妃達と三の蔵ツアー
維月は、三の蔵の二階へと、何の迷いもなく歩いて行く。
これだけの物があるのに、全て把握しているのかと皆は感嘆してその後に続いていた。
維月が手を上げて灯りを着けると、そこにはたくさんの棚がひしめき合い、棚と棚の間は狭い。
なんとか一人、通れるぐらいしか空いて居なかったが、そこにはびっしりと細長い厨子が並んでいた。
「奥に行くほど珍しく年代が古い物で。」維月は説明した。「多過ぎて選ぶのは大変なのですが、王は波動を読むのだと仰っておりました。己がしっくり来る波動を追って、厨子を選んでみてくださいませ。そして開いて中を見て、これだと思う物を選んでくだされば良いのですわ。」
多香子が、頷いて足を進めた。
「…こちら。」と、奥へと足を進めていく。「何やらこちらから、覚えがあるような懐かしい匂いと気配が…。」
多香子は、吸い寄せられるようにそちらへと足を進めて行く。
恵麻も、目を閉じて波動を読んでいるようだったが、目を開いた。
「…まあ。」と、目を凝らした。「どうしたものか、我が気を放って探しておったら、応えるような気配が…。」
恵麻も、足をそちらへと向ける。
「こちらでお待ち致しますわ。」維月は、微笑んで言った。「気に入ったら、お持ちくださいませ。」
恵麻は頷いて、スーッとそちらへ向かって歩いて行った。
綾が、言った。
「我らにはさっぱり。何も気取れないのですが、やはり刀を持ったことがないゆえでしょうか。」
維月は、苦笑した。
「そうですね。ここに収めてある刀は、皆龍の名工が打った大変に出来の良い物で。上位の軍神でも、ほんの一握りが王より許されるだけの貴重な刀なのでございます。ゆえに、その刀自身が力を持つ物も多く、それらが相手の気に触れた時に、波長が合うと呼ぶ事もございます。恵麻様も多香子様も、長く刀を握って来られましたので、刀の方でもお二人に応えたのやも知れませぬわね。」
そんな事を話しながらその場で二人を待っていると、側の厨子が誰も触れないのに、いきなり床へと落ち、中の刀が抜き身のまま床へと刺さった。
維月は、咄嗟に側に立つ綾を庇って前に出る。
綾は、目を丸くして言った。
「ま、まあ。何故に急に。」
維月は、その刀に近付いてそれを床から引き抜いた。
それは、懐剣に使う短い刀だった。
「どうしたの?」と、刀をじっと見つめる。「…あら、もしかして綾様かしら。」
綾が、え、と驚いた顔をする。
「え、我?でも、我は刀など振った事もありませぬし…。」
維月は、頷いた。
「これは懐剣ですから。」と、綾に差し出した。「お手に取ってご覧になって。」
綾は、恐る恐るそれに手を伸ばした。
懐剣は今も胸に挿してあるが、しかしこれは魔除けのお守りのような物で、正装の標準装備の一つとして綾は見ていた。
つまりは、鞘から引き抜いた事もないのだ。
柄をおっかなびっくり掴むと、綾は目を丸くした。
「まあ。」と、それを構えた。「…なんて軽い。しかも、ずっと握っておったように、すんなりと手に馴染みますわ。」
維月は、微笑んで頷いた。
「ならば、その懐剣は綾様に持っていてもらいたいと思うておるのでは。魔除けならば、これほど力のある刀は他にありませぬ。これからは、これをお持ちになられては?」
綾は、戸惑う顔をした。
「まあ…。我などを選んでくれるなど、使ってやれぬのに嬉しい事でありますが、よろしいのでしょうか。」
維月は、頷いた。
「何より刀がそれを望んでおるのですから。必ず守ってくれますわ。」
綾は、ジーッとそれを見つめて、頷いた。
「ならば、これを。ありがとうございます、維月様。」
明日香が、横から言った。
「あちらから床へ落ちてまで持ち帰ってもらおうなんて、健気な刀でありますこと。羨ましいですわ。」
維月は、明日香を見た。
「明日香様も、懐剣がご入用ですか?」
明日香は、苦笑して首を振った。
「いえ、我は今のこれで充分です。何しろ、亡き父が我が嫁ぐ時に、持たせてくれた物でありますので。死ぬまでこれを胸に挿しておきたいのです。」
婚姻の時からなのね…。
維月は、答えた。
「愛着がお有りになるのですね。ならばこれよりの事はございませぬわ。」
維月が厨子を拾って綾の懐剣をそれに収めていると、恵麻と多香子が次々に戻って来た。
それぞれ厨子を手にしており、多香子はなんとか落ち着こうとしているようだったが、顔が紅潮していて、見るからに興奮しているようだった。
「あら、多香子様?良い刀がありましたか。」
多香子は、何度も頷いた。
「まるで、昔から知っておるような刀で。手に馴染んで、手放すのに苦労するほどでありました。その昔、任務で折ってしもうた父上にもらった刀を思い出して…これよりはありませぬ。」
そんなに気に入ったのか。
維月が思っていると、恵麻も言った。
「維月様、ご覧になって。」と、厨子の蓋を開いた。「ほんのりと赤く光っておりますの!しかも、刃紋が炎のようで…このように美しい刀は見たことがありませぬ!」
維月は、それを見つめた。
見たことがあるけど…。
「あら」維月は、蓋を見た。「もしかしてこれは、皇華では?」
確かに、蓋には皇華と書いてあった。
維月は、続けた。
「やはり。これは、炎嘉様がお選びになった刃皇の兄妹刀と言われておって。刃皇は男性、皇華は女性のイメージですの。同じ名工が打った物でございます。やはり、鳥族であられるから。同じような刀と、縁がお有りでしたのね。良かったこと、ならばお二人とも、それをお持ちくださいませ。使ってやってくれたら、これらも喜ぶでしょう。長年蔵で眠っておったのですから。」
二人は、厨子を手に深々と頭を下げた。
「ありがとうございます。大切に使わせて頂きます。」
維月は、早く決まって良かった、と、足を階段に向けた。
「では、二の蔵へ参りましょうか。それは、下の侍従達に預けておきましょう。二の蔵には、多くの反物や着物が眠っておりますのよ。見応えがありますわよ?」
綾が、ウキウキと言った。
「まあ、とても楽しみですこと。王は刀が刀がと興奮されておりましたが、我にはさっぱりで。美しい着物の生地が見られる方が、心が沸きますの。」
維月は、笑って答えた。
「そうですわね。あちらには多くの反物が収められてありまして、一階二階三階は高級品、それより上は臣下達に下賜するための物でございます。三階までなら、そんなに時を取りませぬわ。」
頷いて階段を降りていると、恵麻が言った。
「あら綾様?その小さめの厨子は?」
綾は、微笑んで答えた。
「懐剣なのでございます。大変に軽い物で、維月様からお譲り頂きました。明日香様は長年お使いの大切な懐剣がお有りなので、必要はないようですが、我はこれというものを持っておりませんでしたので。とても良い物を戴いて、何やら胸が沸きますの。」
維月は、階段を降りきって言った。
「ただ、こちらは鞘だけは使うと決めてからしか作らぬので。そこは皆様の宮へお帰りになってから、それぞれの職人に作らせてくださいませ。」
恵麻は、頷いた。
「うちの職人も喜ぶでしょう。これほどの刀の鞘を作る事ができるなんて。刀に劣らぬようにせねばならぬので、難しいでしょうけれどね。」
維月は、フフと笑った。
「良いように装備なさってくださいませ。見せて頂くのを楽しみにしておりますわ。」
そうして、三の蔵を出た五人は、そこに控えていた蔵担当の龍の侍従に厨子を預けて、向かい側にある二の蔵へと、向かって行ったのだった。




