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王の前に

維明が、先に居間へとやって来た。

維心が、不機嫌に維明を見て言った。

「…何ぞ。主には戻れと申しておらぬぞ。戻ったのか。」

維明は、頷いた。

「は。父上がお怒りだと帝羽から聞いて、ただ事ではないと共に戻りました由。理由はあちらで聞きました。維斗と夕貴がこちらへ只今向かっております。」

維心は、幾分落ち着いた様子で、言った。

「…主はどう思うた。」

維明は、目を鋭くすると、言った。

「…は。我は把握しておりませなんだが、維斗は長らくあれを甘やかせておったよう。ですが、ほとんどの皇女は嫁いだ先で、何をせねばならぬのか、親に教わって嫁いで来ておるはずで、その証拠にしっかりと務めておるものでありましょう。が、夕貴は怠けることができるのなら怠けておりたいという怠惰な性質のようで、あれでは龍の宮の妃として相応しくないと思いましてございます。」

珍しく、維明が怒っているのがそれで伝わって来た。

維月は、急いで言った。

「維明、私も嫁いで来た時には何も知りませんでした。維心様にどれほどのご迷惑をお掛けしながらここまで来ましたことか。夕貴殿のせいばかりではないのですよ。」

それには、維心が言った。

「…主の場合は、我は知っておって娶ったゆえ良いのだ。それに、嫁いで参った時に、知らぬのは仕方がない。その宮その宮で、やり方が違うことが当然であるからだ。が、問題はその後ぞ。普通は、しっかりと嫁いだ先で学んで励もうとするものぞ。そのうちに、段々と慣れていろいろなことがこなせるようになって来る。主とて、我に様々な事を教わって励んだではないか。だからこそ今がある。それこそ夕貴より、多くの事を覚えてこなさねばならなかったのに、主はやり遂げたのだ。だが、皇女として教育されたはずの夕貴が何をしておるのだ。この宮の妃と申すもの、器量だけではなくその性質すらも優れておらねばならぬ。維斗が良いと申すゆえ、我とてこの縁が悪いとは思うておらなんだ。が、その真実を知って、騙された心地よ。いくら第二皇子の妃でも、怠惰な者は我が宮の内を許すことはできぬ。」

何を言っても、維心と維明には響かない。

維月は、黙り込んだ。

するとそこへ、維斗と夕貴がやって来たと、侍女の声が告げた。


「…入れ。」

維心が、ぶっきらぼうに言った。

扉開くと、維斗と、その後ろに隠れるようにして、夕貴が、頭を下げてそこに居た。

維明は、座る維心の横に移動して立つと、二人を睨むように見た。

維斗が、言った。

「…お呼びにより、参上いたしました。」

維心は、頷いた。

「表を上げよ。」維心は、言った。「もっと前へ。」

二人は、頭を上げて維心の前へと進む。

夕貴は、ベールの中で顔を上げられずにいるようだ。

維心は、言った。

「…帝羽から聞いておろう。維斗より、夕貴から話を聞きたい。務めを怠っておったこと、本日知った。が、そこから常日頃からそのようだと侍女より聞いた。維月には、今監督責任を問うて叱責したところぞ。主は何を思うて、常日頃より務めを放り出して遊んでおるのだ。」

夕貴は、震える小さな声で答えた。

「申し訳ございませぬ…ただ、ただ吾子を失った時に心労を引きずっておって…長らく、維斗様に甘えておりました。申し訳ありませぬ。」

維心は、答えた。

「子を失ったのはいつのことぞ。ここへ嫁いですぐの事ではないのか。その後維知も生まれ、宴の席で維月や他の妃達と合奏したりと遊ぶ事には問題ないようであったが?」

「それは…。」

夕貴は、言葉に詰まる。

維心は、続けた。

「…それは理由にはならぬ。主は、己の不幸を良いことに、それを理由に夫に務めを押し付け、遊び呆けておった怠惰な妃ぞ。そんな者は我の宮には要らぬ。本来なら、維斗に斬って捨てよと命じるところぞ。」

夕貴が、え、と目を見開いて目に見えて震えて後ずさりすると、維心は続けた。

「…が、匡儀の手前、それはできぬ。話は聞いてやろうとここへ呼んだ。が、その付け焼刃の言い訳では我は納得せぬわ。子供騙しの理由を堂々と吐きおって。」と、維斗を見た。「維斗、これを傍に置くことをこれ以上許すわけにはいかぬ。匡儀に引き取るよう、使者を送るゆえ、すぐに客間へ移させて匡儀の迎えを待たせよ。こうして穏やかに話しておるが、その実はらわたが煮えくり返る心地であるぞ。この龍王の我に、子供のような言い訳をしおってそれが通ると思うておるのだからな。主も、月の宮での謹慎を言い渡す。すぐに月の宮へ戻り、そこで我が戻って良いと申すまで、謹慎しておるが良い。維明、主には維斗がしっかり反省するよう、ついて参ってしっかり見張れ。分かったの。」

維明は、頭を下げた。

「は。」

維斗も、青い顔をしていたが、深々と頭を下げた。

「申し訳ありませぬ…我が上手く扱えなかったばかりに。」

維心は、手を振った。

「良い。できぬことはできぬしな。匡儀には、我から申すわ。下がって良い。」

出て行けということだ。

維斗は、まだ震えている夕貴を促して、維明と共にそこを出た。

…庇う暇もなかった。

維月は、そう思いながら、それを悲し気な顔で見送ったのだった。


維心に一方的に断罪されて追い出される形になった維斗と夕貴に、維明は奥の間から内宮へと続く回廊を歩きながら、言った。

「…では維斗、父上の命ぞ。これより我と月の宮へ戻るぞ。蒼にも、詳しい事を話せず出て参っておるしな。戻って蒼に、どうなったのか説明せねばならぬ。」

維斗は、維明に頭を下げた。

「は。仰せの通りに、兄上。」

維明は、侍女に言った。

「侍女。」侍女達が、どの侍女を呼んだのか分からなかったので、わらわらと出て来た。「夕貴を客間へ移せ。匡儀殿からの迎えが参るのをそこで待たせよ。もうこの宮の第二皇子の妃ではなく、白龍の宮の皇女ぞ。左様心得て対応せよ。」

侍女達は、驚いた顔をしたが、頭を下げた。

「はい、維明様。」

侍女が、夕貴を取り囲んでそちらへ誘導しようとすると、夕貴は涙声で言った。

「維斗様…!そんな、こんなに簡単に帰してしまわれるのですか…?!」

維斗は、暗い目で夕貴を見て、答えた。

「…我とて、主を庇う方法はないかと考えた。が、何もなかった。今の状況で、主のような意識の王族はこの宮には害しかないのだ。そも、父上のご決断に意を唱えることなど誰にもできぬ。父上がお決めになられたことぞ。己の判断を恨むが良い。」

維斗は、力なくそう言うと、夕貴に背を向けた。

…こんなに簡単に、別れてしまうものなの…?

夕貴は、甘かった、と心底後悔したが、しかしもう遅すぎた。

向こうから、鵬が急いだ様子で走って来るのが見える。

茫然としている夕貴は、それすらも目に入っていないようでそのまま侍女達に押されて回廊を流されて行った。

鵬は、維明と維斗に気付いて、傍まで来て膝をついた。

「維明様、維斗様。王より、急ぎのご用件とお呼び出しでございまして、これで失礼致します。」

維明は、頷いた。

「恐らく、匡儀殿への書状の件であろう。夕貴が務めを怠っておって、それを父上の知るところとなり、今夕貴の弁明を聞いて沙汰を下されたばかりぞ。」

鵬は、驚いた顔をして維斗を見た。

「え、維斗様…?」

維斗は、息をついた。

「…何事も、父上の仰る通りに。これは、夕貴の自業自得でもあり、我の自業自得でもある。宮の現状で、父上は甘い顔などなされなかったのだ。しようがない。」

ということは、夕貴様は…。

鵬は、悟って頭を下げた。

「…は。では、我は王の御元へ。」

維明が、頷いた。

「頼んだぞ。」

鵬は、急いで立ち上がって、奥へと走って行った。

維明と維斗は、それを後目に二人きりで、月の宮へと飛び立って行ったのだった。

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