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孤独

維心と維月がお互いに求めて愛し合い、満足して抱き合って眠りに入ろうとしていると、突然にパッと、高い天蓋の前に、天黎が現れた。

え、と維月が目を丸くして固まっていると、維心が起き上がって維月に襦袢を掛けてその肌を隠して天黎を見上げた。

「我の奥に突然に出て参るとは。十六夜でもそんな無粋なことはせぬぞ!」

維月は、その間に急いで襦袢に腕を通して前を塞ぎ、起き上がって維心にも襦袢を着せ掛けた。

維心はそれに腕を通しながらも、天黎を睨む視線を外さない。

天黎は、言った。

「急いでおったゆえ、主らの礼儀とか考えておらなんだ。が、維月に話があって参ったのよ。」

維心は、答えた。

「明日の朝にはあちらへ帰る。その時に話せば良いのではないのか。維月に話があると申すのならば、我も共に参ってその話とやらを聞こうぞ。また無理を申すのではないかと思うゆえな。」

天黎は、答えた。

「無理と申したらそうやもしれぬ。」と、維月を見つめた。「維月、我には愛というものが誠に分からぬのだ。聡子が教えてくれるのではと期待したが、あやつは我を愛しておらぬし、我もあやつを愛しておらぬと思う。それほど重要視もしておらなんだが、此度主と碧黎が見せた力には驚いた。愛には、我の知らぬ力があるのだ。それを、学ばねばならぬ。」

維月は、慎重に頷いた。

「…はい。天黎様がそれを求めていらっしゃるのは、私も気取っておりましたが、だからといって私に何ができますでしょうか。私は夫として維心様を愛しておりますし、お父様は父、十六夜は兄として愛しております。あなた様の入る余地がございませぬ。」

天黎は、寝台の上に降りた。

維心が、維月を庇って前に出る。

天黎は続けた。

「ルシウスは。あやつや闇達も、主は愛しておるのではないのか。」

維月は、息をついた。

「それは…同族として。友としての愛情でありますわ。あれらは長く不遇の時代を過ごしてきたのです。私からの愛情を与えてやりたいと思うからなのです。」

天黎は、頷いた。

「ならば、それで良い。」と、維心の隙間から維月の手を握った。「闇ですら知っておるのに、我は未だに知らぬ。片割れですらそれを知り、我は何より孤独ぞ。」

思い詰めた様子に、維月は戸惑った。

維心が、割り込んだ。

「無理を申すな。維月は満員ぞ。他を当たらぬか。」

維月は、維心を見た。

「お待ち下さい。」と、天黎を見た。「お話をお聞き致しましょう。居間でお待ちくださいませ。着替えて参ります。」

天黎は、頷いた。

「…分かった。」

天黎は、その場からスッと消えた。

維心は、維月を見た。

「維月…また面倒を抱えることになるのでは。」

維月は、維心を見上げた。

「ですが、孤独と仰るのに放っては置けませぬわ。確かに世に並ぶものがない力の持ち主で、この世界の創造主であるのですから。片割れとの関係もあんな様子では、確かに孤独でいらっしゃると思うのです。お話だけでも、聞いて差し上げようと思います。」

維心は、息をついた。

「…ならば我も。」と、寝台から降りた。「さあ、袿を。」

維月は頷いて、維心に袿を着せかけてから、自分もしっかりと腰紐を巻いてその上から袿を纏い、居間へと出て行ったのだった。


居間へ出ると、天黎はそこに座って待っていた。

維心は維月の手を取って、その前の椅子に腰掛ける。

維心は、言った。

「…まず、主の目ぞ。」維心は、口を開いた。「何故に赤い。青かったのではないのか。」

天黎は答えた。

「碧黎もそのように申した。が、我はそもそも型などにこだわったことはない。型を取ったら勝手にこうなっておるので、瞳の色がどうのと考えたことはない。ゆえに理由を聞かれても分からぬ。」

…それでは維月が陰の月になった時と同じ色。

維心は思ったが、本人が分からないのにこちらに分かるはずもない。

なので、それで黙った。

維月は、言った。

「…それで。天黎様は孤独とおっしゃいました。片割れが存在するので、まだその孤独も他の、単独で存在する命よりはマシなのではありませぬか。」

天黎は、言った。

「確かにそうやもの。そも、命というものは元は一つ。主らの場合、あちこちから寄せ集めたものを一度一つにまとめ、綺麗に二つに分割した命ぞ。黄泉では、ある期間を過ごすと強固に個として存在する命以外は、眠るように霧散して他の命と混じり、そうしてまた新たな命となり生まれ出る形を取っている。人などはほとんどそうよ。なので、孤独といえども身の内には多くの片割れを持ち、その実孤独ではない。」

そうなの?!

維月は、目を丸くした。

維心は、言った。

「…それは我も、人の事は知っておったので分かっておるが、我らは違うだろう?」

天黎は、頷いた。

「特別な神たちはこの限りではない。個として何度も転生を繰り返し、より強固に育って我らのような命を目指して学んでおる。我らは、何もない空間より何かのきっかけで渦を巻いて大きな一つとして発祥し、それが二つに分かれて目覚める。ゆえに我らが直接に手を下して作る命は皆、一度に二つ。二つの命を集めて一つにし、それをまた分割して作り出している。何故なら己がそうなので、同じようにしているからだ。」

維月は、頷いた。

「…ゆえに命を探して来てとか、以前仰っておられたのですね。それで…愛、でありましたか。孤独とは、天媛様がいらしても孤独と?」

天黎は、答えた。

「天媛のことはそもそも愛してはおらぬ。と思う。何かの折には、あやつと共に考えたり話し合ったりはするので今は信頼はしておるが、それは愛と申すものではないと思う。単に、我は不完全で、あやつと合わせて完全体であるので、我だけの判断では間違いがあってはならぬと考えてのことよ。」

それは理解できる。

維月は思った。

十六夜と一つになって思ったのは、力も満ちて思考もクリアで、どうして今まで分からなかったんだろうと思うこともたくさんあった。

完全体の方が、何かに対処するときは絶対に良いのだ。

「…そもそも、天黎様からしたら、我らは己が作り上げた世界の中の、作り上げた未熟な命達であって、より完璧なのはあなた様なのではありませぬか?対等のはずの天媛様でさえ、天黎様からは補佐の役割の命でしかなく、対等という意識はお有りになりませぬ。その意識の中で、誰かを愛そうとは難しいのでは。そも、聡子様のことも、愛そうとなさったので娶られたのでは?」

天黎は、それを聞いて息をついた。

その瞬間、スッと目の色が青く戻った。

「…その通りよ。我は聡子で婚姻の真似事をして、愛というものを学ぼうと考えた。何故なら天媛が、高瑞とそうして愛し合って穏やかに幸福そうに生きておるからぞ。聡子を選んだのは、あやつはただの神ではあるが、詠み人として全てを知り、見通していたから。我とよう似た意識で、世を俯瞰して見ておったゆえ、分かり合えるのではないかと思うた。が、想定外だったのはあやつは知っていたこと。我が…何事も起こること全てをただ傍観し、それを己には関係ない事として見ていることを。つまりはこの世界は己の世界ではなく、外から見ている観察者としての意識しかないことをの。当事者でないのだから、全てはなすがままに。何の感情移入もなく、何が起ころうとしていても起こっていても、外からの働きかけがなければ動くこともない。無関心ではないが、我には感情がない。」

維月は、驚いた顔をした。

「え、以前より、表情が豊かにおなりであるし、反応も…我らと変わらぬようになっておいでです。」

天黎は、苦笑して首を振った。

「…全ては、模倣。」維月が、驚いた顔をするのに、天黎は続けた。「そう反応する神のフリをしておった。その方がこの世界では上手く行く。もちろん、何も感じないわけではないし、時には何かが胸の奥に湧き上がって消えるが、それが何の感情であるのか、そもそも感情であるのかすらわからぬのよ。最近では、焦りからより多くを演じて主らのように振る舞っていたが、心底そうではないゆえに、虚しさしかない。誠の我ではない。」

案じた様子は、演技だったのだ。

片割れですら感情を覚えて学んで行く様を横目に見ながら、己は何も感じぬままに、ただ真似て演じて己を隠して生きていた。

それは、多くの命に囲まれていても、かえって孤独を感じるだろう。

維心と維月は、顔を見合わせた。

維心の目は、もう憤ってはいなかった。

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