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対の命

維心が着替えて定位置に腰かけると、維月はその隣りに座って、言った。

「あの、父が何やら悟ったようになって。私と十六夜こそが対の命であるのだから、本来はそちらに権利があるような事を申して、命を繋いでも気にしないと申しまして。ならばと、十六夜と命を繋いでみましたの。」

あれか。

維心は、自分も月になっていた時に経験した、あれを思い出していた。

身を繋ぐわけでもないのに、そんな感覚がもっと奥深くからして戸惑ったものだった。

維月は続けた。

「維心様は、きっと私と維心様が繋いだ時のことを思い出されたでしょう。ですが、実際は違いますの。唯一、片割れと命を繋いだ時だけ、私達は体を繋ぐような感覚は一切ありませなんだ。十六夜と繋がった瞬間、元に戻ったという安心感と安定感が二人の心を支配して、長く離れることができませんでした。その時、私達は悟ったのですわ。私達は、元々一つの命が、二つに分かれたものだったのだと。」

元は一つの…?

維心は、驚いた顔をした。

つまりは、一つの命が分かれているから、対だということなのだと、その一言で悟ったのだ。

「…それは、つまり一つの命が二つに分かれておるゆえに、主らは対ということか。碧黎も、陽蘭とそうであったが失ったゆえ、あのような衝撃があった。己を半分亡くしたようなものだからか。」

維月は、維心の察しが良いのに驚きながら、頷いた。

「その通りですの。結局、後からどうにかできるものではなく、その発祥の時点で対とは決まっておるのです。私が陰の地を兼任するようになったからと、お父様の片割れではなかったのはそれゆえで、結局どこに居ようと、共に生まれて元々一つの命であった者達は、ずっと対の命なのですわ。私の対は十六夜で、私達は元々一つだったのだと、ついさっき知りました。」

だから十六夜と維月は似ているところもあるが、全く違う所もあるのだ。

二人で、一つの命を分け合って分かれて存在するからなのだ。

「…ならば、我らのような命には、対は存在しない。」維心は、言った。「元々単独で存在し、分かれたものではないからぞ。対というものが存在するのは、主ら月の眷属だけということになる。」

維心様は頭が良いなあ。

維月は、感心した。

ちょっと言うとすぐ理解を広げてくれるので、説明がしやすいのだ。

維月は、頷いた。

「はい。ですが維心様、運命上の対とは存在すると、私は思いました。元々共にと運命付けられた命というものですが。本当の対は、愛し合うとは限りませぬ。天黎様と天媛様もそう、お父様とお母様もそうでした。私と十六夜は、たまたま相性も良く愛し合いましたけど、そうでない対も多いのです。何しろ大氣と瀬利もそうでしょう?元々が一つの命というだけで、疎ましくさえ思っている対も居ます。愛し合うのは、また別の話なのですわ。」

維心は、維月の手を握って頷いた。

「そうであるな。そんな簡単なことではないのは、これまでのことで分かっておる。元が一つだからと、近過ぎて…よう考えたら、我なら己の分身を愛せるのか分からぬ。何故なら良いところも悪いところも知っており、その悪いところは許せぬ心地であるからよ。相手にそれを見て、許せぬ心地になりそうよ。ゆえに他の対も、愛し合う者達が少ないのやもしれぬぞ。主らはそもそもが愛し合った時は別の命の意識であって、主は陰の月の命を明け渡されてそこに意識を刷り込んだ形であるものな。」

維月は、頷いた。

「そうですの!十六夜とは兄弟で、今生は前世とは違って男女というより肉親で…近過ぎるのですわ。生まれた時から一緒というのも、良し悪しなのかもしれませぬ。」

維心は、頷いた。

「そうだの。つまり、前から申しておるように、主は我を愛しておるのは夫として、十六夜は兄妹、碧黎は…父というより保護者のような感覚か。」

維月は、頷いた。

「はい。我らが命を繋ぐことを重要視するのも、恐らく一つに戻って安心感を得て、再び個々に励むためで、人や神のように子を成すとか、そんなことはその安定感には及ばないからなのではないかと。対以外と繋いだ場合、そんな安定感は得られないので、代わりにあのような…体を繋ぐような感覚があるのではと、推測致しました。こうして考えると、結局対以外であると、十六夜の時のような一体感はありませんでした。確かに一つではありますが、パズルがはまるようにピッタリと全ての角が揃うわけではないのです。十六夜とは、寸分の狂いなく本当にピッタリでした。あのまま実体化したら、どんな型になるのかなあと思うほどに。」

維心は、眉を上げた。

「…実体化するほどの余裕があるのか?」

維月は、頷く。

「はい。だって維心様、元に戻るだけですの。そこに何の高揚感も、感覚もありませぬ。これこそ本当の自分、といった感覚で…月に戻っておる時に繫がって、そのまま降りて来たら一人で両方こなせる完璧な自分になるなあって、そんな感じで。つまりは、二人の時は不完全ですが、一つに戻ると完全体、という感覚なので。」

どう説明したら分かるだろうか。

しかし、維心は頷いた。

「分かるぞ。つまりは我が一つである今が完全だとしたら、いろいろな能力を分け持っておるゆえ、そうだの、政務の得意な我と、軍務が得意な我に分かれていたのが、一つに戻って我になる、ような感覚ではないか。片方では片方しかできぬので、完全ではない。」

維月は、手を叩いた。

「そう!そうですの、その通りですわ。」と、息をついた。「十六夜など、考えるための部分を私が全て持って行ったからオレには無理、とか言って寝てしまいましたわ。きちんと話して理解したかったのに…まあ、同じ感覚なのは分かっておるのですけれどね。」

維心は、ククと笑った。

「十六夜らしいわ。だがあやつだってきちんと考える時は考えておる。そこは比率の関係だろうて。」と、維月の両方の手を握った。「ならば、我は主らが二人が好ましいのだ。我は主という命を愛したし、よう考えたら十六夜のことすら大切に思うておる。主とのことを真剣に聞いて、なんとか関係を良くしようと本気で考えてくれるのも十六夜ぞ。あやつは主なのだ…主はあやつ。これからも両方を大切にして生きて参ろうと思う。」

維月は、やはり維心を愛して良かったと、微笑んで頷いた。

「はい。あなた様は私の運命の片割れでございますわ。生きて参るのに命の気以上に必要な存在。あなた様が居ないこの世に留まろうとは思いませぬもの。よう考えたら、あなた様と共に黄泉へ参ると決めた時に、十六夜も連れて行かぬ選択肢は前世の我にはありませんでした。命の片割れであったからでしたのね。十六夜も、私と共に参るとあっさり決めていましたし。」

維心は、頷いた。

「確かにその通りよ。いつなり三人であって、我も自然とそれを受け入れておったしな。主を愛すなら、十六夜も共になのだ。今更に分かってスッキリしたことよ。」

十六夜も、対の維月が愛して決めた維心だからこそ、受け入れてくれていたのだ。

自分が決めたようなものだからだ。

そう考えると尚一層十六夜が慕わしかったが、そんな命でもないのに、それを理解しようと努めて、ずっと共に居てくれる、維心も貴重な存在だ。

維月は、維心に身を寄せた。

「維心様…今夜はこちらに泊まってもよろしいでしょうか。明日の朝あちらへ戻ります。」

維心は、維月を抱きしめて頷いた。

「悪い事などあるはずはない。共に。奥へ参ろう。」

維心は維月を抱き上げて、そっと額に口づけた。

…維心様はこんな時、本当に艷やかで妖艶なお顔をなさるよなあ。

維月は思いながら、歩き出す維心の首に腕を回して、維心に口づけた。

維心はそれに応えながら、奥の間へと向かったのだった。

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