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維明と維斗、将維が奥宮の居間へと入って行くと、維心と維月は並んで窓際の椅子に座り、庭を眺めていた。

維明が、頭を下げた。

「父上。」

維心は、振り返った。

「維明。義心は交代に参ったようだの。維斗も将維も、鵬達が代わりに参ったか。」

維明が答えた。

「は。皆それぞれが試験を受けたのではない会場の、監督を務めておりまする。」

維心は、頷いた。

「そうか。」と、維心は維月の手を取って、立ち上がっていつもの定位置の椅子へと向かった。「それで、見ておってどうであったか?主らが予想しておった通り、一番速い者で三時間ぐらいであったようだの。」

二人が正面の椅子へと座るのを待ってから、維明、維斗、将維はその対面の席へと座った。

「それが、せいでございます。あやつは誰より早く、三時間にもならぬ間に終えて、提出して参りました。諦めたのかと解答用紙を見ると、びっしりと埋まっておりザッと見ただけでも完璧な正答を記しておりましたし、つまりはきちんと最後まで終えておったのです。父上は、それを知っておられたので突然にあやつを四位に上げられたのですか?」

維心は、苦笑した。

「…そうだの。」と、維月と顔を見合わせてから、また維明を見た。「主らにも申しておこうか。誠は、洪なのだ。」

将維が、え、と言う顔をした。

「え、洪?あやつは洪なのですか?」

維心は、頷く。

「その通りよ。正月に、神威の宮へ参った時に、きっかけがあって思い出してな。洪は、公李と共になんとかして気が少なくても記憶を留めて行ける術をと、あちらで考えていたらしい。そのせいで、少し転生が遅れたのだと申しておった。それを編み出して、さあ転生をと思うておったら兆加が参って、結局三人で転生して参ったとのこと。つまり、公林、栄加もそれぞれ公李と兆加なのだ。あれらも、思い出しておるゆえ、終えるのが速かったのではないか?」

言われてみたらそうだ。

維明は、誠ばかりに目が行って、その他低い序列の者達が、さっさと提出しに来るのも、もう諦めたからだろうと思い込んで、解答用紙を確認しなかった。

が、見ていたら、その公林と栄加のことも、気付いたのだろう。

「…思うてもおりませなんだ。あれらが、洪と公李と兆加であったなど。」

維斗が、言った。

「…名は聞いたことがありますが、それらはかつての臣下なのですか?」

そうか、維斗は洪達に会ったことがないのだ。

将維が、答えた。

「父上が五代龍王の時と、我が六代龍王となった時にこの宮に仕えておった、稀に見る頭の良い臣下が洪ぞ。公李は、五代龍王の頃に亡くなっておる。兆加は知っておろう?最近に亡くなっておるから。」

維斗は、頷く。

「は。兆加は知っておりまする。そうですか、洪の名は確かに書物にも多く出て参り、宮の中を少しずつ改革して、その時代に合った動きをいち早く取れるようにと尽力した、大変に優秀な臣下なのだと記録にございました。その洪が、まさか戻っておるとは。宮中用の輿を提案するだけはありますな。」

確かにあれも誠が提案した。

維明が思っていると、維心が言った。

「本神はまだ、誰にも明かさぬと申して。我は知っておるが、まだ筆頭達以外は誰も、あれの中身が洪なのだとは知らぬ。宮の改革をするのに、不貞な輩を油断させるのは、その方が良いからなのだと申しておった。とはいえ、そろそろ良いのではないかと思うておる。試験の結果、恐らくあれはかなりの高得点を出そうし。その時点で公表すれば良いのではないかと思うておる。まあ、基本的にあれに任せるがの。」

将維が言った。

「洪が戻ったのならこれよりのことはございませぬ。いろいろ面倒があったものも、あれならさっさと正してしまうでしょうし。良うございました。」

維心は、頷く。

「そうだの。」

沈黙が訪れて、維明がここへ来た目的を思い出して、言った。

「…ところで父上。」皆が、維明を見る。維明は続けた。「将維が月の宮へ戻る時に、我と維斗も共に参って、採点を手伝おうかと思うておるのですが、よろしいでしょうか。」

維心は、眉を上げた。

「採点を?」と、将維を見る。「確か、高瑞と燐がやるとか聞いておったが。」

将維は答えた。

「は。ですが、二人で龍の宮、鳥の宮、鷲の宮、鷹の宮、白虎の宮、獅子の宮、高彰の宮、渡の宮の8つの宮の文官全ての答案を、採点するのは多過ぎるので。我も手伝おうと思うており、もし維明と維斗が来てくれるのなら、手分けして早うできるかと思うのですが。」

確かに多いか。

維心は、頷いた。

「…ならば、行って参るが良い。答案と共に将維が月の宮へ戻る時に、共について参るが良い。」

維明は、頭を下げた。

「は!」

そういえば、維明がまるまる宮を空けるなど久方ぶりではないだろうか。

維月が、言った。

「…維明と維斗が同時に居らぬようになると、維心様のご負担が増えてしまいますね。」

維心は、苦笑した。

「それはしようがない。これらには普段から楽をさせてもらっておるゆえな。ついでに少し遊んで参るが良いわ。月の宮なら、何の心配もないゆえ、好きに過ごして参れ。そうだの、ひと月やろう。卯月の花見の折に、共にこちらへ戻ろうぞ。」

維明と維斗は、驚いた顔をする。

そんなに遊んでいて良いのだろうか。

「…それほどに宮をあけても良いのでしょうか。」

維明が言うと、維心は笑った。

「良い。普段から宮に籠っておるのだし。少し休んで参れ。こちらの心配はない。」

維明は、神妙な顔をして頭を下げただけだったので、どう感じているのか全くわからなかったが、維斗は目に見えて嬉しそうな顔をした。

「月の宮で。あちらは珍しい物が多いゆえ、楽しみでございます。幼い頃に、母上のお里帰りについて参ったのが懐かしい心地です。」

維月は、素直な維斗に自然笑顔になった。

「ゆるりとして参りなさい。常日頃よう励んでおるので、父上からのご褒美ですわね。」

維斗は、頷いた。

「は!」

父親になってかなり時が経っても、こんな時には子供っぽい。

維月は、微笑ましくそれを見ていた。

将維は、言った。

「では、我らはこれで。」と、立ち上がった。「我は答案を長くこちらに置いておけぬので、終わればすぐに答案と共に戻ります。これらも共に参るのならば、準備が必要でありましょう。」

維心は、また頷いた。

「そうだの。戻るが良い。」

維明も維斗も立ち上がった。

「御前失礼致します。」

そうして、息子達は出て行った。

みんな大きくなったなあと、維月はそれを見送っていたのだった。


月の宮では、日が暮れたら次々に戻って来るだろう、答案を待って準備していた。

とはいえこちらはおっとりしていて、緊張感はあまりない。

十六夜が、言った。

《みんなやってるやってる。とはいえ、主要な宮の業務を担ってる臣下達は、みんな午前中には終わって戻ってるな。どこの宮でも、終わったら問題用紙は手元にもらえるから、それを書庫へ持って行ってみんなで答え合わせしてる。まだやってる奴らも居るが、段々諦めて提出し始めてるよ。多分、夕刻まで待たないでも、全員終わって持って来られるんじゃね?》

蒼は、答えた。

「そう。まあ、いつでも良いけどね。裕馬が教師達全員を集めて、文章題以外の採点の準備をしてくれてる。終わったらこっちに持って来て、燐と高瑞に文章題の採点をしてもらって、それをまた裕馬が持って行って合計点数を出して、コンピューターに入力して行く感じ。全体の順位と、宮での順位の両方を出す予定だよ。あと、余裕があれば個人用の偏差値とか項目別の点数を出した、成績表も送ろうかなって。人世システムそのままだよね。」

十六夜は、言った。

《神も大変だなあおい。維月があんなこと言うからこんなことさせられてさあ。ちなみに五百点満点か?》

蒼は、頷いた。

「そう、五百満点。でも、文章題が全部難しいし、最後はまず解けないだろうからなかなか満点は難しいって維明が言ってた。まあ、部分点があるからね。そこで稼ぐって形かな。」

十六夜は、また地上を眺めているようだ。

《…性格出るよなあ。宮によって潔さっていうか、諦めの早さってのが違う。渡の所はみんな分からないってなったらさっさと提出してる。龍の宮は、分からないながらも必死に何か書いてる。》

蒼は、苦笑した。

「王の姿勢もあるんだよ。渡はとにかく、やってみよ、って感じでプレッシャーなんかないけど、他は王の対面があるとかで、必死なんだよね。良い臣下は宮の財産だからさ。」

十六夜は、ふーんと言った。

《そんなもんかね。》

そんなこんなで、渡の宮からは早々に答案が戻って来た。

蒼は、時間差で来てくれたら助かるなあと、渡の性格に感謝したのだった。

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