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レクチャー

それから、維月は昼間天黎について、庭を歩いたりと様々共に行動した。

時には、維黎と共に三人で訓練場に立ち、立ち合いなどもやってみたりした。

維月は常に天黎を観察し、意識の一部と繋いでおいて、湧き出る天黎が言うところのもやもやを、一々それはどんな感情、と話して言った。

天黎は、訓練場では楽しい、と感じていた。

そして、何より維月と維黎が自分を案じて、気遣う事を嬉しいと感じ、二人に対して肉親のような、好意を持ってすらいるのを突き止めた。

天黎は、維月に言われるままに記憶し学んで行き、どの感情をどう表現するのか、覚えて行った。

ほんの僅かな間に、天黎は自然な感情を出せるようになって来たのだ。

…さすがに、覚えが早い。

維月は、感心していた。

何しろ天黎は、一度言うと忘れないしその先まで理解してしまう能力の持ち主なのだ。

訓練場二日目になど、維黎と立ち合う様は、まんま親子だった。

楽しげで、相手を気遣い、時に厳しい様は、間違いなく父親のそれだ。

一部が繋がる維月には、天黎が心からそう反応しているのが分かっていたので、微笑ましく見ていた。

「母上!」維黎が、頬を赤くしながら降りて来た。「父上には勝てませぬ。母上はどうでしょうか。」

維月は、苦笑した。

「我では父上に勝てなくてよ、維黎。何しろこの地上で、父上と対等に戦える命などいないのです。あなたは誇らしいわね。そんな父上のお子なのですから。」

維黎は、それは嬉しげに微笑んで答えた。

「父上の子なのに、不甲斐ないと思われてはと焦りますが、我は父上から教わることができるので。励みます。」

天黎が、愛おしげに維黎の頭をぽんと叩いた。

「何を嬉しそうに。ならぬぞ、父を超えようとせねば。悔しくはないのか。」

維黎は、神妙な顔をした。

「はい…でも、父上になら負けても悔いはありませぬ。不思議なのですが。」

驚いた事に、天黎は声を立てて笑った。

「おお、主は欲がないの。しかし、それではならぬ。父をも超えて行こうという気概は必要ぞ。碧黎のようにな。」

維黎は、真面目な顔をした。

「はい、父上。」

維月は、言った。

「さあ、ではそろそろお部屋へ戻りましょうか。天黎様、維黎は他の軍神達とも立ち合って、皆の稽古をつけてやらねばなりませぬ。蒼より、その役目をもらい、担っておりますゆえ。」

天黎は、頷いた。

「では、参るか。」と、維黎を見た。「しっかり役目を果たすが良い。」

維黎は、頭を下げた。

「はい、父上。」

「参ろう。」

天黎は、維月の手を取って、訓練場を出て行った。

維黎は、父と母が共に居るのが嬉しくて、それを見送りながらも笑顔が崩せなかった。


天黎は、歩きながら言った。

「主のやり方、誠によう分かる。」天黎は、維月を見た。「意識の一部を繋いで。主はそれを嫌がらぬからの。」

…聡子様は嫌がったのね…。

維月は、思った。

確かに、例え一部でも大きな命と繋がるのは負担が大きい。

何しろ、その記憶の一部が垣間見え、一々それを己の頭の中で分けておかないと自分自身と混乱してしまうし、やり方がわからないと怖いものだ。

が、維月は碧黎と頻繁に命を繋ぎ、その壮大な意識を綺麗に締め出す方法を知っていた。

なので、構える事なくそれができたのだ。

維月は、答えた。

「私はお父様と意識の共有もできますし、慣れておりますので。確かにこれは、普通の神には敷居の高いことかと。」

それに、天黎は意識的に維月に負担がないように、あちらでも意識を締め出してくれている。

なので、それほど面倒だとは思っていなかった。

天黎は、言った。

「…やはり月の眷属同士で関わる方が良いの。お互いに理解が深いので、お互いに嫌な思いをせずで済む。主のお陰で我にも、愛情らしきものがあるのが分かったし…もっと維黎と接して、あやつに対する己の心地を学んで参ろうと思うた。もちろん、こちらに居る間の主ともの。」

維月は、フフと笑った。

「ですが天黎様、ご自覚がお有りでしょう。維黎と私以外にも、お父様にも十六夜にも、愛情らしい感情をお持ちです。特にお父様には、かなり強い愛着がお有りのようで。」

天黎は、それにはすぐに頷いた。

「それはそうだろうと思うておった。何しろ我は、碧黎を長い時間育てて見守って来たのだ。あやつは我の期待通りに育って参り、賢しく善良で誠実、そして強い命よ。それが誇らしく、あれの幸福を常に願って来た。まあ、だがあやつが何に幸福を感じるのか、つい最近まで理解できなんだがの。あやつに対しては、父親としての愛情とやらが、あると言われたらそうだろうなと納得できる。これがそれなのだと、感じ取ることができた時に、我にも感情が理解できるのだと希望を持ったものよ。」

維月は、微笑んで頷いた。

「はい。そう、今感じていらっしゃるのが、愛情の一種ですわ。お父様のことは、絶対に消滅などさせてはならぬと強く思うていらっしゃる。それは、己の中の法を犯してでもと、考えておいでですか?」

感じ取れたまま口に出した維月だったが、己で言っておいて驚いた顔をした。

天黎は、苦笑した。

「こら。碧黎には申すでないぞ。それは万が一ということよ。あやつは陽蘭なようなことはない。あれは賢しい。単独でよう育っておる。陽蘭は、極端に愛というものを突き詰め過ぎて学びが進まず狂うてしもうた。碧黎は、それだけに固執する命ではない。まあ、どちらも同じ命ではあったが…分けた場所が悪かったのかの。そこは考えて分けるべきだったやも知れぬ。」

…お父様なら聞いておられるかもなのに。

維月は、思って苦笑した。

「天黎様ったら。お父様が聞いておられるやもしれぬのは、ご存知でありましょう?」

天黎は、少しいたずらっぽくニッと笑った。

「…知っておる。だが主が口に出してしもうたゆえ、我にそれを止められると思うか。」と、維月の肩を抱いて引き寄せた。「こうしたら出て来るのではないか?」

すると、むっつりとした声が背後からした。

「…こら。からかうでないわ。」と、維月を引っ張って天黎から離した。「ならぬ。維月は異性として求める対象にはせぬと申したよな?そのようにしておったら、知らぬ間に愛してしまうのではないかと案じるわ。やめておけ。」

天黎は、笑った。

「良い。からかっただけよ。」と、維月を見た。「本日はもう良いゆえ、碧黎と共に過ごしてはどうか。我はそこらを見回って参るわ。」

維月は、頷いた。

「はい。ですが、明日からは維心様が来られるので、しばらく共には過ごせませぬが。よろしいでしょうか。」

天黎は、答えた。

「良い良い、何やら気分が良いのよ。七日であろう?その間あちこちして新たな感情は湧かぬか試しておく。意識は一部繫がっておるし、分からぬ時は頭の中の主に問うゆえ。」

維月は、頷いた。

「はい…では、そのように。」

そうして、天黎はそこからスッと消えて行った。

碧黎は、ため息をついて維月の手を取ると、言った。

「…では、我の対へ。」と、歩き出した。「あやつは憎めぬゆえなあ。父親という意識は、この命であるから無いのだが、それでもあれが神や人の言うところの父親であるのは確か。あやつほど、我を見守り続けてくれた命はおらぬゆえ。見捨てることはできぬ。」

維月は、頷いた。

「はい。天黎様なりに、案外に感情は豊かであられるように思います。これまで、浮かんだものは全て押さえ付けてすぐに消しておしまいになっておりましたの。それすら、己で分かっておられなかったのですわ。暴走しましたらと天媛様にはお頼みしてありますが、特にそんなに案じる事もなく。頭の良いかたですので、教えたらすぐに出してならぬ感情、出しても良い感情を選んでしまえるようになられました。感情がないなど、果たして何故に思われていたのかと思うほどですの。聡子様が諦める、意味もわかりませんでした。」

碧黎は、苦笑した。

「それはの、月の眷属同士であるからよ。天黎と一部とはいえ意識を繋ごうなど、一般の命は自己防衛本能が働いて恐ろしくてできぬ。が、主は我と命を繋いでおるから、己を守る術を既に知っておる。なので天黎相手でも構える事なく、意識疎通は円滑ぞ。ゆえにできた事であって、一般的にはできぬもの。それゆえぞ。」

そうだったのか、と維月は頷いた。

「…確かにそうかも知れませぬ。最初にお父様の意識の大きさに飲まれそうになった時、愛情が無ければすぐに恐怖で離れてしまったやも知れませぬ。が、そのうちに慣れて参って。ならばこれは、私が適任であるのですね。天黎様が頼みに来られるはずですわ。」

碧黎は、顔をしかめた。

「…それだけではないような気もするがの。」維月が眉を上げるのに、碧黎は続けた。「良い、深く考えては面倒よ。さあ、何をするかの。明日には維心が来るだろう。ゆっくり過ごせるのもそう時はない。庭でも見るか?」

維月は、頷いた。

「はい。ゆっくり散策でも。立ち合いを見ておるだけでも疲れてしまいましたの。維黎は楽しそうでしてけれど。」

碧黎は、笑った。

「あやつは主らが揃っておるのが嬉しいのよ。一般的な親子ではないゆえなあ。父母が揃うことが少ないのだから。」

維月は、頷いた。

「はい。あっさりと手を翳しただけで生じた命なのだとは、なかなかに打ち明けられませぬし。あの子は、月の眷属であるのに神を友としていて、意識が神のそれですので。」

碧黎は、頷いた。

「そのうちにの。分かる時が来るであろうて。」

そうして、二人は碧黎の対から外へ出て、庭をゆったりと歩きながら、話を続けたのだった。

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