通常通り
夕貴は匡儀の下へと去った。
が、龍の宮は通常通りに回っていた。
維明と維斗が居ないので、維心は途端に忙しくなり、毎日朝起きたら茶を飲んで政務に出掛け、謁見もこなし、夕刻になって居間へと戻って来る生活を繰り返していた。
維明と維斗に振り分けていたものを、今は維心が全て担っているので、そうなるのだ。
維月も維心がキレて月の宮から二人を呼び戻すとか言い出してはいけないので、せっせとフォローしながら業務を進めた。
洪が戻っているので、それでも必ず夕刻には戻れるように段取りしてくれるので、とても助かっていた。
「あやつは元々我しか居らぬところから仕えておったゆえな。」維心は言う。「こんなことには慣れておるのよ。なので大丈夫だろうと思うたが、やはり問題なく回っておるの。」
維月も、頷いた。
「はい。十六夜から、お陰様で維斗も維明も毎日伸び伸びしておると聞いております。ちょうど、正月に面識を持った箔連殿、纈殿、桐矢殿を誘って、納弥が月の宮へ戻っておるようで、それらと立ち合いなどこなして楽しんでおるようですわ。紡殿が、兄の翠玲殿と、従兄弟の白翠殿を伴って来ておるようで、紡殿は杏子と毎日楽しく話しておるだけですが、翠玲殿と白翠殿は同じく立ち合いを楽しんでいらっしゃるようです。」
維心は、頷いた。
「皇子同士が交流するのは良いことぞ。そうやって宮同士の関係を良くして参るもの。維明も維斗も、なかなかにそんな暇はなかったゆえな。此度はあちらへやって、良かったと思うておる。」
維月が頷くと、そこへ義心が入って来て、膝をついた。
「王。」
維心は、義心を見た。
「義心か。珍しいの、この夕刻に。何ぞあったか。」
義心は、顔を上げた。
「は。月の宮より、軍神達に守られて、この前の試験の結果を送って参りました。こちらへお持ちしてよろしいでしょうか。」
維心は、頷いた。
「帰って来たか。持って参れ。」
義心は、頭を下げた。
「は!」
義心は、振り返って扉の方を見る。
恐らく念を発したのか、そこには厨子を手にした、帝羽が他二人の軍神に挟まれて立っていた。
…めっちゃ厳重じゃないの。
維月は、思った。
本当に、機密書類でも送って来たほどの厳重な移送方法だ。
「…王の御前に。」
義心が言うと、帝羽が進み出て緊張気味にその厨子を維心の前へと置いた。
維心は、言った。
「何やら厳重であるな。たかが試験結果なのではないのか。」
義心が答えた。
「中には、試験の点数と、各宮の中での順位、神世での順位が書かれておるそうでございます。その他、各項目ごとの点数と間違った箇所まで、きっちりと分類され、一人一人違うのだそうです。序列にも関わる重大事であり、改ざんしようとする輩も出ないとは限りませぬので、このように。月の宮からも、軍神達が同じく厳戒態勢で他の宮に運んでおるそうです。その手順のために、移送が夕刻になってしまったということでした。」
まじか。
維月は、内心思った。
確かに神なら、手を翳しただけでも内容を変えてしまうことができるだろう。
なので先にこうして王に届け、全てを見せてから皆に配るというのだ。
維心は、息をついた。
「しようがないの。ならば我が全部見ようぞ。」と、厨子に手を翳した。「…しばし待て。量が多い。頭に入れる。」
維心は、じっと厨子も開かずにそれを見つめた。
そして、翳した手を下ろすと、皆を見た。
「…良し。皆に配るが良い。まあ、蒼は全員の点数と順位をまとめた紙も、一番上に載せてくれてあるゆえ、それは内宮に入る扉の横にでも貼り出しておけ。己の順位が分かろうぞ。」
義心は、頭を下げた。
「は!」
維月は、慌てて言った。
「お待ちを。」義心が、ピタと止まる。維月は続けた。「私も見てよろしいでしょうか。」
維心は、頷いた。
「主は直接でないと見られぬな。開くが良い。」
維月は頷いて、蓋を持ち上げた。
維心が言うように、一番上には順位を書いた紙があり、それをめくると、遥か昔に人世で見た共通テストの結果よろしく、細かい楷書の機械的な活字の文字が並んでいた。
歴史やら実務やらと項目別に点数と、間違えた箇所なども書かれてあり、次の対策もできる。
ちなみに鵬が一番上にあったが、順位は2位だった。
「まあ」維月は、点数一覧を手に取った。「誠は満点ですのね。」
維心は、頷く。
「洪にとり、赤子の手をひねるようなものであったのではないか?満点など他の宮でもなかったのだろう、あやつは神世でも一位ぞ。」
確かに、宮順位、神世順位一位は誠だけだ。
が、つらつらと下へと自然に目を走らせて、維月は驚いた顔をした。
「え、義心!」義心が、ビクと顔を上げた。「あなた軍神なのに!」
義心は、何やら案じるような顔をした。
「何かやらかしましたでしょうか。」
何しろ、まだ本神も知らないのだ。
不安にもなるだろう。
維心が、苦笑した。
「違う、主は軍神でありながら筆頭達と競っておるのよ。鵬は2位だが、それと並んで同じく2位ぞ。」
義心は、ホッとした顔をした。
「…は。前世より記憶を保持しておるので、有利であったかと。」
そこもあるけどね。
維月は、感心した。
それは維心が欲しいだろう情報を先回りして持って来るはずだ。
知識もあるし、頭も良いのだ。
維心は、言った。
「さあ、維月。皆に返してやらねば。月の宮から戻って来たと聞いて、皆ジリジリしておるようぞ。」
維月は、ハッとしてそれを厨子に戻した。
「はい。申し訳ありませぬ。」
維心は、義心に言った。
「では、持って参るが良い。明日の会合では、序列の移動と新しく召し抱える者達の選別を行なうと鵬に申しておくがよい。」
義心は、頭を下げた。
「は!」
そうして、厨子を手に居間を出て行った。
維月はそれを見送って、どんどん宮が変わって行くなあと思っていたのだった。




