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妃達と共に

維月が、必死に追い付いて来た自分の侍女達に命じて、茶と菓子を準備させて待っていると、多香子を先頭に妃達が続々と中応接間へと案内されてきた。

皆が頭を下げるのを、笑顔で迎えた維月だったが、何やら皆の表情が暗い。

維月は、言った。

「…もう、ご挨拶はよろしいですわ。皆様、お座りになって。茶と菓子を準備させておきました。」

皆は、顔を上げて椅子へと向かった。

多香子が、言った。

「維月様には、お待たせしてしまいました。」

維月は、首を振った。

「よろしいのですよ、我は運ばせたのですから。それより、何かありましたか。皆様、何やらお顔が硬いですわ。」

それには、綾が答えた。

「それが…こちらへ向かおうとしまして、立ち上がりました時に、椿だけは渋りましたの。そのせいで、龍王様には大変にご気分を悪くなされて…。」

綾の声が、震えている。

ということは、維心が何かやったのか。

「まあ。我が王が何か?ご機嫌をお悪くなさると、理不尽なことも仰る事がございます。お気になさらずに。」

多香子が、キビキビと答えた。

「いえ、あれは龍王様がお気を悪くなされて当然かと。」皆が、多香子の強い調子に驚いた顔を多香子に向けたが、多香子はお構い無しに続けた。「龍王妃様のお誘いでありますのに、一人あの場に残るなど。正気の沙汰ではありませぬ。宮と宮との関係にも関わって参る事態です。箔炎様にも、お怒りになるのはごもっともかと。」

ハッキリ言うなあ。

維月は思ったが、ということは維心が悪いのではない。

恐らく維心は、椿をあの場から出そうとわざと強く諌めたのだと思われた。

何しろ、王妃に対しての無礼は、王に対しての無礼と同じと考えられていて、あのまま居座る事になれば、多香子が言うように箔炎すらも立場が悪くなってしまう。

とはいえ、椿は正妃ではないので、すぐにはおかしなことにはならないだろうが、面倒を起こさぬようにと考えた、維心の立場からできる最大限の配慮だったのだろう。

維月は、息をついた。

「…我が王は、我を正妃と大切にしてくださるので、我は気にせぬ事ではありますが、王からしたら我の茶会に出ぬとはと、ご機嫌を悪うなさったのでしょうね。その場に我がおったなら良かったのですが…。」と、椿を見た。「椿様には、ならば控えに戻られますか?王には、我からお加減がお悪いようですのでと申し上げておきまする。ご無理はいけませぬわ。」

椿は、首を振った。

「違うのです、維月様との茶会を嫌ったのではなく、ただ…我は、王のお側に居たいと思うただけなのですわ。」皆が、眉を上げる。椿は訴えるように続けた。「維月様、我は宮では、お顔を見ることもできずでおるのです。」

知ってる。

維月は思ったが、慌てて侍女に頷きかけた。

「…友同士で語り合いたいので、皆は場を外して。」

大勢居た侍女達は、一斉に頭を下げてその場を離れて行く。

維月は、皆が去るのを確認してから、椿を見た。

「…箔炎様から、居間への立ち入りを許可なくしてはならぬと言い渡されたと聞いております。」

椿は、涙ぐんで頷いた。

「はい。お正月の袴の件で、まだお怒りなのかと一生懸命弁明しましたが、それだけではないのだと申されて。ろくにお話も聞いてもらえぬまま、もう一月もお顔を見ておりませなんだ。同じ宮に居るのに、文でしか思いを伝える事はできませぬ。それなのに、王はお返事もくださらず、お読みになっておるのかも分からぬ様子で…。様々に気を引こうと致しますが、遂にはうるさいと一番遠い部屋に移されてしまいました。本当に久方ぶりに、本日お顔を見て側近くに。ゆえに離れとうなかったのです。」

気持ちは分かる。

維月は、小さくため息をついた。

だが、そこまで強引になると、ますます離れてしまうもの。

維月は、言った。

「…お気持ちは分かります。が、殿方とはこちらが強く出れば出るほど離れてしまうもの。追わせるぐらいがちょうどよいと、陰の月である我からは申し上げておきまする。今のままでは、遠くに逃げてしまわれて、取り返しのつかぬ事にもおなりでは。ここは退かれて…数年、落ち着いてお待ちになれば、お戻りになることもあるやも知れませぬ。が、今は悪い方向へ向かわれておりますわ。まして、我が王がそのように仰って、今頃場は恐らくその話で持ち切りでしょう。王達の間で、何か決められてしまうやも知れぬのですよ。宮に仕えるからには、王が法。従わぬ者は妃であっても容赦ありませぬ。混乱のあまり、それをお忘れになっておるのではありませぬか。」

皆が、神妙な顔をする。

王が法なのは、皆分かっている。

椿は、言った。

「分かっておりますわ。ですから最近では、内の事にも真摯に取り組み、王の御為にと励んでおりますのに。口答えも致しませぬ。しようにもお顔を見ることがないのですから。」

綾が言う。

「でも、此度は宮に居れと言われたと言うておりましたね。それを聞かずに強引にご同行したのではありませぬか。こうして見ると、此度は楓様、桜様、楢様はいらしておられませぬ。つまりは、皆様は宮に残られておるのですよ。ですが、特にご不満など、聞いてはおりませぬ。」

綾が言う通り、今回、参加しているのは維月、多香子、椿、綾、恵麻、明日香の六人だけだ。

恐らく正月も同行したので、今回は遠慮したか、王の方が単独で行ってくると言ったかのどちらかだろう。

王は余程でないと単独で行動することを好むので、積極的に連れて来るのは常側に置きたいほど愛しているか、妃に手が掛からないのでどっちでも良いかのどちらかだった。

維月が思うに、綾と恵麻は前者で、多香子と明日香は後者のように見えた。

椿は、下を向いた。

「それは…ついて参れば二人でお話することもでき、少しはお心を溶かしてくださるかと思うたからです。でも…控えの間の寝室すら、分けるようにと申されておると、侍女から聞いて。何としても宴の席で、お話しておかねばとあのように…。」

一緒に来ているのに、寝室を分けるなど聞いた事もない。

維月は、息をついた。

「…どうしたものか…とにかくは、箔炎様はそのご様子だと、距離を置きたいとお考えなのでしょう。それなのに、これ以上無理を通せば取り返しのつかぬ事にもなりかねませぬ。ここは、椿様も箔炎様のお心を汲んで、距離を置くようになさっては。それがより近道であるように思います。追えば逃げる。これは獣であっても人であっても、神であっても変わりませぬ。同じ原理なのですわ。時を待ちましょう。」

しかし椿は、首を振った。

「そんな悠長なことをしておる間に、新しいかたをお迎えになられたら、我など忘れ去られてしまうやも知れませぬ。維月様、維月様は陰の月であられます。箔炎様のお心を、どうにかして頂くことはできぬのでしょうか。」

そうなるわよね。

維月は、深いため息をついた。

「…結論から申したら、できます。」皆が驚いた顔をする。維月は続けた。「…が、それは最早箔炎様ではありませぬ。仮に一時的に我の力で共に過ごす事ができても、我はずっと縛ることは箔炎様のご神格を消す事にもなりますので致しませぬゆえ、正気に戻られるでしょう。その時にまた冷たく突き放され、真実の想いなど戻っては参りませぬ。更に疎む事にもなりかねませぬ。なので、いくら椿様のお願いでも、我はやりませぬ。そも、一つ間違えたら陰の月の本体である、我に懸想なさるやも知れぬのですよ。そのような危険は冒そうとは思いませぬ。」

綾が、言った。

「ご無理を申してはいけませぬ。椿、維月様が仰ったように、距離を置いて待ちなさい。これまで、調子に乗り過ぎたのですから。それしかありませぬわ。」

椿自身が悪いのではない。

維月は、思っていた。

陽蘭であった昔から、また成長できていない命が、今試練に向き合って、正しい道を行く事を余儀なくされている。

つまりは、前世で間違えてしまったところを、もう一度体験させられて、ここまでしっかり学んで来たのか、今度こそ正しい道へ踏み出せるのか、試されているのだ。

愛されたいなら、己の幸福より相手の幸福を選べるのか。

陽蘭はそれができずに狂ったが、椿はそれができるのだろうか。

維月は、その事を話す事もできず、またため息をついた。

碧黎や天黎の心地が、今分かる気がした。

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