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対の話

二人で天黎の対にある、居間へと入って窓際の席に並んで座ると、天黎は言った。

「そうよ、この際であるから十六夜も呼ぼう。」え、と維月が驚いた顔をすると、天黎は続けた。「居間で二人きりとなると、維心だとて良い気はしまい。主はそれでなくとも我のために時を割こうとしてくれておるのだし、要らぬ懸念は抱かせたくない。十六夜も居れば、問題ないだろう?」

確かにそうだが、これまでそんなことを気遣ったりしただろうか。

維月は戸惑ったが、頷いた。

「はい、では十六夜も。」と、空を見上げた。「十六夜。」

すると、十六夜が見る間に人型を取って、目の前の庭へと現れた。

そして、こちらへやって来て窓を開いて中へと入って来た。

「…聞いてた。どうしたんだよ、天黎。今までそんなこと言ったことなかったのに。」

天黎は、答えた。

「維月と一部を共有しておった数日で、いろいろ学んだのよ。今では、だいたいのことは分かるつもりよ。」と、十六夜を促した。「座るが良い。」

十六夜は、維月の反対側の隣りに座った。

維月は、言った。

「…では、あの、いろいろ学んでおられるようで、心強い限りですわ。本日は、こちらの問いに答えてくださるとか。」

天黎は、頷く。

「答えられぬこともあるがの。主らが己で見つけねばならぬ事は、知っておっても答える事はできぬ。それでも良いなら、問うが良い。」

十六夜と維月は、顔を見合わせた。

十六夜が、言った。

「…そうだな、だったら聞くが、オレ達みてぇな命は、皆対で生まれるって聞いた。」

天黎は、頷いた。

「その通りよ。主らは一つの命から二つに分かれた命。我と天媛も、碧黎と陽蘭も、それに大氣と瀬利もそうであるな。そのようにしておるからそうなのだ。」

将維と葉月もだものね…。

維月は、思った。

「あのさ、オレは維月を愛してるけど、他は自分の対を愛してないことが多い意味を、最近知った。相手も自分だからなんだよな。オレも、維月と一緒に如月になってると、維月に対する愛情はあんまねぇかもって思っちまう。でも、離れたらやっぱ愛してる。そんな感じ。」

天黎は、言った。

「…それはどうかの。」え、と二人が天黎を見ると、天黎は続けた。「己を大切にできぬものは、他者とて大切にはできぬもの。とはいえ過ぎてはただの自己中心な命になるが、ある程度は自分自身も大切に愛さぬとの。我は天媛には陰陽の愛情などないが、しかし一応大切には思うておる。相手も己であるので嫌な所は目に付いて、己に見せつけられておるように思うて本気で憤るが、結局折り合う。あやつも幸福であってほしいと思う。これも愛情の一種であると我は思う。」

維月と十六夜は、また顔を見合わせた。

もしかしたら、天黎は本当に結構理解しているのかもしれない。

「…驚きました。天黎様は大変に深く理解が進んでおられるご様子。言われてみたら、私もそのように。」

天黎は、苦笑した。

「どうかの、これは我の考えであって、他に考えがあってもおかしくはないと思うておる。我はまだまだ愛情に関しては未熟な命ぞ。よう知っておる主らの考えが、主らの答えならそれで良いのではないかの。」

天黎は、やはりめちゃくちゃ大きな命なのだ。

維月は、悟った。

一度学びが進み始めたら、こちらも驚くほどに完璧に理解してしまうのだ。

考えられないほどの速度で。

十六夜は、言った。

「まあ…それはそれとして。対ってのはとりあえず分かった。オレ達みたいな命はみんな、分かれて二つになった命だって。でも、将維と葉月も二人だけど、維黎は?あいつは一人だったよな。お前と維月の間の命なのに。」

天黎は、頷いた。

「あやつこそ特殊よ。あれはわざと二つに分けずに作った命。何しろあのような状況で、我の学びのために生まれてくれた命であるから、一つで充分だった。複数となると、初心者の我に育てられるのかと責任を感じた。何しろ、これまで放置して見守るだけで、手を掛けて育てた事などなかったからの。もし我がしくじっても、一つの命の維黎ならば、しっかり育ってくれようと考えた。困るのは、結局維黎自身であるからな。」

だから一人だったのか。

維月が思っていると、十六夜は続けた。

「それなら分かる。でも維織は?あいつもオレと維月の間の子なのに、たった一人だったけど。」

天黎は、苦笑した。

「あやつには対がおるぞ?」え、と維月と十六夜が驚いた顔をすると、天黎は続けた。「生まれた時は一人であったがの。長らく待たせておったのよ、というのも主らは、最初に成した命のことを覚えておるか?」

最初に成した命?

二人は、また顔を見合わせる。

そして、維月があ、と口を押さえた。

「…蒼?」

十六夜も、目を見開く。

そう、よく考えたら一番最初にできたのは、蒼に今入っている月の命だ。

あの時、維月は人の体だったので死にかけたが、蒼も死にかけていた。

何の意識もない、純粋な命が、まるで誂えられたかのように生まれ、蒼に宿って蒼は蘇った。

天黎は、二人が理解するのを待って、頷いた。

「そう、あの時ぞ。我らは蒼のために命を主らに下ろしたが、その折できた命は二つ。が、宿るための器が一つしかなかったゆえ、一つはしばしあちらに留め置いて、次を待ったのだ。そして落ち着いた頃にまたもう一つを下ろした。ゆえに、蒼と維織は対の命よ。あやつらは気付いておらぬようだがの。」

マジかよ。

二人は、やっと分かったことに目が開かれるようだった。

つまりは蒼が陽だから、維織は陰の型で生まれたのだ。

「…知らなかった。」十六夜が、言った。「なんだよ、考えたら分かることなのに。なんで今まで気づかなかったんだろ。」

維月も、頷く。

「なんだかやっと収まるべき所に収まった感じがするわ。そうよね、蒼と維織は兄妹なんだものね。同じ私達の子で。」

十六夜は、頷き返した。

「だな。蒼にも維織にも教えてやらにゃ。対が誰なのか知らずに生きるのもだもんな。親のオレらが知らなかったんだけどよ。」

ほんとにそうだわ。

維月は、天黎と話すのは有意義だなあと思った。

たくさんのことを知っていて、全てを話してくれるわけではないが、こうして聞けば、言っても良い事はサクサク教えてくれる。

十六夜が、うーんと考えた。

「…なんか他に聞きたいことねぇか。こんな機会滅多にないぞ?天黎が話を聞いて答えてくれるんだからよ。」

維月も、眉を寄せた。

「ほんとに。でも、焦ると何が聞きたかったのかって思い浮かばないわ。きっと後から思い出して後悔するパターンよ。」

二人は、うんうんと頷き合って、うーんと悩む。

そんな二人を見ながら、天黎は笑った。

「…なんぞ、主らは。同じ動きで何やら滑稽ぞ。見ておったら何やら笑いたい衝動にかられるわ。誠に対の命なのだなあ。」

維月と十六夜は、笑われて少し、眉を寄せたが、しかし天黎が演技ではなく本当に笑っているのを気取って、何やらこちらもおかしくなって来た。

そうして二人はまた顔を見合わせると、天黎と三人で、声を立てて笑ったのだった。


そうして過ごした後、十六夜と維月は、自分達の対へと戻って行った。

天黎は、一人になって静かになった居間で一人、月を眺めていた。

…これが、淋しいという感覚か。

天黎は、思った。

あの二人とここで話している時は、明るい心地になって、いくらでも心から笑える心地になった。

が、こうして一人きりになると、何やら静かで、あの二人の笑い声や話し声が無いことが、心の底から残念に感じている。

…こんな感覚があるのだの。

天黎がしみじみとその感覚を味わっていると、その脳裏に声が聴こえた。

《天黎。話があります。時はありますか?》

天媛の声だ。

天黎は、頷いた。

《良い。何の話ぞ。あちらへ参るか?》

天媛は、答えた。

《…いえ、そこまでは。我がそちらへ参ります。》

天媛は言って、目の前に出現した。

月明かりの中、二人は向き合ってお互いを見た。

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