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妃達と二の蔵ツアー

そうして、五人は二の蔵へと向かった。

二の蔵一階には、ものすごい数の反物が、棚に山と積まれてあった。

「ここは、我や王、それに他の宮の王族の方々にお譲りする時に使う反物が収めてございます。収まり切れない反物は、二階にございまして、そこはここより更にいっぱいで。三階には着物、帯などの完成品がございますので、先に三階から見て参りますか?」

綾は、あまりにも多過ぎて全部見回す事もできず、とりあえず頷いた。

「はい。これが全部王族専用なのでございますか?」

維月は、頷いた。

「はい。万華はこの奥に専用の棚がありまして…そうですね、ならば先に一階をみましょう。こちらへ。」

維月が、奥へと足を進める。

あまりにも多くの反物があり過ぎて、見通せないので維月とはぐれたら迷ってしまいそうだ。

皆は、ピッタリと維月について奥へと迷路のように入り組んだ通路を歩いて行った。

維月は、途中で足を止めて、言った。

「こちらの棚は、蝉の反物。夏には重宝しますので、たくさんございますの。そろそろ夏の着物のお仕立てを考え始める頃ですし、よろしければこちらから、何かお選びになっては。」

蝉…。

今では、どちらの宮でもそれを真似て生地を作っているので、珍しいものではない。

が、それでも龍の宮の蝉は比べ物にならなかった。

「まあ…これは花が透かしてあって。」綾が、反物を手に取って、それを転がして少し引いた。「美しいこと。」

維月は、頷いた。

「紫の。きっと綾様にお似合いになりますわ。そちらの白に金糸の模様の物と合わせて見られたら、きっと素晴らしい装いに。」

綾は、え、と維月を見た。

「二本も戴けませぬわ。それでなくともこんなに完成度の高い蝉は初めて見ますのに。」

維月は、首を振った。

「よろしいのですよ、見ての通りこれだけの数がございます。また職人達は、なくなったと見たら織って参りますの。なのでご遠慮なく。何しろ…万華は滅多に出せぬので、お見せしてもお譲りできませぬから。他の物をお持ち頂きたいのですわ。」

いくら維月でも、維心に聞かずに万華だけは譲ると言えないのだ。

それだけ門外不出の布だった。

とはいえ、恐らく維心は後から譲ったと言っても、咎めはしないだろうが。

職人のプライドがあって、王妃が特別な記念でもないのにあっさり譲ったとは、とても言えないのだ。

明日香が、言った。

「では…お言葉に甘えて、王の夏のお着物のために、戴こうかしら。何しろお若くなられて、色目が全部地味になっておしまいで。今、宮では王のお着物がないと大変なのですわ。」

そうか、仁弥は若返ってしまったから。

維月は、頷いた。

「ならば皆様、王の分もお選びくださいな。後ほど白い反物もお渡ししようと思うておりましたの。染めや刺繍は宮で行なって頂いて、すぐに仕立てられるので便利でしょうし。」

恵麻は、もう反物の山をあちこち見ながら、頷いた。

「有り難いこと。感謝致しますわ、維月様。」

みんな、宮を回すのは大変だものね。

維月は、ワゴンセールに群がる主婦よろしく、反物の山と格闘する皆を眺めながら、思った。

皆、大きな宮の妃なので困ってはいないが、少しでも良い物を王にと、一生懸命なのだ。

その点、維月は恵まれているのだなと、改めて思った。

…管理が大変だけど。

維月は、内心ため息をついたのだった。


そこでしばらく反物を選んで、それを侍従に命じて厨子を持って来させ、その中へと分けて収めて二の蔵の前へと置いておいてもらい、維月はさらに奥へと皆を案内して行った。

奥へと到着すると、そこには気で錠が掛けられた、両開きの扉が出て来た。

維月は、言った。

「万華はこちらに。」

維月が手を触れると、その扉に掛かっていた錠が外れたのが分かった。

どうやら、誰が触れるかで開く開かないが決められている扉のようだった。

「ここは、王族と重臣筆頭、そして織りの長のみが開く事のできる納戸になっております。」維月は、中へと入って行く。「どうぞ、お入りになって。」

そこへ入って行くと、そこは細長い納戸で、棚が壁に沿って設置してあり、そこにキラキラと光っているように見える、布が並べてあった。

他の場所のように積み上げてはおらず、ただ淡々と並べて置いてあるだけだ。

それでもその下には、きちんと蓋無しの厨子が置いてあり、他の布とは完全に違う扱いなのがそれで分かった。

妃達は、うっとりとそれらを見回した。

「まあ…!素晴らしいわ、こんなにもたくさんの万華を一度に見ることができるなんて。」

綾が言うと、明日香も頷いた。

「それでも、他の物と比べましたら数が圧倒的に少ないのですわね。」

維月は、頷いた。

「万華は今のところ王族に限って纏えるようにと王は仰っておられて、万華を織れるのは長一人なのです。もちろん、その弟子なども織りますが、質はこれより劣ると、万華という名は与えられず、百華と名付けられて上の階にまとめて収められております。それも確かに美しいし、良い出来だと我は思うのですが、臣下は否と申して手を通させてくれませぬの。」

最良の物を王と王妃にと、どこの宮の臣下でも思う。

なので、少しでも劣っていると思ったら、もう否なのだろう。 

明日香は、言った。

「その、百華は。どうなるのですか?」

維月は、苦笑した。

「はい、万華には劣るのですが、美しいには違いないので、炎嘉様などその存在を知られてからは、部屋着にするからと王に申されてお持ちになることが多いですわね。ご興味がお有りですか?」

明日香は、頷いた。

「はい。王に…あの、誠に厚かましいお願いなのですが。宮では地味なお着物か、皇子の生地、もしくはとりあえず重臣用の反物があったのでそれで誂えた部屋着を着られておりますの。王は全くお気にされておりませぬが、臣下も我も気が気でなくて。織りの職人は、正月からこっち寝ずに機織りしておりますが、王にお着せするほどの布を、そんなに大量に一気に織るのは間に合わずで。少しでも、あれらの負担を軽くしたいと思うておりまして。」

それは大変だな。

維月は、頷いた。

「ならば、百華は我が王もお気に留めていらっしゃらないし。どうぞお持ちくださいませ、こちらを見学し終えましたらご案内致しますわ。」

明日香は、頭を下げた。

「はい。誠に申し訳なく、感謝致します。」

確かに、王の着物は王に似合う物をと、これまで淡々と造り上げて来た物を、足して足してと回して行くのが普通だ。

仁弥の宮の職人は、仁弥の外見に合わせて、年齢に合うように徐々に色合いを落ち着いた物にしながらここまでやって来たはずなのだ。

それを、いきなりに若くなって、では若いバージョンでお願いしますとは、なかなかいきなり聞けないことなのだ。

今、宮では臣下達が大変なのだろう。

…そこまで思い当たらなかった。

維月は、若返る事の弊害など、考えてもいなかった。

何しろ、維心は老いが止まっているので、ずっと姿を保っているし、よく考えたら臣下も職人も楽といえば楽だ。

が、長らく同じ姿で、それに似合う物をと作り続けるのも、よく考えたら斬新な物が出来にくいので、大変かもしれなかった。

維心はあれで目が肥えているので、良い物にしか手を通さない。

しかも、すぐに飽きてしまって同じ着物を二度着る事はない。

その上、派手な着物は好まず、シンプルな物を選ぶので、職人達はシンプルかつ、斬新な物をと追い求めた結果、万華のように織り方が斬新な物を考え出すより他、なかったのだと思われた。

そう考えると、やはり苦労はしているのかもしれない。

維月は、妃達と共に選ばれた万華の生地を一つ一つ眺めて行きながら、そんな事を考えていたのだった。

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