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動き

蒼は、宮の会合にも出るようになった。

燐と高瑞には申し訳なかったと、不在の間に全ての政務を肩代わりしてもらったことに謝罪した。

しかし、二人は全く怒っておらず、案じるように蒼を見た。

「もう、大丈夫なのか?蒼。」燐は言う。「意識を戻したばかりなのだろう。本調子になるまで、我らがやっておっても良いのだぞ。」

高瑞も、頷く。

「そうよ。どうせ大した政務はないのだ、我らは一向に構わぬゆえ。」

だが、蒼は首を振った。

「オレが寝ている間に、いろいろあったって十六夜から聞いて。翠明も大変だったろう。あちらには、詫びの書状と品を送ろうかと思っていて。」

燐は、首を振った。

「それは問題ない。直後にこちらで対応しておるゆえ、もう終わったことになっておる。今更蒸し返すのは良うない。どうしても気になるのなら、どこぞで会った時に軽く謝罪しておけば良いのだ。そもそも主が碧黎に眠らされておったことを、知っておる王は少ないのよ。皆、騒ぎを起こしたのでこちらで謹慎しておると思うておる。なので、これ以上そのことには触れるでないぞ。」

高瑞も、頷いた。

「天媛が申すには、碧黎は完璧に記憶を消しておって華鈴の記憶が戻ることはないし、紡は何もなかったと思うておる。主にできるのは、誠に何もなかったのだと素知らぬフリをすることぞ。」

蒼は、自分の代わりに自分のフリをして、皆が蒼のしでかしたことの処理をしてくれたのだと知った。

「…すまない。本当にありがとう。もう、こんなことがないようにするよ。華鈴にも…できたら最期に謝りたかったけど。オレのために転生してくれたのに、オレが狂ってしまって。本当に悪いことをしたと思う。」

高瑞は、頷いた。

「その気持ちだけで良い。華鈴はとうの昔に死んだのだ。その残像が現れておっただけよ。杏奈と杏子の記憶も、とりあえず天媛が綺麗にしてくれておるようだ。知っておる神は少ない方が良いと申して。ゆえ、主は案じることはない。これからは、こんなことをしでかさぬようにな。」

蒼は、頷いた。

「うん、もうないと思う。オレ、分かったんだよ…結局、オレはみんなを見送って行かないといけない命だ。それを悟ったはずなのに、すっかり忘れて感情に溺れてしまった。これからは、黄泉に行った者達を、待つのはやめにする。そのために、今生一緒に居る間は、後悔がないように、丁寧に接して行こうと思ってる。心残りがないようにね。」

燐は、頷いた。

「良い心掛けぞ。我らも今、こうして老いを止めて生きておるが、いつ何時黄泉へ向かうかわからぬからな。覚悟は必要ぞ。まあ、維織が申すには、我はまだまだ死なぬようだがの。」

高瑞も、頷いた。

「我もぞ。やはり月の眷属を妻に持つと、何か違うのかの。天媛は、まだまだ寿命はありますと我に申す。しかし何のためにと、時に思うがの。」

蒼は、それを聞いて思った。

恐らく、それは相手の学びのためだ。

月の眷属の学びは、長期に渡り誰でも同行できるわけではない。

選ばれた二人は、その為に長く生きるのだろう。

蒼は、笑った。

「じゃあ、オレのために頑張ってくれるかな?」蒼が言うと、高瑞と燐は眉を上げた。蒼は続けた。「だってほら、まだまだ政務は全くだし。いつまで経っても覚えないんだよね。」

燐が、クックと笑った。

「何を堂々と。ならぬぞ?己でできるようにならねばの。」

高瑞は、苦笑した。

「蒼に頼まれたら、どのみち我らは断れぬがな。」

そうして、臣下達が会合の間に集まり始めて、通常通りの会合が始まったのだった。


維月が月の宮へと月から戻って来て庭の芝の上に降り立つと、碧黎と十六夜が揃って待っていた。

驚いて二人の側へと行くと、十六夜が言った。

「親父から聞いたぞ。お前、天黎に愛情教えるって?」

維月は、首を振った。

「違うわ、まずは感情よ。聞いてなかったの?龍の宮で維心様と三人で話したのよ。」

碧黎は、言った。

「断片的にしか聞こえなかった。あやつが聴こえぬようにしておったゆえ。恐らく我が維月に負担を掛けるなと反対しておったゆえ、妨害しておったのだろう。しかし主と我は繫がっておるゆえな。妨害しても主から断片的には伝わった。しかし詳しくは分からなんだのよ。」

維月は、頷いた。

「ご安心くださいませ、愛云々よりも、先に感情であるかと。何しろ、天黎様は学習して、あのように振る舞うと感情的に見えると、演じておられただけなのですわ。つまりは、あれは演技で。皆を真似て、それらしく見せて円滑に過ごせるようにしておられたようです。ですが、実際は何も感じず。焦っておられたようですの。」

あれは演技か。

「…だとしたら上手くやっておる。最近では感情的過ぎるのではないかと思うておったほどであったが、あれは焦りからか。」

維月は、頷いた。

「はい。そのように申されておりました。ますます孤独を感じておられるようなので、ここはお助けせねばと思うた次第です。私が月の宮に里帰りしておる時限定ではありますが。」

碧黎は、頷いた。

「それが良いだろう。四六時中など、維心にとっても主にとっても負担になる。我が最初あれに付きまとわれてかなりの負担であった。」 

確かに、どこへ行くにもついて行っていたっけ。

十六夜が、言った。

「ってことは、今回からか?今日からあいつの感情レッスン?…まさかいきなり陰の月でとかじゃねぇよな。」

維月は、首を振った。

「違うわ。喜怒哀楽から先よ。実はね、話しておる時に気付いたのだけど、感情が少しでも動くと、目が赤くなるの。落ち着いていらしたら青。だから、分かりやすいなって思って。」

碧黎は、眉を上げた。

「あれはそれか。わからなんだわ。何故に赤いのよと訊いたら、知らぬと言われての。」

維月は答えた。

「昨日お話しておって、気付きましたの。ですから、それを手掛かりに、レクチャーして参ろうかと。」と、ハッとして、続けた。「お父様、昨日十六夜と命を繋ぎました。」

碧黎は、頷いた。

「知っておる。して?」

維月は、答えた。

「はい、あの、何と申すか…お父様や維心様と繋いだ時とは、全く違う感覚でした。それこそ無敵な心地で。とにかく十六夜も己という感覚なので、性的な欲のようなものは一切感じませぬ。ただ、安定してこれで元通り、といった感覚で。戸惑いましたが、安心するので長らくそのままでした。」

十六夜も、頷いた。

「そう、オレも他と繋いだ時とは全く違うから驚いて。月に居る時だったら、多分そのまま実体化できそうな感じ。」

維月は、何度も頷いた。

「そうそう!無敵の自分で実体化できる感じよね。」

碧黎は、驚いた顔をした。

あの状態で実体化など、あり得ない。

その感覚に夢中で、それどころではないからだ。

が、十六夜と維月は対なので、完全体として実体化もできるほど、何も性的な感覚はないのだ。

「…またなんと変わったこと。ならば一度試してみても良いやもしれぬぞ。どんな姿になるのかの。そもそもどっちが話すのか。」

十六夜と維月は、顔を見合わせた。

「…どっちだろう。両方オレだし。」

維月も言った。

「え、両方私よ。何言ってるのよ。」

碧黎は、二人をなだめた。

「分かった分かった、そうなるわな。ならばやってみてはどうか?我が見ておる。おかしなことにはなるまいよ。行って参れ。」

十六夜と維月は、顔を見合わせて、頷いた。

「…では、行って参ります。」

十六夜も、言った。

「また戻って来るよ。」

そうして、二人は空に打ち上がって行った。

碧黎は、空を見上げて完全体が戻って来るのを待つことにしたのだった。

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