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節分の宴

壇上から見ていると、他の招待客達はそれは楽しげに談笑していた。

王達も、皆新しい刀に夢中で、話題は刀の事ばかりだ。

維月達妃は、それを斜め後ろで黙って聞いているだけだった。

が、いつもなら綾との間に居る椿が居らず、綾の顔がハッキリ見えるのは、最初はアイコンタクトしやすいと良い気分だったが、段々につらくなって来た。

…今頃、椿はたった一人で控えの間に居るのだ。

恐らくは、これ以上何かしでかさないようにと、侍女達に囲まれて寝室に籠められているのだろう。

箔炎は、ここへ来る前に宴の準備をと控えの間へ戻ったようだったが、顔を合わせていないようなので、それが透けて見えるのだ。

維月が小さく息をつくと、維心が敏感に反応して振り返った。

「維月?疲れたか。」

いつも気に掛けてくださるのね。

維月は、微笑んで首を振った。

「いえ、大丈夫ですわ。お気遣いありがとうございます。」

箔炎が、言った。

「…維月には迷惑を掛けたようだの。他の妃にもぞ。すまなんだな。」

維月は、首を振った。

「そのような。本当に、普段なら何でもない事なのでございます。ですが祭りの事でございますので…厳しく申してしまいました。」

めでたい空気を、乱すことは出来ない。

箔炎は、頷いた。

「分かっておる。せっかくの節分に集まっておるのに、うちの宮のゴタゴタに巻き込まれてはな。主はここの女主(おんなあるじ)であるし、空気を乱さぬ義務がある。それで良いのよ。」

維月は、何やら重苦しい空気にまたなりそうだったので、維心を見た。

「王よ、皆様蔵を楽しまれたようでございますので、一時ほど、妃の皆様と我も蔵へ参って良いでしょうか。多香子様と恵麻様に刀を選んで差し上げたいし、それに他の妃の皆様にも、二の蔵など見せて差し上げたいですわ。」

二の蔵は、布関係の蔵だ。

炎嘉が言う。

「そういえば我らは二の蔵は見ておらぬな。確か、布関係が収めてあると維心が申しておったの。」

維月は、頷いた。

「はい。せっかくですので、良い生地がありましたら選んで頂いても良いかと。」

焔が、え、と盃を置いた。

「そうか、我ら宝ばかりに気が行って。よう考えたら、万華もあるではないか!」

維心が、たしなめるように言った。

「こら。主は刀を手にしたのだから、欲張るでないわ。また次の機会にの。」と維月を見た。「行って参れ。輿を回させよう。」

侍女達が、それを聞いて急いでその場を離れて行く。

輿をスタンバイさせに行ったと思われた。

維月は、立ち上がって頭を下げた。

「はい。では王、御前失礼致します。」

それを見て、多香子、綾、恵麻、明日香も急いで立ち上がった。

そうして、出て行く維月に遅れてはと王に頭を下げると、その後を追って歩いて行ったのだった。


炎嘉が、それを見送って言った。

「…誠に維月は場を上手いこと転がすの。まあここが己の宮であるから、なんなり分かっておって動きやすいのだろうが、あのまま残ってもまた、椿の話になると思うたのだろう。」

維心は、頷いた。

「妃の間のことは、あれに任せて間違いないと思うておる。が、他の宮の夫婦関係にまで言及するのはおかしいので、そこは控えるようには言うてある。前までの維月なら、妃の権利だの心情だの申して大変だったが、今はそこにはそこの決まりがあり、各宮の法があるのだと理解しておるゆえ。やりやすうなったわ。王の柵も、しっかり理解できておるので王妃としてこれよりのことはない。」

焔が、おもしろくなさげに言った。

「まあ、主が維月を良い妃と申すのは分かっておったわ。いつまで経っても溺愛しておるから、こうして同席しておっても、いつなり様子を気にして後ろをチラチラ見ておるだろうが。何百年も傍に居るのに、ようそこまで常に想うておられるなと、感心するものよ。」

維心は、クックと笑った。

「羨ましいと申したらどうよ、焔。我はただ一つを引き当てたのだと思うておるよ。」

炎嘉が、たしなめるように維心に言った。

「こら!これまで散々迷惑をかけて参ってえらそうに申すでないわ。我に何度泣きついて参った。何もなかったように申してからに。」

維心は、炎嘉を見た。

「…だから主には感謝しておるではないか。常の。」

志心が、言った。

「とにかく、長く時は掛かったが、龍王妃として神世の全ての王妃の模範となるべく、行動できるようになったのだ。それは維心の根気強い教育の賜物であろう。良かったではないか。」

炎嘉は、むっつりと頷いた。

「まあ、これだけ時を掛ければ、大抵はそうなろう。維心の粘り勝ちよ。我には無理だった、ゆえにもう維月が欲しいなどとは思わぬのだ。友で充分よ。」

ここに居る皆がそんな心地だろう。

確かに魅惑的な月ではあるが、遠く眺めていて時々に接するぐらいがちょうどよいのだ。

王達は、そしてまた刀の話に戻ったのだった。


維月達は、回廊へと出てそこに急いで運ばれて来た、内用の輿へと乗り込んでいた。

二列になっていて、隣りの多香子が言った。

「これは便利な物ですわね、維月様。着物の裾を気にせず移動できるので、我が王も帰ったら同じ物を作らせると仰っておりましたわ。」

後ろから、綾も言った。

「我が王も。何より我を気にせずさっさと歩ける事が楽だと仰って。速度も侍従達は歩くのが速いので、王は気にせず足をお運びになれるのだそうですわ。」

確かにそうかも。

維月は、頷いた。

「誠に良い物を作ってくれたと、我も思うておりますの。これからは、これで移動致しましょうね。」と、脇の侍従達を見た。「蔵へ参ります。」

侍従は、頭を下げた。

「は!」

そうして、皆でせーのっと声が聴こえて来るのではないかというぐらい息を合わせて持ち上げると、スルスルと輿は進み始めた。

回廊の上を、まるで滑るように進んで行く。

あー楽でいいわあ。

維月は、輿の上でそんな事を思っていた。

瞬く間に会合の宮を出て本宮へと入り、多香子が、回りを眺めながら言う。

「歩いておる時には、裾ばかりを気にしておりましたのに、こうして見ると龍の宮の調度や柱の彫り物なども、落ち着いて眺める事ができて楽しめますわ。天井すら、あのように美しい絵が。」

その言葉に、全員が天井を見上げる。

天井には、真っ青な空を雲の間を抜けて飛ぶ、長い龍身が描かれているのだ。

維月は、頷いた。

「あれは、四代龍王張維様が描かせたもので、比較的新しいものですの。柱の彫り物などは初代龍王維翔様が彫らせたらしく、かなり古い物なのですけど。」

皆、ふんふんと頷きながらそれらを見ている。

確かに、天井など見ている暇はないので、珍しいといえば珍しいのかもしれなかった。

何しろ、ここの天井は半端なく高いのだ。

飛べるので描くのは大層ではなかったようだが、人だったら足場を組んで大変だっただろう。

そうこうしている間に、蔵の大扉の前に到着した。

蔵の大扉の前を守る、軍神二人と侍従二人が頭を下げた。

「王妃様。」

維月は、輿から降りながら言った。

「王には許可を頂いております。皆様と二の蔵と三の蔵へ参ります。」

軍神達は、答えた。

「は!」と、侍従達を見た。「扉を開け。」

侍従達は、気を使って大扉をこちら側へと引いた。

かなり重苦しい音を立てながら、それは開いた。

大きく開いたそこは、大きな建物が乱立する広い空間で、妃達は皆目を丸くした。

「まあ…。これが蔵?」

維月は、微笑んで頷いた。

「はい。ここは蔵の間、遠く正面に見える古い物が一の蔵で、そこから左右に向かい合って六つの蔵がございます。向かって左側、奥から二の蔵、そしてそれと向かい合うのが右側、三の蔵ですわ。七の蔵まで只今はございます。ここは、もとは内宮の中庭で、一の蔵だけであったのが、どんどんと増設しておったらこんなことになってしまいましたの。」と、七の蔵の脇の細い通路を指した。「後は、ここを通って奥に、もう少しだけ空間が空いておりまして、そこに八の蔵を建てたら、もうここには増設できぬ状態で…。仕方なく、それは最終手段と今ある蔵の階層を増やすように、考えておるところですの。」

蔵とはこんなにあるものなのだろうか。

皆が、呆然としている。

維月は、苦笑して歩き出した。

「では、参りましょう。まずは、多香子様と恵麻様の刀を選んでみましょうか。三の蔵へ。」

維月が慣れたようにどんどん先へ行くので、妃達も急いでそれを追った。

背後で大扉が、また音を立てて閉じたのだった。


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