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想定外

「え?」維月は、維心と共に休もうとしている時に、十六夜に話しかけられて足を止めた。「なんですって?」

十六夜の声は、もう一度言った。

《だから蒼が紡を娶ったの!》維月は、目を丸くする。《昼間に寝てた紡の寝室に入ってって、今も出て来てない。》

維月は、完全に動きを止めて固まってしまっている。

隣りの維心が、維月と同じく固まっていたが、ハッと我に返って、言った。

「…蒼が。正月に紡を見ても何とも思うておらぬ様子だったし、月の宮へ遊びに来てからも特に気にする様子もないようだったのではないか。そもそも、蒼にそんな思い切った事をするような気概があったかの。うじうじと悩んで主に相談してから、翠明に申し入れてということになりそうなものだが。」

維月も、それを聞いて我に返ったのか、何度も頷いた。

「蒼がそんなことをするなんてあり得ないわ!だって…だってあの子、そういう欲もなくなったような気がするってこの前言ってたのよ?特別に紡殿を想うておる様子でもなかったし。杏奈様のことだって…寝室で一人になりたいって言って…面倒みたいに言っていたのに。」

十六夜は、大きなため息をついた。

《あのな、実は紡は、思い出したんでぇ。》二人がきょとんと空を見上げるのに、十六夜は続けた。《ほら、正月に言ってただろうが。華鈴が転生してたらって。》

維心と維月は、同時に目を見開いた。

「え、紡殿が華鈴殿だったの?!」

維月が言うのに、十六夜は頷いたようだった。

《そうなんだよ、紡…いや華鈴がオレ見て気を失ってさ。その時、洪が何とか言い残して倒れたから、それを蒼に話してたら、なんで紡が洪の名前を知ってるんだってことになって。それに、やたらと蒼をなんか愛情深く見てたしよ。蒼は居ても立ってもいられなくなって、華鈴じゃないかって部屋へ行ったわけ。そうしたら、華鈴って蒼が呼んだのに、はい、って答えたわけよ。洪に教わって、オレの姿を鍵にして記憶を持って来たんだって話してた。で、蒼はそのまま、華鈴を娶る事にしちまったってことなんだ。》

維心と維月は、顔を見合わせた。

だったら、あり得ることだからだ。

「…ならば、紡もそれで幸福だろう。華鈴の記憶が戻ったのだからの。あやつ、炎嘉が全く子を成さぬから、焦れて同族の鷲の綾から生まれて来たのか。言われてみれば…確かに気の色が、華鈴と言われたらそうやもしれぬ。」

維月は、頷いた。

「とはいえ、翠明様には恐らく驚かれましょう。こんなに突然に、筋を通さず娶ってしもうて…まだ百歳そこそこの歳でありますのに。綾様も、どうお思いかと案じられます。」

維心は、首を振った。

「あちらからしたら金星ぞ。」維月が目を丸くすると、維心は続けた。「月の宮であるぞ?神世の桃源郷に、生涯住む理由ができた。しかも縁続きになったのだ。これで、何があっても紡の身は安全ぞ。ついでに南西の宮もの。妃として押し付けて来ることはあっても、娶られて文句など言いようがない。そも、父王が月の宮へと独身の皇女を単身送るのは、そうなっても良いと言うておるようなものぞ。翠明は、仮に否であっても文句は言えぬ。そもそも、否なら最初から外出など許さなかっただろうしな。蒼は、簡単には妃など娶らぬ王ぞ。他の宮からそれは羨まれるであろうぞ。歳のことは、もっと幼くても娶ることはあるし、そもそも同じ年頃の恵鈴はもう高彰に嫁いでおる。問題ない。」

外から見たらそうか。

維月は、自分の里なのでそこまで特別に考えてはいなかったが、外からしたらそうなるのかもしれない。

とはいえ、蒼は今、筋を通したら良かったと後悔しているかもしれない。

一時の感情で後先考えずに行動するのは、蒼らしくないからだ。

「…とりあえず、こうなったからには蒼は翠明様に誠実に対応せねばなりませぬ。」維月は、言った。「何の打診もなしに事を起こしてしもうたのですから。」

維心は、頷く。

「燐と高瑞が居るゆえあれらがどうしたら良いのか教えよう。」

十六夜は、大きなため息をついた。

《それにしても、蒼だけは思い詰めたら何するか分からねぇなあ。昔、桂の時もそうだった。こうと決めたら一直線だからよー。お前に似たんだよ、そんなとこは。》

維月は、バツが悪そうに言った。

「ちょっと、やめてよ十六夜。今は少しはマシなんだからね。」

十六夜は、答えた。

《へーへー、そうだったな。でも、根本的には全然変わってないとオレは思うぞ?》

そうかもしれない。

維月は、十六夜にだけは知られているので、言い返す言葉もない。

しかしその夜は、それ以上何もできることはなく、維心と共に休んだのだった。


次の日の朝、蒼は紡を連れて部屋から出て来た。

そして、頭を下げる侍女達に、言った。

「我が妃、紡ぞ。」と、紡を見た。「翠明にはこれから知らせを送る。紡には南の対を与えてそちらに住まうようにする。主らはそちらへ移る準備を整えて、紡を連れて参れ。」

侍女達は、深々と頭を下げ直した。

「はい、蒼様。」

蒼は、紡を見た。

「華鈴、しばし離れるぞ。主の今の父王に連絡して、炎嘉様にもお知らせしておく。会いたいだろう。」

紡は、微笑んで頷いた。

「はい。久方ぶりのことでお父様にお会いできたらと思うておりますので、楽しみにお待ち致します。」

蒼は、傍目を気にせず紡を抱きしめた。

「華鈴…此度は主を正妃とし、必ず大切にするゆえな。つらい思いはさせぬから。」

紡は、フフと笑った。

「まあ、蒼様…。前も我は幸福に過ごしましてございます。ゆえに再び戻って参ったのですから。肩書きになどこだわりませぬ。」

少し見ぬ間に、紡の雰囲気が変わっている。

侍女達は、戸惑った。

いきなりこんなことになって、さぞや驚いていると思ったのに、落ち着いている上に、それは幸福そうだ。

しかも、蒼は華鈴と呼んでいる。

炎嘉の娘であった華鈴は、だがとうに亡くなってしまっていた。

とはいえ、こうなったからには、紡が幸福ならばこれよりのことはなかった。

維明が言っていた通り、ここは神世の桃源郷であり、そこに妃として嫁げるなど、夢のまた夢と思われていたからだ。

侍女達の思惑など知らず、蒼は名残り惜しげに紡から離れて、そうしてそこを出て行ったのだった。


居間へ戻ると、侍女が頭を下げた。

「王。維明様がお越しにございます。」

蒼は、恒に指示を出そうとしていたところで、はたと思った。

維明なら、こんな時にどうしたら一番外聞も良いか知っているはずだ。

「これへ。」

蒼が言うと、侍女は頭を下げて出て行く。

入れ替わりに、維明が入って来て、椅子に座った。

「聞いてるのか?」

蒼が言うと、維明は頷いた。

「聞いておる。やはり事実か。昨夜翠玲と白翠を別の控えに向かわせたのは我ぞ。して?なぜにこのような性急な事をしでかしたのよ。主らしくもない。」

蒼は、息をついた。

「…実は、維明も前世の維明様の記憶があるから分かるだろうが、紡は華鈴だった。」維明は、え、と目を丸くする。蒼は続けた。「十六夜の姿を鍵に転生した。十六夜が華鈴を助けようと実体化して現れて、それを目にしたから思い出したんだ。それで…分かっていたけど、やっと華鈴が戻ったと後先考えられなかった。」

蒼が探していたという、失った妃か。

維明は、やっと合点が行った。

そもそも蒼が、ただの欲で女を襲うなど考えられなかったからだ。

維明は、息をついた。

「…そうか。ならば納得もいく。ということは、紡も納得しておるのだの?」

蒼は、頷いた。

「そのために戻ったのだと言っていた。だから問題ない。ただ、どうやって翠明に返したら外聞が良いかと思って。何も考えてなかったから…。」

維明は、息をついた。

「外聞などどうでも良い。それより翠明を納得させねばならぬだけ。そのままを申せば良いわ。綾とてそのために戻ったのだと聞いておるし、納得しようぞ。隠す必要はない。まあ、我は婚姻云々には明るくないゆえ、燐と高瑞に聞いてみたらどうか?あやつらならよう知っておるわ。」

蒼は、そうだった、あの二人が居たと頷いた。

「分かった。じゃあとにかく二人を呼ぶよ。」

維明は頷いて、気を揉んでいる翠玲と白翠、それに納弥に知らせてやらねばとその場を早々に離れた。

蒼は燐と高瑞を呼んで、それらに倣って対応に忙しくしていたのだった。

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