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妃とは

「…維月。」維心の声に、維月はハッとした。「どうした。何やら夕貴がごねておったそうだの。」

維月は、節分の記憶を脇へ押しやり、維心を見上げて頷いた。

「…はい。私が悪いのですわ。宮の乱れは全て、私が皆を必要以上に甘やかせてしもうたからで。」

維月が下を向いたので、維心はその肩を抱いて言った。

「そのように気に病むでない。夕貴も長く維斗の妃をやって来て、少し気が緩んでおったのやもしれぬの。主が申して納得したのなら良いではないか。我が維斗に命じた事を、違えるようなことは許される事ではないからの。そのように大事であると、思い出したなら良かった。我が言わねばならぬとなったら別だがな。」

維月は、頷く。

本当に、そこはその通りなのだ。

もし、夕貴がそれを弁えてくれなかったら、維心が出て来て今頃大騒ぎになり、採点どころの騒ぎではなかったはずだ。

維月は、頷いた。

「…はい。第二皇子の妃であられるので、そこまで厳しくは申しておらず…そのせいで、恐らく忘れてしもうておったこともお有りなのでございましょう。維明に妃が来る前で良かったですわ。私がそれを認識せずに、同じ調子でやってしまうと、それこそ龍王妃となる身であるのに、維明に…煩わしい思いをさせることに。これよりは、椿様の事もございます。今少し、妃としてどう振る舞うべきなのかを徹底して参ります。」

維心は、頷いた。

「良い心掛けよ。」と、息をついた。「妃とは、難しい立場なのだ。主の言う権利もわかるが、我ら王は全ての臣下、民の命を背負って判断を下しておるゆえ、妃に煩わされている場合ではない。普通の王なら、さっさと離縁して里へ帰すだろう。何より大切なのは、皆の命とこの宮の存続なのだ。」

維月は、何度も頷いた。

「分かっておりますわ。もう、今の私には嫌になるほど。王妃は恵まれております。何にも困る事なく生きて行ける。ですがそれは、妃としての責務の上にあるもので、当然のことではありませぬ。務めを果たさずに、得られる物など何もない。ゆえに、妃となったからには、その立場を弁えて、努めねばならぬのですわ。それが否なら、ただの神と縁付いておれば良かっただけのこと。分かっております。」

維心は、息をついた。

「嫌なことを申してすまぬの。だが、それが真実ぞ。その通り、そこらの民に嫁いでいれば、贅沢はできぬがそれだけ自由ぞ。選んだのは己。もちろん、父王に言われて嫁いだだけの妃もおるが、それらは何の文句も言わずに務めておるしな。何より、椿も夕貴も己で選んで嫁いだのだ。ゆえにもっと弁えねばならぬ。」

…父王に言われて嫁いだ皇女は、それを仕事だと思ってるから。

維月は、思った。

つまりは、そこまで王を愛して執着しているわけではないので、留守にしても特に気にすることもなく、逆に気が楽かもしれない。

多香子と志心が、その良い例だった。

多香子は志心に愛情を期待して嫁いだわけではないので、志心が少しでも愛情のある素振りを見せるだけで、過ぎた事のように感じて感謝して、とても気持ちは楽に保つことができる。

だが、愛して嫁ぐと、愛されたいと願い、相手の愛情の上にあぐらをかいてしまうこともある。

どれだけ愛してくれているのか、試してみたいとすら…。

維月は、ため息をついたのだった。


その頃、月の宮では蒼が次々と戻って来る答案用紙を迎えて、全部学校へと送っていた。

そこでは、待ち構えていた裕馬が、徹夜覚悟で採点に当たってくれている。

渡の宮と駿の宮は、比較的早めに終わったようで、時間より早く戻って来たので、それらはもう、こちらで構えていた燐と高瑞の手に渡り、文章題の採点を始めていた。

蒼も、皆が頑張ってくれているのに休もうとは思えない性質なので、せめてその場に立ち会おうと、高瑞と燐が籠っている会合の間へと行こうと、着替えていた。

杏奈が、ため息をついた。

「…王。このような大きな事を、月の宮だけでお引き受けになるなんて、大変ではありませぬか。それでなくとも、王はここのところ奥へ戻られるのが遅くて、我も夜お会いすることができぬようになっておりますのに。」

蒼は、ため息をついた。

「ここは、普段宮を閉じていて何も神世に貢献できていないんだから、こんな時ぐらいは得意分野なのだし、手伝って差し上げないと。この宮がこうして無事に回っているのも、元はと言えば維心様が建ててくださった宮があるからなんだ。軍神達だって、最初に貸し与えてくれた龍軍の軍神達の末たちだし、オレはこれは当然のことだと思ってる。杏奈が口出しをすることじゃない。」

杏奈は、下を向いた。

「…はい。でも、少しはお時間をお取りくださいませ。ここのところ、王はお一人で休まれると仰って、我をお呼びになられぬし…一緒に過ごす時間がございませぬので…。」

蒼は、またため息をついた。

「…時ができたらな。いろいろ忙しいし、寝れる時に寝ていたいんだよ。そんなに申すのなら、正月も北へ帰らずついて来たら良かったじゃないか。」と、さっさと足を出入り口へと向けた。「行って来る。」

「え、王!」

蒼は、いそいそと居間を出て逃げるように去って行った。

そうして、しばらく進んでからため息をつくと、トボトボと歩いた。

…最近、そういう欲ってないから、寝る時は一人でゆっくり寝たいって思うんだよなあ。

蒼は、自分勝手だと思いながらも、その気がないのに強要されるのは真っ平だし、やっぱり離れていた方がいいや、と、急いで燐と高瑞の下へと向かった。

十六夜が、声を掛けて来た。

《…お前もあれか?身を失ってオレ達と同じ眷属になったから、そっちの欲がなくなったクチか?》

え、と蒼は窓から空を見上げた。

「え、これって歳取ったからじゃなくて、完全に月の眷族になったからなの?でも…最初は別に普通だったけど。」

それには、碧黎が答えた。

《それは、主の記憶がそうさせておったからぞ。今は、記憶はあっても命がそっちに変わっておるから、我らと同じ感覚に徐々に変わって参るのよ。我らの感覚が分かったのではないか?》

蒼は、歩調をゆっくりにしながら、言った。

「でも碧黎様も十六夜も、維月相手だったら別に普通にできるんじゃないですか。オレ、全くそっちの機能が無くなったんじゃないかって思うほど、何にも感じないし反応もしないんです。そもそも、そういう欲がなくなったのかって思うほど。」

十六夜が、答えた。

《それはなあ、なんというか、あれは欲ってんじゃねぇ。愛してるから、確かめるにはそれしかないからそうしようって感じ。お前はさ、杏奈のことを救うために嫁にしたけどよ、そこに愛情ってあったか?なかったんじゃね?》

蒼は、顔をしかめた。

「それは…そうだけど。気の毒だから、助けてやろうって思っただけ。それでも妃だし、大切に思ってるよ。」

碧黎が言った。

《主がそれなりに大切にしておるのは分かっておる。そういう性質であるからな。が、欲がなくなった今となっては、真実愛しておらぬとそういう事はしようとは思わぬのだ。それは仕方がないことぞ。それでも、妃として遇して夜以外はしっかりと世話をしてやっておるのだから、我としては良いと思うがの。》

十六夜が言った。

《だから親父、何年神達を見て来たんでぇ。段々欲が出て来るの。大切にされてたら、もっと、もっとってな。おふくろが良い例だろう。あんまり好き勝手させるのも、良し悪しなんだよ。オレはもうそこんとこ分かってるけどね。》

何やら、十六夜がもっともな事を言っている。

それが、どうも上から言われているような気がして、蒼はいい気がしなかった。

「…もう、今は採点のことが先だ。そっちはまた考える。別に、許さないと王の奥の間には誰も入って来れないしね。オレ、結界張って寝てるし。だから、邪魔される事もないし、嫌味をちょっと言われるぐらいだったら我慢するよ。じゃあね、十六夜、碧黎様!」

すると、向こうから嘉韻が飛んで来た。

「王!龍の宮からの答案が戻って参りました!」

蒼は、また足を速めた。

「今行く!」

そうして、蒼は飛んで行った。

碧黎と十六夜は、そんな蒼を眺めていたのだった。

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