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懸念

次の日、十六夜と維月は起き出してすぐに維織の所へ向かい、一緒に居た燐も共に、対の話をした。

維織も相当に驚いていたが、維織からしたらなんとなく覚えがある気がするらしい。

維織は、言った。

「だってお父様、蒼は誰にでもあのようなので、特に意識はしておりませなんだが、時々に物凄く近く感じることがありましたの。言わぬでも察してくれるし、蒼が月だからだと思うておりましたが、よう考えたら他よりもっと共感してくれている気がするのです。」

マジか。

十六夜は、言った。

「蒼は分かってなかったみてぇだがな。お前はやっぱり、生まれた時から月の眷属だから。」

維織は、頷いた。

「はい。蒼は肉親として、かなり近い感覚でありましたわ。対と言われたらやっぱりそうかと、納得する心地です。」

燐が、言った。

「そうか、どうにも蒼にも親近感があるのは、あやつが月だからだと思うておったが、主の対であるからなのか。ならば分かる心地よ。要は同じ命が二つに分かれただけなのだろう?」

維月は、答えた。

「はい。とはいえ、単純に真っ二つではないようで。やはり陽の方が大きく取っておるのは確かです。陰は補佐の役割でありまして。陰は陽にない部分を持っておりますので。」

燐は、頷いた。

「そうだろうの。まあ、分かって良かったではないか、維織。己は一つかと申しておったが、遅れて生まれておっただけなのよ。やはり月の眷属の例に漏れず、しっかり対は居たわけだ。」

維織は、頷いた。

「はい…誠にそのように。」

そこへ、碧黎の声が割り込んだ。

《話は終わったか?》

十六夜が、顔を上げた。

「なんでぇ親父、維月か?」

碧黎は、答えた。

《話したいことがあっての。主もぞ。参れ、我の対で待つ。》

維月は、立ち上がった。

「はい、お父様。」と、燐に頭を下げた。「燐様、お休みのところ朝早くからお邪魔致しました。それではこれにて。」

燐は、頷いた。

「知らせてやってくれて感謝する。これもスッキリしたであろうぞ。」

維織は、頭を下げた。

「お父様、お母様、知ったからと変わることはありせぬが、心のもやもやが晴れた心地です。ありがとうございました。」

維月は、頷いた。

「ではね、維織。」と、十六夜を見た。「ほら、行くわよ。お父様がお待ちなの。」

十六夜は、のんびりと立ち上がった。

「へぇへぇ、お前が戻ると忙しいなあ。」と、燐と維織を見た。「じゃあな。」

そうして、二人はきちんと歩いてそこを出て行った。

燐と維織は、それを見送ってホッと息をついた。

やはり、月の陰陽が揃っていると、気の圧力が半端ないので、本人達は気付いていないが、こちらは構えてしまうのだ。

あの十六夜の緩さに助けられているな、と燐は思っていたのだった。


維月と十六夜が碧黎の対へと向かうと、碧黎は窓際で庭を見て立っていた。

維月は、頭を下げた。

「お父様。」

碧黎は、振り返った。

「維月。十六夜も。そこらに座るが良い。」

二人は、言われるままに窓際の椅子へと並んで座る。

碧黎は、言った。

「二人を呼んだのは、天黎の事でな。昨日は二人であやつと話しておったようよ。内容は聞いておったし、我もあやつが真に理解しておるのだと思うた。」

維月は、頷いた。

「はい、お父様。驚くほどの理解の深さで、あの方が大きな命であられることを、つい忘れてしまっておりましたが、見せつけられている心地でありました。僅か数日で…聡子様では成せなかったのに。」

碧黎は、答えた。

「やはり主が月の眷属であるのが大きい。意識の一部を繋いで直接感じて己と照らし合わせて行けたゆえ、恐らく天黎はすぐに理解が進んだのだろう。一般の神では、それはできぬからな。聡子ばかりを責めることはできぬ。そも、あれを選んで学ぼうとしたのは天黎自身であるからな。」

十六夜が、言った。

「別にだったら何で改めてオレ達に話があるんでぇ。天黎が理解できてるんなら万々歳だろ。あいつも機嫌良さそうだったぞ?」

碧黎は、少し黙ってから、答えた。

「…主らが帰った後のことよ。天媛が天黎を訪ねて、話しておった。あやつは誠によう理解しておるし、しかも一発で愛の本質まで悟っておった。天媛は、分かっておってもできぬことだと天黎を称賛しておったもの。天媛自身は、同じ境地には至っておらぬし、分かっておっても到達できぬ域であるからのようで。何しろあれらは対であり、お互いを知ろうと思うと分かるのよ。天媛は…案じて天黎を訪ねたようだったが、それは杞憂であったようだ。」

維月は、首を傾げた。

「案じて?いったい何を?」

碧黎は、答えた。

「…どうやら、天黎には気づかなかっただけで、陰陽として愛している存在が居るらしい。が、それの幸福だけを願い、それを煩わせるので己の想いすら伝えるつもりはないようよ。だからといって、辛いという心地はあれにはない。愛しているというだけで、見守ることが幸福なのだと。」

十六夜は、眉を寄せて真顔で言った。

「…誰なんでぇ。」

警戒しているのは、感じ取れる。

碧黎は、しかし首を振った。

「分からぬ。二人共、遂にそれは口にしなかった。恐らく聞いておるのが気取られていたのだろう。が…我には、あやつが愛するなど、維月よりないように思えてならぬで。」

維月は、しかし苦笑した。

「私はありませぬ。意識の一部を繋いでおりましたが、そんな気配は全くありませんでした。天黎様には、維黎と私、引っくるめて同じく家族としての情をお持ちで。それだけですわ。」

碧黎は、眉を寄せた。

「…確かか?」

維月は、何度も頷いた。

「はい。繋いでおる間に、それ以上の感情など感じてはおりませぬ。私ではありませんわ。ご案じなさいますな。」

碧黎は、しかし怪訝な顔をした。

「…しかし…。」

十六夜も、言った。

「上手いこと隠してやがるかも知れねぇだろうが。お前以外なんか、考えられるか?」

維月は、息をついた。

「あなたね、世界狭すぎ。私は繋いでいたから知ってるけど、天黎様ってあれであちこちの世界中の神と話したりしてるわ。自分が創造主だとか言わずにね。それに、あちらの空間にも同じような命の知り合いがたくさん居るのよ。全部把握していないのに、そんなふうに疑うのはおかしいわ。あの方の交際の全てを理解しているつもり?」

言われてみたらそうだ。

碧黎も、息をついて頷いた。

「…そうだの、分かった。あやつがここだけに存在するわけではないのは知っておったはずなのに。すまぬ、つい勘繰ってしもうたわ。」

十六夜も、頷く。

「そうだよな。すまねえ、言われてみたらそうだ。別にさ、天黎の想いびととか、知らなくても良くね?本人が何もしねぇって言ってんだし。親父ももう心配すんな。」

碧黎は、頷いた。

「そうだの。」

維月も、微笑んで言った。

「そちらの懸念が解消されたところでお父様、ご存知でしたか?蒼と維織のこと。対だと天黎様にお聞きしましたの。まさかと思うておりましたので、驚きましたわ。」

碧黎は、答えた。

「なんとのう、そうではないかとは思うておったゆえな。だが、我には確証を持てる情報がないゆえ、口にせなんだのよ。」

十六夜は、頷いた。

「ただ兄妹だから気の色が似てるんだと思ってたもんよー。」

二人は何やらはしゃいでいるが、碧黎はまだ、案じていた。

維月は何も感じ取れなかったと言っているが、天黎は維月と繋いでいる時に、もう自分が誰を陰陽として愛しているのか自覚していたはずだ。

だが、それを繫がっているはずの、維月に気取れていなかった。

なぜなら、維月は天黎がまだそちらのことに関しては、何も分かっていないと思っていたからだ。

が、天黎には分かっていた。

つまり、維月には隠していたのだ。

確かに天黎には多くの命との交流があるだろう。

が、最後に頼ったのがその中で維月であった事実は、碧黎にはどうしても、天黎にとり維月が特別なのだと思えてならないのだ。

しかし、余計なことを言って維月に意識されてはならないと、碧黎はそれ以上何も言わずに、ただ十六夜と維月が話すのを聞いていたのだった。

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