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完全体

碧黎がそこで空を見上げて待っていると、後ろにいきなり気配が現れた。

「…天黎。しばし待て。維月は十六夜と共に完全体で降りて来てみたいようよ。」

天黎は、頷いて進み出て、碧黎の横に立って空を見上げた。その瞳の色は、今は青だ。

「…おもしろいことよ。どんな姿になるのかの。」碧黎が天黎を見ると、天黎はこちらを見て続けた。「それにしても、対ではない命と繋がると、対と繋がるのとは違った感覚とな。我は、誰とも命を繋いだことがないので判断のしようがないがな。」

碧黎は、言った。

「主、聡子と婚姻しただろうが。それは体だけであるが、そんな感覚が対ではない同士が命を繋ぐとするわけよ。だが、対であったらそんなことはないらしい。」

天黎の瞳の色は、青いまま変わらない。

少なからず婚姻の経験を思い出したはずなのに、それには動じぬのだなと碧黎が思っていると、天黎は言った。

「…結局のところ、我にはその感覚が分からぬでな。」碧黎が眉を上げると、天黎は続けた。「婚姻の行為というものは主らに教えられて試した。が、聡子とは成せてはおらぬ。身が主らが言うようにはならぬでな。自分に興味もないのかと、聡子が怒ってしもうたわ。維月の時は…」と、フッと瞳が赤くなった。「…実際に身を繋いだわけでもないのに、主らが言うような形になったがの。あれが婚姻の感覚と申すなら、確かに心惹かれることよ。」

ということは、結局天黎は自分の心と体が連動している命なので、興味もない感情も動かない聡子に対しては、全く反応しなかったと言う事になる。

維月は陰の月のチート技が使えるので、それを本人が拒絶しない限り、体は反応するだろう。

…それにしても、維月が言う通り、感情と瞳の色が連動しておるようよ。

碧黎が思っていると、空からキラっといつもより大きめな光が光ったのが見えた。

「お、来たぞ。」

天黎が言う。

碧黎が目を凝らして見ていると、大きな光は段々に人型へと変化して来て、キラキラと光る長い髪が風になびいているのが見える。

そして、段々に降りて来たその人型は、着物は維月の着物を着ていたが、体は大きく一見男性のように見え、髪は金色、そして瞳の金色の、それは美しい顔立ちの人型で目の前に降り立った。

…どっちぞ。

碧黎は、眉を寄せた。

陰陽どちらなのか分からない。

とはいえ、表情の作り方は十六夜で、しかし口元の涼やかさは維月のような気がするし、男なのか女なのか、判断がつかない。

その人型は、口を開こうとしながら一旦閉じ、そうしてまた開こうとして一旦閉じてを繰り返していた。

「…どうした。声が出ぬのか。」

すると、その人型は言った。

「違うんでぇ、維月がどっちで話すってうるさくてよ。」声も、男女どちらでもありそうな低音だ。「…神世にならって話してはどうかと話しておりますが、十六夜が聞かぬのです。」

まだ、どういう風に動けば良いのか、混乱しているらしい。

天黎が、笑った。

「そうか、こうなったか。こちらも維月と呼べば良いのか十六夜と呼べば良いのか分からぬから困るの。そもそも、その型は陰陽どちらでもないのだろう。それとも、どちらかに偏っておるのか?」

その人型は、一瞬黙ったが、言った。

「…少しお待ちを。」と、言ったかと思うと、こちらに背を向けて着物の裾を開いて、足の間を確認しているようだ。そうして、また裾を閉じてこちらを向いた。「どうやら、どっちになりたいか考えたら勝手に変わるらしい。今は何もない。」

そういう仕様か。

碧黎は、珍し気に見た。

「誠に美しい人型ぞ。そして陰陽どちらでもなく、またどちらにもなれるとはの。面白い。不便であるから、その型の名でも付けるか?」

それは答えた。

「えー名前かあ。何がいいだろうなあ。月だから月のついてるやつにしてくれねぇか。」

碧黎は、眉を寄せた。

「…話し方が混乱するゆえ、統一せぬか。そうだの、我らと同じように話してはどうか。一応、陽として。陰にしては大きな体であるしな。」

すると、じっとその人型は黙ったが、口を開いた。

「…では、そのように。それで父上、考えたのだが、如月はどうだろうか。今は皐月だがそれでは安易だし、水無月とかもあまり。刀の名になるほどであるから、それが良いと維月が言うので。」

碧黎は、まだこの月の命完全体と話すのに慣れなくて、少し戸惑いながらも頷いた。

「ではそれで。呼び方など何でも良いからの。主は如月。十六夜と維月を足したら如月で。」と、天黎を見た。「それで、天黎が待っておるのだがの、維月よ。その人型が見られただけでも珍しく有意義だったが、個々で対応せねばならぬこともある。そろそろ戻ってはどうか?」

如月は、頷いた。

「ではそのように。」

と、フッと型が崩れたかと思うと、一つの大きな光になった。そして、それは二つに分離して、そうしてそのまま、それぞれ人型へと変化した。

「…慣れねぇ。自分の体なのに、上手くしゃべれねぇし。」

十六夜が言う。

維月も、頷いた。

「話そうとするのに自分が抵抗する感じなのよね。私の口調で話したくないって十六夜が抵抗してて、私は十六夜の口調は嫌って抵抗するから。でも、めっちゃ力がみなぎってる感じだった。何でもできそうって思ったわ。」

十六夜は、頷いた。

「オレも。陰の月の力の使い方なんか厄介だと思ってるのに、簡単に使えるコツってのが分かってるんだよ。」

お互いに向かい合って、うんうんと頷き合っている。

碧黎は、苦笑した。

「まあ、滅多に如月で行動することなど無いと思うが、どうしてもとなったら使えると思うと良いのではないか。それまで、お互いにすり合わせておくが良い。話し方や、動き。どちらが出てどうするのか、その時にギクシャクせぬように、暇の時に考えておくが良い。いくら完全体でも、動かす者が混乱しておったら面倒な事になるぞ。まさかの備えはしておくが良い。」

維月は、頷いた。

「はい、お父様。」

天黎の瞳は、いつの間にかまた青になっている。

天黎は、手を差し出した。

「では、維月を借りて参る。維月が良いと言わねばおかしなことはせぬゆえ、安心するが良い。我とて、学びの最後の砦を失くしたくはのからの。」

碧黎は、頷いた。

「見ておるゆえ。とはいえいつまでも抱え込むでないぞ。」

そうして、天黎と維月は歩いて宮の中へと入って行った。

それを見送りながら、十六夜が言った。

「…なんかなあ、親父や天黎が片割れを好きになれなかった意味がなんか分かる気がする。」

え、と碧黎は十六夜を見た。

「なんと申した?まさか命を繋いでみたら、維月が面倒になったのか?」

十六夜は、首を振った。

「違う!オレは維月を愛してるが、ああやって繋がると、維月も自分なんだよ。自分を愛してるっていうの?そんな感覚になる。離れたら別だぞ?あいつの人格を愛してるから、そんなふうには思わねぇが、命繋いでるとさ、自分を好きってどうよって気持ちになるわけよ。多分維月もそうだろ。よく考えてみろよ、大氣だって瀬利のことは兄弟みたいだって愛してるわけじゃねぇし、対ってさ、本来男女として意識して愛し合うためのもんじゃねぇんじゃねぇかな。だって自分だし。親父はお袋と繋がったことねぇから、分からなかったんじゃね?」

言われてみたらそうかも知れない。

だからこそ、他の命と繋がると、性愛的な感覚がするのかも知れない。

「…知らぬこともあるものよ。」碧黎は、言った。「まあ、主らは維月が月ではない時から愛し合っていたゆえな。とはいえ、今はやはり兄妹の感覚であろう。本来は、他に相手を探せということかの。」

十六夜は、答えた。

「分からねぇが、そうなのかもな。ま、オレは維月以外今更要らねぇし、別に良いけどな。」と、伸びをした。「さて、オレは月に戻る。親父は?」

碧黎は、答えた。

「我は今しばらく宮に。何かあったらすぐに参りたいしの。」

十六夜は、頷いて光に戻った。

そうして、空へとまた打ち上がって行ったのだった。

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