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思ったより大変なこと

自分達が悪いのではないのに、皆でビクビクしていると、維心は入って来て、続けた。

「…聞いておった。結界内は見ておるゆえな。内宮の様子は、会合の間に入るまでに気付いておった。維月がどのように宮を回しておるのかは知っておるゆえ、夕貴だなとは分かっておったわ。だが、まさか普段からとはの。」

維月は、慌てて立ち上がって頭を下げた。

「申し訳ありませぬ。早うに気付かなんだ、我の責でございます。」

維心は、首を振った。

「違う、それは主のせいではない。そもそも、妃としてやらねばならぬことが、王妃と第二皇子の妃では雲泥の差ぞ。皇子の世話しか基本、やることのない妃に、振り分けるのは間違ってはおらぬ。間違っておるのは夕貴と、それを許して己で指示などしておった維斗の方ぞ。維斗には一度戻れと命じる。侍女、夕貴と共に、申し開きをせよと鵬に書状を月の宮へ送らせよ。」

維心の侍女が、オロオロしながら頭を下げた。

「はい、王よ。」

そうして、脱兎の如く居間を飛び出して行った。

間違いなく怒っている維心に、維月は顔を上げられなかった。

「…宮の改革と、臣下のことを引き締めましたのに。王族を取りまとめておけなんだことに、申し訳なく…。」

維心は、息をついて維月に手を差し出した。

「…もう良い、これへ。」

維月は、おずおずと維心の手を取った。

維心は、維月と共に椅子へと座りながら、言った。

「主が気に病むことはないのだ。我とて奥まで見ておらなんだゆえ。臣下のことばかりで、まさかと思うておったしな。そもそも、維明も維斗も真面目に励んでおるし、弓維とてあちらでは匡儀を助けて王妃の代わりを務めておる時点で、主の子育ては間違ってはおらぬのだ。問題は、外から来た夕貴よ。」

それはそうだけど…。

維月は、言った。

「…私が甘やかせ過ぎたのでございます。これまで、他の宮から遠く離れて嫁いで参って、心細い事もお有りだろうからと、少々のわがままは許して差し上げておりました。第二皇子の妃でありますし、任せた仕事はこなしておるように見えておりましたので…。」

維心は、息をついて維月の侍女達を見た。

「主らも。維月がこうやって面倒なことになるのだから、知り得たことはすぐに伝えぬか。何を黙っておった。主らの責でもあるのだぞ。」

四人は、慌てて膝をついた。

「申し訳ございませぬ…。」

維月は、慌てて言った。

「維心様、これらは悪くはありませぬ。王族のこと、恥にもなるかと気遣ってくれただけなのですわ。」と、四人を見た。「奈津、早紀、朱里、菜摘。場を外しなさい。」

四人は、維月を見てから、深々と頭を下げた。

「はい、王妃様。」

四人は出て行く。

維心は、フンと鼻から息を吐いた。

「なんのために維月の側に居るのだ。このようなことにならぬために、守るように仕えることを許しておるのに。」

維月は、維心をなだめた。

「維心様、お怒りは私に。あれらは悪くないのです。よう仕えてくれておりまする。」

維心は、維月を見た。

「奥を取り仕切る事の面倒さは、我とて知っておる。大勢の侍女侍従が居るし、それらを的確に動かして宮を整えねばならぬ。主は広く面倒な外宮の方を引き受けて、楽な内宮の方の僅かな責務を夕貴に振り分けていたのだろう。それすら務められぬような妃、我が宮には必要ないわ。匡儀は何を教えておったのだ。これだから庶出だとか言われるのだぞ!」

夕貴の母の出自のことを言っているのだ。

侍女の一人だったと聞いているが、しっかり教育はされていたと匡儀は言っていたはずだった。

が、確かに侍女では、王妃の細かいことまで、教えることはできなかっただろう。

「お怒りをお鎮めくださいませ…私も元は人であった時から、この宮へ入ったような身なのです。出自の問題ではございませぬ。」

維心は、そう言われてしまうと、何も言えないようで、息をついた。

「…主のことは良い。それでも励んで今では王妃としてしっかりやっておる。炎嘉も完璧にやっていると言っておったではないか。問題は、何も学ぼうとしておらぬ、夕貴の方ぞ。それを咎めて教育しなかった維斗もな。」

不正に関して、維心はここのところ厳しい。

何しろ、年末にあんな事が発覚して、臣下を引き締めたばかりなのだ。

それを、王族がとなると、弁解のしようもないのだ。 

そのことに関して、もう維心に意見しないと決めた維月には、維心が何を言おうと反対できる術がなかった。

「はい…。仰る通りでございます。」

維心は、頷いて言った。

「匡儀にも、場合によっては問い合わせる。夕貴如何によっては、抗議となるやも知れぬ。とりあえず、二人の弁明は聞こう。このままでは、臣下に示しがつかぬ。」

大事になる…。

維月は、大きなため息をついたのだった。


維心の怒りは、維斗の対にも伝わった。

侍女同士のネットワークは強く、維心が激怒して維月を叱責している、と侍女から侍女へとすぐに夕貴の侍女にも伝わったのだ。

それを伝え聞いた、奈美が言った。

「大変…!龍王妃様になんというご迷惑を…!だから龍王妃様は、あんなに怒っていらしたのだわ。」

舞が、顔色を青くしている夕貴に言った。

「夕貴様、このままでは王妃様が大変なことにおなりに!今すぐ龍王様に謝罪に参られなければなりませぬ!」

夕貴は、真っ青な顔で首を振った。

「そんな…維斗様も居られぬのに、我一人で龍王様に謝罪など…!あの王妃様を叱責なさるほどお怒りなのに、我など出向いたらどんな目に合わされるか…!」

確かにそうだが、悪いのは夕貴なのだ。

なのに、王妃が叱られるのは、おかしいのではないか。

「そんな事を申している場合では…、」

舞が言うと、そこへ別の侍女が駆け込んで来た。

「奈美!大変よ、王が維斗様を戻せと仰って…!夕貴様とお二人で、申し開きをとの仰せなのです!事の次第によっては、匡儀様にも抗議なさると仰っておられるようで…!」

「王に?!」

舞と奈美は、白龍の宮からついてきた侍女だ。

維心も怖いが、何より匡儀が怖かった。

何しろ、維心は怒ると言っても維月がなだめたらすぐに収まったし、そこまで怒っているのをみたことはない。

が、匡儀は何度も見たことがあって、それは恐ろしかった。

何しろ、匡儀にはなだめる者が居ないのだ。

「ゆ、夕貴様!今すぐにお取りなしせねば…!王に知られたら、どんなお咎めが…!」

何をしていたと、ついてきた侍女の自分達とて、無事ではないだろう。

夕貴も、父王だけはそれは恐ろしいのを知っているので、がくがくと震えて涙を流し始めた。

何しろ、維心も恐ろしいが未だに直接叱られたことはなく、父王だけしか本気の怒りを見たことがないのだ。

「お、お父様に…お父様に文を…。」

奈美は、首を振った。

「そうではありませぬ!先に青龍王様の方に謝罪を!今はまだ父王はご存知ないのに、墓穴を掘られるだけですわ!とにかく、お怒りを鎮めていただいて、王に抗議などしようと思われないように努めてくださらねば!」

そこへ、この龍の宮の侍女、維斗の侍女が入って来た。

「夕貴様。只今月の宮より、維斗様が急ぎお戻りになりました。すぐに居間へ参るようにとの事でございます。」

維斗様が戻られた…!

夕貴は、急いで立ち上がった。

「参ります。」と、オロオロしている自分の侍女を見た。「維斗様が行ってくださいます。きっと、それで王もわかってくださるはず。我は、ただ伏せっておっただけなのです。」

奈美は、首を振った。

「維斗様だけにお任せしては…、」夕貴は、サッと歩き出した。「夕貴様!」

しかし、夕貴は無視して居間へと向かった。

維斗様なら…維斗様ならそんな恐ろしい事から、我をお守りくださるはず…!

夕貴は、そう思っていた。

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