがの。天黎という男のことは知らぬが、そやつと上手く行かなんだと?」

塔矢は、息をついた。

「…何があったのかは知らぬが、二百年近くその、大きな気の命の近くに居たゆえに、急に倒れて意識を失ったと蒼殿より聞いた。記憶を失くしておってな。あちらに嫁いだ事すら覚えておらぬ。こちらの治癒の神に診させたところ、婚姻すらしていた形跡はないのだがな。」

焔が、え、と驚いた顔をした。

「え、生娘なのか?」

塔矢は、渋い顔で頷く。

「その通りよ。月の眷属とは、そういったことに興味がないようで。ならば何故に娶ったのかと思うが…しかし、こちらからしたらメリットがあった。」

炎嘉が、眉を上げた。

「メリット?なんぞ。」

塔矢は、答えた。

「は。聡子はもとより体が弱く、気を付けて育てておりましたが、月の宮に行ってからは、顔を見る度に顔色が良いと思うておったのですよ。が、戻ってからこちら、年齢が上がっているのもあり…度々寝込むように。恐らく、月の浄化がなくなったからではと恵麻と話しておって。あれの母親は、同じように長くは生きらぬ体であったし。」

…元々、死んでいたはずの命。

維心は、それを思いながら聞いていた。

聡子は恐らく、もう長くはないのだろう。

「…それも定め。月の宮では、王族ばかりか臣下まで、毎年一回体の検査をさせるのだと聞く。皆の健康を維持するために、病の早期発見を目指しておるらしい。うちでもやるかと思うたが、臣下の数が違うからの。しかも、行事が多い。時が無いと維月も進められておらぬ。定期検診というものらしい。」

炎嘉が、ほほう、と興味を示した。

「誠か。とはいえ現実的ではないな。月の宮は閉じておるゆえそれができるが、我らはいろいろあって臣下をそちらへ割けぬのだ。休みすら満足に与えられぬのに。」

志心は、頷いた。

「そうだの。やっておいた方が良いのは分かっておるが、現実的ではないよの。」

王達が、うんうんと頷いてそんな話をしていると、宮に置いて来たはずの、義心が急いでやって来て膝をついた。

「王。維月様より急ぎのご連絡が。」

維心は、眉を上げた。

「維月から?」と、文を受け取った。「何ぞ、友と話すのに忙しいのではないのか。」

維心は、文を開いてそれを見る。

炎嘉が、うんざりしたように言った。

「また寂しいとか恋しいとかではないのか。真に受けて帰るなよ、維心。あちらの邪魔になる。」

しかし、維心は顔色を変えて立ち上がった。

「…志心。」志心が、顔を上げて維心を見上げる。維心は続けた。「すぐに参れ。多香子が倒れて治癒の対へ運ばれた。」

志心は、盃を落とした。

「…多香子が?!」

朝は顔色は良かった。

漸も、慌てて立ち上がった。

「早う参ろう!後は臣下に任せておけば良い!急げ!」

炎嘉も、言った。

「我らは…やめておく。」と、皆を見た。「後を何とかせねばならぬ。主らは行け。ここは我らに任せよ。どちらにせよ、龍の宮で大層なことにはならぬわ。案じるな。」

何しろ神世一の腕の治癒の神が揃っているのだ。

維心と志心、そして漸は頷いて、そうしてそのまま、急いで大広間を出て行ったのだった。

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