龍王の刀達2
それから、炎嘉達の興奮した声は途切れる事はなかったが、志心と維心は奥から出て、鵬に皆を呼びに行かせた。
名残り惜しげに三の倉から出て来た炎嘉達は、志心が大事そうに古いがかなり凝った細工の大きな厨子を持っているのを見て、言った。
「え、志心まさか主、維心にそれを譲ってもろうたのか?!」
志心は、頷いた。
「そう。双剣であるから、使い手がおらぬと。」と、厨子を見た。「誰にも触れさせとうなくて、こうして己で抱えておる。」
志心が言うからには、相当良い物だ。
焔が、言った。
「なぜに志心だけ!我も欲しい!奥の如月という刀が気に入って、さっきまで見ておったのに!」
維心は、苦笑した。
「如月か。まあ良い、ならば主も持って参れ。だがそこまで良いかの、義心が持っておるやつはそれより良い物であるぞ?」
炎嘉が言う。
「好みというものがある。我とて刃皇という刀が気に入って、手にしてみたが軽くてまるで誂えたかのようだったわ。」
維心は、息をついた。
「しようがないの。ならば皆、好きな刀を一つずつ持って参れば良かろう。」
それを聞いて、駿が顔を上げた。
「え、誠に?良いのか、維心殿。」
維心は、手を振った。
「良い良い、眠っておるより出した方がの。志心に譲った物より面倒がない物ばかりであるし、行って参れ。」
渡が、もう蔵の方へ走りながら言った。
「仁弥!我が夏七を貰うぞ!」
仁弥は、慌てて後を追った。
「こら!待たぬか!」
王達は、先を争って蔵へと戻って行く。
志心は、維心を見た。
「…良いのか?他の刀は問題ないのか。」
維心は、頷いた。
「それは打った者の思念は残るが、面倒なのは主が持つそれだけぞ。当代一の名工であった男の、一番弟子が打ったゆえ、しかも長年蔵で龍王の気を吸って来たゆえ面倒なだけで。他はただの刀ぞ。」
志心は、その厨子を撫でた。
「父上が覚えておったらそれは喜ぶだろうの。とりあえず、まだ赤子だが見せてはやろう。」
色白の志心が、ほんのりと顔を赤くしている。
恐らく、本当に嬉しいのだろう。
維心は、言った。
「…それほどに喜ぶのなら、他の双剣も主に譲ろうか。」え、と志心が顔を上げると、維心は続けた。「夕凪にでもやるが良い。最初に見た物でも、気に入っておったようではないか?他は問題なく使えるのだし、何もその風奏だけでなくとも、他に気に入った物を普段使いにでもしたら。」
志心は、維心をじっと見つめた。
「…良いのか?双剣の在庫がなくなるのでは。」
維心は、苦笑した。
「だから、あんな端に追いやられておったら、何のために誕生したのか、剣も哀れではないか?主の宮には双剣使いが多いしな。使ってやってくれるのなら、全部譲っても良い。」
志心は、頷いた。
「感謝するぞ、維心。夕凪を宴の席に呼んで、早速渡してやろう。あやつは喜ぶだろうしな。」
維心は、頷いて鵬を見た。
「鵬。端の双剣を、全て志心の控えに運べ。」
鵬は、頭を下げた。
「は!」
鵬は、離れて控えていた侍従達に合図して、侍従達はそそくさと三の蔵へと入って行く。
入れ替わりに、炎嘉達がそれぞれに細長い厨子を手に、顔を輝かせて戻って来た。
「維心!これ、この刃皇という名の刀が良い。ひと目で気に入っての。ずっとこれを見ておって。」
焔も、言った。
「我はこれ。如月ぞ。柄が凝っておってしかも握りやすいし、刀身に紋様が浮き上がっていて気に入ってなあ。」
維心は、頷いた。
「分かった分かった、また後で聞こうぞ。皆、己が欲しい物は手にしたな?」と、維心は鵬に手を差し出した。「鵬、厨子を。」
鵬は、ずっと手に持ったままだった、厨子を差し出した。
「は!」
維心は言った。
「蓋を開け。」
鵬は蓋を開いて、空の中身が見えるようにした。
すると維心は、宙に手を翳して、何かを呼び出したかと思うと、その手には先ほど見た宝物庫の中に並んでいた、龍王が選ぶという刀のうちの一本だということが分かった。
薄っすらと青白く光り、確かに他の刀とは一線を画した物だった。
「これは、初代龍王と二代龍王が使った刀ぞ。」と、それを厨子に収めた。「鞘は無い。が、敢えてそうしておる。なぜなら、このままの方がより強い力を発するからぞ。翠明、これを主に貸し出そう。」
翠明が、厨子を大事そうに抱えていたのだが、驚いた顔をした。
「え、なぜに我?!この刀で充分なのだが。」
維心は、呆れたように言った。
「主、明日には椿を連れ帰るのだろうが。これを、椿の部屋の天井裏に置け。さすれば、大抵の魔は祓う。つまりは、霧が存在できぬ。椿には触れさせるでない。今の椿は、一発で死ぬぞ。それだけの力が、この刀にはある。」
まじか。
翠明は、呆然とした。
心強いのは確かだが、これぞ正に諸刃の剣だった。
とはいえ、綾も居る宮の中に、霧など孕んだ神が存在することはどうしても避けたかった。
なので、頷いて頭を下げた。
「…すまぬ。気遣いに感謝する。こんな貴重な物を我が宮に借り受けて椿の部屋の天井裏などに置くなど荷が重いが、心強い。借りて参る。」
維心は、頷いた。
「まあ、椿が黄泉へ参るか、我が破邪の舞いを舞ったらこれは返してもらうしの。」と、刀を見た。「我が命じる。翠明の宮を守ってやれ。」
刀は、皆の前で明らかに光を増した。
そして、またスッと落ち着いた色に戻った。
維心は、鵬を見た。
「蓋をして、翠明の控えへ。」
鵬は、頭を下げた。
「は!」
そして今度は、自分がしっかりとその厨子を手にして、他に任せようとはしなかった。
つまりは、それだけの価値がこれにあるのだ。
維心は、皆を見回した。
「…では、戻ろうか。ちなみに全部鞘が無いぞ。うちは使う時に好みで作るのでな。主らも、宮へ戻ったら己の職人に作らせるが良い。」
炎嘉は、厨子を抱きしめて頷いた。
「もちろんよ。今夜はこれを抱いて寝るかのう。それとも立ち合いでもするか?」
維心は、笑った。
「それは後ほど。もう疲れたわ。宴の席へ参って、酒でも飲もう。それぞれの刀を肴にな。宴の席へ持って参れよ。」
皆は、何度も頷いた。
「持って参る!」焔は、漸を見た。「主は何にしたのだ?何やら端の方で鼻を利かせておったが、匂いで分かるものか?」
漸は、頷いた。
「分かる。我はこれが一番良いと思うたわ。主らが選ばなんだのが、幸運だったと思うておるよ。」
焔は、ムッとした顔をした。
「何を申す。主こそこれの良さが分かっておらぬのよ。」
新しい玩具でも手に入れたようだの。
維心は微笑ましくそれを見ながら、蔵の間を出て宴の準備をしに奥へと向かった。
もう月が昇っていた。
居間へと帰ると、維月がきちんと宴の装備に着替えて、維心を待っていた。
維心は、維月に言った。
「持たせたの、維月よ。すまぬな、皆が最後に三の蔵の二階を見たいと言い出しての。明日にはどうせ帰る前に志心を連れて行くつもりでおったし、良いかと見せておったら時を取った。」
維月は、首を振った。
「よろしいのです。お楽しみでしたのね。三の蔵の二階と申しますと、刀でありますか?」
維心は、維月に着替えさせられながら、頷いた。
「その通りよ。皆大騒ぎでな。好きな物を持って帰れと申した。ゆえに刀の在庫が減ったぞ。鵬が刀鍛冶に申しておるだろうがな。志心には、奥の風奏も含めて双剣を全て譲った。何千年も眠っておったものやら、新しい物でも数百年経っておろう?使われぬのも哀れであるしな。大変に喜んでおったわ。」
維月は、だったら棚が一気に空いたなと微笑んで頷いた。
「それは良うございました。刀も喜んでおりますでしょう。鍛冶の龍達も、また打ち甲斐がありますでしょうし。」
維心は、頷いた。
「そうだの。」
「終わりましてございます。」
維月が、頭を下げる。
維心は、頷いた。
「では、参ろうか。そういえば洪が主に宮用の輿を作らせたようよ。試してみるか。」
維月は、頷いた。
「まあ。もうできておりますの?」
維心は、頷いた。
「侍女。誠に輿をこれへと。」
侍女達は、頭を下げて出て行く。
維月は、楽できるわーっと楽しみにしていたのだった。




