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土産物

炎嘉が、ふと言った。

「…そういえば維心、百華をまた少しくれぬか。炎月に良い物を与えたいと思うておってな。」

維心は、頷いた。

「ならば、適当に選ばせて控えに届けさせる。」

焔が、眉を上げた。

「百華とは何か?」

維心は答えた。

「万華は長が織った物、百華は同じ織り方で次席以下が織った物ぞ。とはいえ、次席でも万華に匹敵する物を織った時には、それには万華と名を与えておるがの。つまり、万華のなり損ないと申すか。」

炎嘉が、顔をしかめた。

「そんな言い方をするでないわ。うちの職人達は、あれでも充分に訪問着になると申しておるのに、主が部屋着用とか申すから皆の前ではそれにしか使えぬのではないか。我はあれで訪問着も作らせて、下位の宮に行く時には着て参る。良い布であるぞ?」

志心が、興味を持ったようだった。

「それは興味があるの。二の蔵も見てくれば良かったわ。多香子が維月にいくらか頼んでもらって来てくれぬかの。」

維心は、遠い目をした。

「…あやつらはしばらく万華の部屋に居たが、今は百華の前で何やら話しながら、一本一本吟味しておる。恐らく選ばせておるのではないか?百華は万華と違って、山程あるからの。職人達は、万華と名付けてもらえる品を織るために、励んでおるからな。」

ならば、妃が居る者達は恐らく、全員百華は持ち帰れる。

が…。

「我らは損ではないか!」焔が叫んだ。「妃が居る者達ばかり!不公平であるぞ!」

維心が、めんどくさそうに言った。

「分かった分かった、炎嘉に持ち帰らせるために選ぶついでに、他の奴らの分も選ばせておくゆえ。うるそう申すな、たかが反物一つで。」

焔は、ウーッと唸った。

「着物には困っておらぬが、それでも良い物は欲しいものなのだ!主は己の職人が幾らでも良い物を作って来るからそんな事が言えるのよ!」

まあ、そうかもしれないが。

維心は、面倒になってそれには答えなかった。

脳裏には、妃達が維月と共に、ああでもないこうでもないと、百華の反物を漁っているのが見えていた。


万華を堪能した後、五人は二階へと上がった。

維月が言っていた通り、二階は更にいっぱいで、足の踏み場もないとはこのことではというほど反物が積み上げられてあった。

維月は、道なき道を奥へと進んだ。

「こちら。少し浮いてご移動くださいませ。とにかく、置き場がないので…こちらは第二皇子以下の衣装を誂えるための布なのですわ。つまりは、第二皇子の妃、その皇子、後は明維、晃維、亮維などの衣装を誂えるための布で。百華は奥に…万華と同じく納戸に入っておりますが、鍵は掛かっておりませぬ。」

皆は、頷いて維月に言われた通りに、浮いて進んだ。

棚に収まり切れない反物が、床に厨子を置いてその上に積み上げられてあって、いつ踏みつけるかわからない。

とにかく、数が多かった。

こうしてみると、一階の王と王妃、そして第一皇子の所とは、格段に扱いが違った。

それでも、不意に現れる床置きの反物でも、それは良い物だった。

奥の扉の前は、さすがにスペースが空いていて、そこに維月は着地した。

「お待ちくださいませ、開きますわ。」

空いているといっても、一人が降りたらもう誰も立てないぐらいのスペースだ。

維月がそこを開くと、奥へといざなった。

「さあ、こちらへ。この中は大丈夫ですから。」

言われて入って行くと、万華の部屋と同じく横長の部屋で、同じく棚が壁に沿って置いてあり、全く同じ仕様だった。

違ったのは、その棚には多くの反物が積み上げられてあったことだ。

皆は、やっと床に着地して、言った。

「まあ…こんなにたくさん。」

維月は、頷いた。

「皆、万華を織れるように励んだ結果なのですわ。もちろん、たまに万華と名付けても良いという布を織る事もある職人達なので、百華と言われてもそれは素晴らしいのですよ。」と、棚の上の厨子をよっこいしょと持ち上げた。「こうして、こちらへ持って来られるように、下に厨子を置いてございます。こちらの床に置いて、選んで参りましょう。一つ見終わったら次へと、そうしたら、見逃す事はありませんわ。」

「お手伝いを。」綾が進み出て、厨子を持った。「まあ、こうしてみたら、万華と遜色ないようですのに。何が違うのかしら。」

維月は、答えた。

「いろいろございますが、まずは薄さですかしら。これは二枚、最近では三枚重ねてございますが、一枚に見えねばなりませぬ。こちらなど」と、端をめくった。「ほら、二枚に見えますでしょう?実際これは三枚なのですけど。そこの所がまだ未熟と見られるのかと。」

妃達は、ウンウンと頷いた。

「まあ。でも仕立ててしもうたらわかりませぬわ。しかも最新の三枚仕様の百華でございましょう。我はそれを王に。」

明日香が、いち早く宣言する。

本当にバーゲンセールそのものだった。

恵麻が焦って言った。

「では、我は次の厨子をこちらへ。二つ同時に見れば速いですわ。」

そうして、妃達は厨子を床に置き、普段は絶対にしないのに床に座り込んで、反物を一本一本吟味して行った。

維月も、反物を手にした。

「では…我は妃の居らぬ皆様に。本日お越しになっておらぬ方々にもお選びしておきましょう。炎嘉様など、ご存知であるから、持ち帰ったら我も我もとおっしゃいそうですし。」

それに焔様も。

「誠にこれが万華に劣るなど、思いもしませぬわ。王に良い物を仕立てて差し上げられるわ。」

恵麻も多香子も大喜びだ。

…職人達も喜ぶわね。

維月は、そう思いながらせっせと各宮の王達を思い浮かべて、生地から選んで行ったのだった。


そんなこんなで、二の蔵の外には多くの厨子が並ぶことになった。

全部で13個にもなった厨子を、蔵の間の外へと運び出させてから、侍従達を呼び集めてそれを持たせ、また輿に乗って会合の宮へと引き返して行く。

王達と宴の席へ行ったのがいつもより遅い六時頃、そこから一時間ほど刀の話に付き合って、そこから妃達と共に蔵へ向かって七時頃、蔵には一時間ほどのつもりが二時間半も居たので、今は9時を過ぎて10時に近く、もう妃達は部屋へと戻らねばならない時間だった。

そのまま控えの間に戻っても良かったが、妃達がどうしても王にもらった物を見せて報告しなければと言うので、こうして厨子を引き連れて戻ることにしたのだ。

それぞれの輿の後ろからは、厨子を持った侍従達が付従い、大層な行列になってしまった。

妃達としては、どうしても王に報告し、その場で維心に礼を言う機会を与えねばと思ったようだった。

そんな状態で会合の宮大広間の前へと到着すると、扉の前の侍従が驚いた顔をしながら頭を下げた。

「戻りました。扉を開いて。」

維月が言うと、侍従は答えた。

「は!」

そうして、大きく開かれた扉から、維月は維心が居る壇上へと足を進めた。

後ろから、多くの厨子がついて来るのを見て、王達は目を丸くしている。

維月は、維心に頭を下げた。

「王。戻りました。」

「よう戻ったの。」と、維月の手を取った。「とはいえ、何ぞあの厨子の量は。またようけ出したな。」

志心が言う。

「いくらなんでも、あれもこれもと申したのではないのか。あまりにも厚かましいと思われるのでは。」

維月は、慌てて首を振った。

「いえ、全てではありませぬの。あの、炎嘉様や妃が居られない方々にもと。我が選んでお持ち致しました。皆厨子一つずつでありますわ。」

志心は、ホッとした顔をした。

「そうか、そうだの、いくらなんでも多香子も弁えておるはずなのにと驚いたわ。」

多香子は、ムッとした顔をした。

確かに冤罪で厚かましいとか言われたら、不機嫌にもなるだろう。

維心が言う。

「そうか、ちょうど良かった。焔も炎嘉も百華が欲しいと言うておってな。選んで来たのか?」

維月は、侍従に頷き掛けて、それぞれの厨子を王の前へと運ばせた。

「皆様にお似合いになりそうな物を選んで参りました。お気に召したらよろしいのですが。」

焔が、嬉々として厨子の蓋に手を掛けた。

「維月は気が利くの!早速見てみることにする。」

そうして、皆が厨子を開いて中を覗き込む。

あちこちで、目をキラキラさせていた。

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