祭りの終わり
百華をまた一つずつ見ながら皆で生き生きと話をして、宴の席はいつもより長く続いていた。
妃が居るのについて来ていなかった王達には、もちろん妃達にも土産は忘れていない。
焔が、満足して蓋を閉じた。
「誠に良い趣味よ、維月。気に入ったぞ。これだけの物をもろうたからには、戻ってからの返礼品は期待してくれて良いぞ?」
維心が、言った。
「何を言う。ここへ来るのに、手ぶらで来ておるわけではあるまいが。それの返礼だと思えば良い。気を遣う必要などないのだ。」
そう、他の宮の催しに招かれたら、手ぶらで行くはずはない。
皆、大層な量の品を携えて来るので、今回も多くの品を持って来てくれていた。
維月は見なかったが、七の蔵の九階は、恐らく今、厨子を開いて中身を確認し、記録している蔵担当の侍従達が居るはずだ。
かなりの数をそうやって記録しているので、これだけの数の招待客が居る節分の手土産の確認が、一日二日で終わるはずがないことを維月は知っていた。
本来は、すぐに到着口にて、準備してあった返礼品を軍神達に渡すのだが、今回維心は、上位の王達には返礼品を準備せずとも良い、と言っていた。
つまりは最初から、蔵を案内して、何かを選ばせようと思っていたのだと思われた。
なので、維月も妃達に好きな物を持って行けと言えたのだ。
炎嘉は、言った。
「過ぎておるわ。我らが持って参ったのは通常のツボやら装飾品やらで、ここまで良い物ではない。刃皇一本でも釣りが来るほどぞ。何か贈らせる。何が良い?」
維心は、眉を寄せた。
「…何がとて、特に何も。そもそも、何があるのか知らぬしな。気が済むのなら何か贈ってくれたら良いわ。」
志心が言う。
「こうなって来ると、こちらも蔵でも案内して良さげな物を選べと言うしかないな。此度は、我こそ多くの物をもろうてしもうた。何を礼にしたら良いのが分からぬほどにの。」
維心は、答えた。
「だから、眠っておった物だと申すに。主らも見て分かっただろうが、うちの蔵は満杯ぞ。新しい蔵を建てたのにアレなのだから、前がどれほどだったが分かるだろうが。気に入って持って参ってくれるのならこれよりはないのよ。何しろ、職人は今も励んでおるのだ。もう作るなとは言えぬからの。なので何も要らぬ。気にすることはない。」
皆が、困ったように顔を見合わせている。
維心からしたら在庫整理なのだろうが、あちらはそうは思っていないからだ。
維月が、言った。
「あの、でしたら炎嘉様。」炎嘉は、維月を見る。維月は続けた。「この間の宴の席で仰っておった、対の紅玉の額飾りと頸連と耳飾り。お聞きした時から、とても興味がございまして。」
炎嘉は、おお、と頷いた。
「そうか、あれか。良い出来なのに、我に妃が居らぬしなあと話しておったよの。今も居間に飾って眺めておるだけなのよ。ならばあれを主に贈ろう。」
維心が、言った。
「良いのか。滅多に出ない良い色の石だとか申しておったのに。」
炎嘉は、頷く。
「良い良い、維月が着けてくれたら、神世の皆が見るではないか。職人も喜ぶわ。あれなら刃皇と釣り合おうしな。」
アクセサリーとか、ほんとはあんまり欲しいとか思わないけど。
維月は、思ったが嬉しげに頷いた。
「ありがとうございます。」
焔が、言った。
「ならば維月、我は?何か欲しい物はあるか。」
維月は、鷲の宮か、と、考えてから、頷いた。
「…王族の庭にある、苔の滝の近くに自生する薄桃色の小さな花を、株分けして頂きたいです。」維月は、精一杯考えて言った。「こちらの滝の近くにも、咲かせてみたいのですわ。」
何しろ、その昔鷲の宮には、維織のフリをして行った事があるのだ。
その時に、燐が整えていた王族の庭を見せてもらって、そこには稀少な植物しかないのを知っていた。
「花?よう知っておったの。」
維心が驚いて言う。
焔は、笑って頷いた。
「そうか、あの辺りではあの場所にしかないものな。さすがに龍の宮にもあれは咲いておらぬだろう。どこにも出した事はないからな。」
そうなのか。
維心は、維月がやたらといろいろ知っているので、内心驚いていた。
維月は、微笑んで頷いた。
「はい。以前お邪魔した時に見たのが忘れられぬで。こちらにも咲かせたいと、常思うておりましたの。」
これは本当だ。
が、頼むほどでもなかったので、言わずに来ただけなのだ。
焔は、頷いた。
「ならば特別にこちらへ贈らせよう。楽しみにしておるが良い。」
維月は、頭を下げた。
「はい。ありがとうございます。」
とはいえ、何も要らないとか言う維心の言葉から、微妙な空気になった場は幾分和んだ。
もちろん、維心は正直に言っただけであって、悪気はない。
しかし、そのフォローも維月の役目だった。
志心が、言った。
「…ならば維月よ、我には?何かあるか。」
白虎の宮かあ…。
維月は、悩んだ。
何しろ志心は細かい所まで気がつく王なので、維月がふと何かに没頭しているとか聞くと、それに使う材料などを送ってくれたり、常いろいろもらってしまっているのだ。
そうね、志心様なら…。
「…志幡様から伝わると聞いております、白檀の欠片を少し、お分け頂く事は出来ますか?」
志心は、驚いた顔をした。
「…あの白檀を?」
維月は、頷いた。
「はい。常、志心様のお合わせになる香からは、優しく落ち着いた香りが混じっておって。それを使えば、もしや我にもそのような物が合わせられるのではと思いますの。」
香の材料は、普通門外不出だ。
それだけ少ないし、大切にしているはずなので、志心なら多くの双剣の、対価としてそれが相当なのだと分かるはずだった。
つまりは、志心もそれを譲れば、恐らくこれから維心に負い目を感じずに済むと分かるだろう。
志心は、フッと笑った。
「…なるほど。主は賢しいな。確かにそれなら、我も双剣達の対価として相応しいと思うわ。ならば、それを主に贈ろう。」
維心は、言った。
「…主がそう申すのなら、有り難く受けようぞ。」と、維月を見た。「しかし、大した物を申して。主らしゅうないの。」
志心が、笑った。
「だから言うたではないか、維月は賢しいのだ。我のためにそう申したのよ。だからこそ遠慮なく、我はこの双剣を使えるというものよ。夕凪もな。」
維心は、眉を寄せた。
「そんなものかの。何も気を遣うことはないのに。」
だから、借りっぱなしは嫌なものなのですってば。
維月は思ったが、微笑むだけに留めた。
それから、他の王達は維心に礼を言い、綾と翠明は果たして何を返せば良いだろうかと密かに小声で話していて、塔矢と恵麻も何やらボソボソと話し合っているのが見えた。
渡は新しい刀が嬉し過ぎて壇上で振り回して仁弥に叱られ、駿と高彰は新しい刀を前に、酒をチビチビ飲みながら、惚れ惚れと眺めていた。
焔はというと、王族の庭の話が出たのが余程嬉しかったのか、その話ばかりをしている。
なんでも、珍しい植物ばかりで、燐が居た頃から何も変わらずそれは美しく、よう考えたら龍の宮に対抗できるものがあそこに生えていたとあれこれ皆に説明して喜んでいた。
言われるまでは当然過ぎて、焔自身、あれに価値があることをすっかり忘れていたようだった。
そんなこんなで月は高く昇り、傾き始めたので、皆は宴の席を立ち、それぞれが大切な刀だけは己で抱いて、そうして他の厨子を侍従達に運ばせて、控えの間へと戻って行ったのだった。




