表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/176

匡儀は、すぐに迎えを寄越した。

もっとごねるかと思っていた維心は、その素早さに驚いた。

帝羽が、鵬と共に来て書状を維心に手渡した。

「匡儀様よりの書状でございます。」

維心は、それを開いて中を見て、すぐに閉じた。

「…あちらからは平謝りぞ。皇女を返すと一方的に言われて、簡単に飲むとは何やら腑に落ちぬ。何か聞いて参ったか。」

帝羽は、答えた。

「は。あちらは、幼い頃より育ててやれなかったと申され、悔いておられるようでした。黎貴様も、第二皇子の妃ならばと思うておったが、やはりかというご反応で。どうやら、夕貴様のご性質から、務まらぬのではと危惧なされておられたようでございます。」

…やはり少し、性質に王族らしからぬ何かがあったのだろう。

維心は、息をついた。

「…とはいえ、維知を生みその点ではこちらに貢献した。幾らか荷は持たせてやるが良い。ここでは務まらぬし、これ以上は面倒は見れぬが、どこか別の場所ならばやっていけるやも知れぬしな。ここで不幸に残りの生を過ごすより、新たな幸福を探させてやるが良い。そのように、返事をするが良い、鵬。」

鵬は、頭を下げた。

「は!」

鵬は、早速にそれをしたためるために頭を下げてから出て行った。

維月は、それを隣りで聞きながら、維心はそんなふうに考えたのだ、と思った。

確かに、夕貴には夕貴にあった場所がある。

ここでこのまま維斗の妃として残れば、肩身は狭い上に慣れない業務を抱えてこなさねばならず、こんなことがあったのに維斗との仲も最悪だろう。

それを考えたら、確かに他に良縁があるのかも知れなかった。

二夫にまみえて幸福にしている皇女は、たくさん居た。

…椿様は、結局二人目とも上手くはいかなかったけど。

維月が、弓維からの文を手に考え込んでいると、維心がこちらを向いた。

いつの間にか、帝羽は居なくなっている。

「…維月。どうした?弓維は何か?」

維月は、答えた。

「いえ…珍しく維心様が私を叱責なされたと聞いて、案じて文をくれたのですわ。大丈夫だと、安心させてやろうと思います。」

維心は、息をついた。

「我は夕貴に憤っておっただけで、主を叱責したのではない。どうも皆、おかしな方向に解釈するようぞ。あれは維斗と夕貴の失態ぞ。これで今度こそ、宮が真面目に回る事を望んでおる。」

維月は、頷いた。

「はい。でも…結局維斗のことは無罪放免としてくださったではありませぬか?月の宮で謹慎など、結局は休みの続きを与えただけでございましょう?維心様には、感謝しておりますの。」

維心は、それを聞いてバツの悪そうな顔をした。

「…バレておったか。まあ、甘いのやも知れぬが、あやつも気苦労であったのだろうと思うてな。とはいえ、表向き妃の監理ができなんだ罰は与えておかねばならぬ。ゆえにああ申した。あちらは別世界であるし、戻った頃には立ち直っておろう。蒼と十六夜に任せておこうと思う。あやつらは、癒すことに掛けては大変に優れて居るゆえ、案じておらぬ。」

維月は、やっと微笑んで頷いた。

「はい。私もそのように。次の花見までには、少しは元気になっておることを祈りますわ。」

維心は、維月の頭を撫でた。

「やっと笑ったの。維月、主が気に病むことはない。これは宮のこと、我の責務ぞ。王とは宮の安定のため、意に沿わぬこともやらねばならぬ。臣下達が、我らの一挙手一投足を見ておるのだ。怠惰な様に我が怒り狂う様を見て、王族ですら許されることはないのだと皆が知り、そうして宮はまた引き締まる。我は、この新たな身でも今は自制の効かぬ歳ではない。少しは苛立ちも抑える術を身に着けておる。だが、抑える必要のない時は抑えたりせぬ。そういうことぞ。」

維月は、え、と維心を見上げた。

つまりは、維心は臣下に見せるために、あれだけ派手に怒って見せたのだ。

もちろん、本気で怒っていたのは確かだが、今の維心にはそれを見せずに落ち着いて話すこともできたのだろう。

だが、そうする必要がないし、むしろ怒り狂った方が良いと判断して、ああしていたのだ。

全ては計算ずくなのだ。

「…まあ。」維月は、呆れたように維心を見た。「本気でお怒りを抑えられぬほどに憤っていらっしゃると思うておりました。」

維心は、笑った。

「主すらそのように思うのだから、臣下はもっとであろう?」と、維月の肩を抱いた。「案じるでない。全ては上手く行く。夕貴にとってもの。あちらで弓維に学ぶやも知れぬ。その後、また良い縁を見つければ良いのよ。」

維月は、やっと何やら肩の荷が降りたような心地がした。

そうして、穏やかな気持ちで弓維に返事を書いたのだった。


月の宮では、採点業務が終盤を迎え、今は集計した結果を、各宮ごとに刷り出しているところだった。

何やら険しい顔で戻って来た維明と維斗のことは気になったが、ここへ戻って来たからには、あちらの事を引きずらせたくない。

なので、蒼は極力明るく言った。

「ああ、戻って来たか。もう、試験のことに関してはやることもないし、好きにしてていいよ。そうだ、明日から納弥が戻って来るんだ。箔連、纈、桐矢、翠玲、白翠、紡と一緒に。立ち合いでもする?あっちはめっちゃ喜ぶと思うけどな。龍の皇子となんか、なかなか立ち合えないからさ。」

維明が、深刻な顔で言った。

「蒼、面倒ばかりですまぬが、話があっての。父上から呼び出された理由ぞ。」

蒼は、え、という顔をした。

「え、でもオレ関係ないし。」維明と維斗が、顔を見合わせる。蒼は、まさかと不安になって顔をしかめた。「…関係あるのか?」

維明は、真面目な顔で頷いた。

「直接には関係はないが、維斗はここで謹慎せよと父上に命じられたのだ。」蒼が眉を跳ね上げるのを見て、維明は続けた。「詳しく話すゆえ。とにかく、どこか場所はないか。」

蒼は、言われて咄嗟に回りを見回し、急いで側の扉を開いた。

手狭だが、応接室の一つだ。

「じゃあここで。」

維明は頷いて、維斗と共にそこへ足を踏み入れる。

蒼も、その後に続いて応接室へと入って、扉を閉じた。

臣下同士の対応をするための応接間なので、広さはかなり狭いし調度もそこまで凝ったものではない。

そこで、三人は膝を付き合わせて座った。

恐らく、龍の宮の皇子達がこんな場所で座るなど、初めてなのではないだろうか。

それでも、二人は全く気にしていない様子で深刻な顔は崩さなかった。

それどころではないようだ。

「ええっと、直接に関係ないけど、間接に関係ある感じ?」

蒼が言うと、維明が首を振った。

「問題自体には、主は全く関係ない。」と、維斗を見た。「帝羽が呼びに参った時、主も居ったし知っておるな。夕貴が面倒なことにと。」

蒼は、神妙な顔をした。

「知ってる。夕貴が仕事してないって維心様が怒ってるって。」

かなり簡素にまとめられているが、大体がそんな感じなので、維明は頷いた。

「その通りよ。だが、ただ怒っていただけではなかったのよ。龍の宮では、年末に臣下の不正が発覚し、やっと精査して落ち着いたばかりだった。そんな折に、夕貴が元々責務をこなしておらなんだことが分かり、それを知っておりながら面倒がって諫めず己で指示を出していた維斗も断じられることになった。宮を正そうとしておられる父上からしたら、維斗のことも無罪放免とはできなんだ。」

蒼は、深刻な顔をした。

確かに、正月に戻ったら処刑だとか言っていたような気がする。

すっかり落ち着いて新たな気持ちで新しい臣下を召し抱えようと試験までやったのに、そんな最中に王族がそんな体たらくではと、維心が放置できないのは当然だったし、激怒するのも分かるのだ。

「…でも、謹慎っていったい何をするんだろう。オレの関わりって?」

維明は、頷いた。

「主は、維斗が他の宮へ出掛けたりすることができぬように見張り、反省を促し教育をつける役目を担った事になる。」蒼が、え、とドン引きした顔をすると、維明は慌てて言った。「いや、だからそれは表向きだと、我は思うておる。」

蒼は、怪訝な顔をした。

「どういうこと?」

維明は、続けた。

「そも、月の宮で謹慎などあり得ぬ。龍の宮の父上のお側に居った方が、何よりの謹慎となろう。が、月の宮へと戻らせたことから、恐らく父上は維斗に対しては怒ってはおられず、ここで休暇の続きを楽しめばと思うておられると思う。が、あのまま何も言わずに維斗をこちらへ戻したならば、妃は断じられてその夫は何も無しなのかと不公平さが拭えぬからの。ゆえに、あのように申されたのだと思う。我に監督せよと申して共に戻したのも、そんな意図を主に話しておけと言うことだろう。ゆえにな、主は対外的には、維斗はこちらで月の宮の厚生計画に基づいて生活しておるとかなんとか、もし訊ねられたら答えておいたら良いのよ。」

蒼は、うんうんと頷いた。

「分かった。けど…」と、暗い表情の維斗を見た。「大丈夫か?維斗。離縁はこたえるだろうが、もしかしたら何年か頑張れば、維心様も夕貴を戻してくれるかもしれないし。」

維斗は、首を振った。

「いや、我は己の薄情さに愕然として。」え、と維明と蒼が維斗を見ると、維斗は続けた。「何やらホッとしてしもうた。夕貴は泣いておったのに…もう、母上にも父上にも隠し事などせぬで済むし、何より一人で自由に過ごせる。そんな風に思うてしもて…そんな己が、なんと薄情なのかと。」

維斗は、真面目なのだ。

蒼は、維斗の肩に手を置いた。

「維斗は薄情じゃない。そうやって正直に話してくれたじゃないか。仕方ないよ、妃ってシビアな立場なんだし、維心様を怒らせたらこうなるし。維斗はできる限り夕貴を庇って来たんだよ。ここで少し、ゆっくりしたらいい。維心様もそう思っていらっしゃるよ。」

維明も、頷いた。

「そうだぞ、維斗。父上は厳しいかたなのに、こうして月の宮へ来させてくれたのだから。少し休んで、忘れるが良い。」

忘れる…か。

蒼は思ったが、何も言わなかった。

月からは、龍の宮を飛び立つ、白龍の軍神達に囲まれた、輿が見えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ