龍王の刀達
それから、王達はそれぞれの小分けにされた部屋を、一つずつ入っては、中に並ぶ品々を珍しく見て、楽しんだ。
三階建てのそこを、上までしっかりと堪能して出て来た時には、もう外はすっかり日が暮れていた。
頭を下げて外で待っていた鵬に、維心は言った。
「…鵬、五の蔵から厨子を持って参れ。刀を収める大きさぞ。」
鵬は、頭を下げた。
「は!」
鵬は、急いで五の蔵へと入って行く。
炎嘉が、言った。
「刀?そういえば、宝物庫でしか刀を見ておらぬが、金属関係の蔵を見ておらぬから、他の刀は見せてもらっておらぬな。珍しいものばかりに気が行ってしもうて。」
維心は、苦笑した。
「金属関係は三の蔵ぞ。その二階に刀はあると聞いておる。とはいえ、もう夕刻であるし、見たいなら明日帰る前にでもまたここへ参るか?」
志心が、言った。
「それほど見て回るのに時を取りそうか?軍神の刀などもここに?」
維心は、答えた。
「いや、軍神に支給しておる刀と甲冑は、軍倉庫にある。訓練場脇ぞ。ここにあるのは、手柄を立てたり、序列上位の者達に下賜されるかなり質の良い刀ぞ。義心も、ここから選んで下賜した刀を使っておる。序列が高いほど良い物を使っておるの。」
焔が言う。
「ならば、それほど数は多くなかろう。見てみたい。宴など後で良い。」
維心は、息をついた。
「ならば参るか。」と、厨子を手に走って戻って来た鵬に、言った。「ここで待っておれ。三の蔵の二階だけ見て参るわ。」
鵬は、頭を下げた。
「は!」
そうして、一行は先ほど飛ばした三の蔵へと入って行った。
三の蔵へと入ると、維心は迷わず階段へと向かう。
入ってすぐは多くの棚と木箱や厨子の山積みで、当然のこと中身までは分からない。
綺麗に整頓されてあるので、表記さえ読めば良いのだが、それが面倒過ぎて皆、見ようともしなかった。
そのまま、二階へと上がると、維心が光を灯した。
パァッと明るくなったその階には、細長い同じ大きさの厨子が、棚に整然と並んでいた。
維心は、言った。
「これが、良い出来の刀ぞ。奥へ行くほど良い物とされ、収めてある厨子も手が込んだ物になっておる。開いて見て行くが良い。」
ここには山積みになった箱はなかったが、棚に綺麗に並ぶ厨子の数は半端なかった。
刀には、一つずつ名前がついているらしく、表記は全てその名のみだ。
炎嘉は、言った。
「…これだけあれば、もう片っ端から開いて見てみぬことには。」と、足を奥へと進めた。「良さげな箱に入っておるやつを開いて見て来るわ。」
焔が、急いで言った。
「待て、我も行く!」
皆が、散り散りに離れて行く。
維心は、同じように行こうとする、志心を呼び止めた。
「志心。」志心が振り返ると、維心は左側の通路へと歩いた。「主はこちら。」
志心は、なんだろうと思ったが、維心が言うのについて行くと、他の厨子より少し大きな厨子が立ち並ぶ場所へと向かった。
そこは、一番端の列で、壁際にあった。
そのひと列だけ、幅広の厨子が乗っているのだ。
「これは?」
志心が問うと、維心は答えた。
「これは、双剣ばかりの棚。」志心は、驚いた顔をする。維心は続けた。「我らは滅多に双剣など使わぬのだが、宮に無いというのも悔しいのだろう。職人達が、双剣の在庫も作っておこうと試しに打った物よ。とはいえ、ここにあるのだからそれなりの出来の物ばかり。見てみるが良い。」
志心は、まさか龍の宮に双剣があると思わず、その端の厨子を開いた。
するとそこには、綺麗にカーブした刀身の、美しい双剣が眠っていた。
「おお」志心は、思わず声を上げた。「なんとの、美しいではないか!龍は双剣まで打つのか。」
維心は、頷いた。
「とはいえ、これらは長いことここに眠っておるだけなのだ。このまま奥へ行けば、そこには龍王刀を打った龍の、一番弟子が打ったという珍しい双剣がある。が、前に開いたのはもう、千年以上前のことよな。我の前世皇子の頃に、父の張維が志幡に見せておったのを覚えておるぐらいよ。志幡がやたらと欲しい欲しいと申しておったが、あの頃まだ微妙な情勢であったろう?ゆえに、譲る事なくまた蔵へ戻っておった。もともとは一の蔵にあったが、我が宮では双剣には価値を見出さぬからな。ここへ収まっておるのだ。」
父上が欲しがった剣…。
志心は、言った。
「それを見てみたい。良いか?」
維心は、頷いた。
「そのつもりよ。こちらぞ。」
維心は、更に奥へと足を進める。
志心は、開いた厨子をそっと閉じてから、それを追ったのだった。
奥へと到着すると、何やら向こうの棚から炎嘉や焔の興奮した声が聴こえて来る。
あちらも、奥の列で刀を見て、騒いでいるようだった。
維心は、古いが細かい細工が施してある平たい厨子を示した。
「それよ。開いてみよ。」
志心は頷いて、その蓋をそっと開いた。
そこには、鈍い光を放つ、刀身の背にまで美しい細工が施された、見たこともないほど洗練された双剣が並んでいた。
「…なんと…」志心は、それを穴が開くほど見つめた。「なんとの。我の刀など歯牙にもかけぬほど美しい。しかも、これ自身が力を持っておる。こんな物があるとは…しかも、ずっとこんな所で眠っておるとは。」
維心は、頷いた。
「宝の持ち腐れとはこのことよの。」と、それをいきなり手に取った。「見た目とは違い、かなり軽いのよ。なのに強い。もともと素早い白虎であるから、これを手にしたらもっと速く刀を振れると、志幡はかなり粘っておった。が、父上は否と申した。志幡のことを、心から信じていたわけではなかったからぞ。」
あの頃の情勢ではそうだろう。
維心は、志心にそれを差し出した。
志心は、小刻みに震える手でそれを受け取り、すんなりと馴染むその握り心地の良さに驚いた。
だが、その瞬間志心には分かった。
この刀には、これを打った龍の残留思念が残っている。
それが力となって、龍王の結界内でそれが何千年と凝縮され、これほどの物に成長している。
つまりは、この剣は絶対に龍王を討たぬだろう。
それが、分かったのだ。
「…これは、主には絶対に逆らわぬ剣ぞ。」志心は、維心を見た。「張維がこれを父上に渡さなんだのは、情勢のせいではなかったか。」
維心は、ニッと笑った。
「…主は志幡とは違うな。その通りよ。父上は、これが絶対に龍族に刃を向ける事を許さぬ剣だとご存知だった。ゆえに、譲らなかったのだ。あの頃の情勢では、何が宮と宮との軋轢になるかわからぬだろう。白虎に選択肢を与えるために、わざと何も言わずに譲らなかった。志幡にはそれが気取れなかったが、主には気取れたの。」
維心は、自分を試したのだ。
志心は、思った。
これを手にして、果たして本当に主は志幡より賢しいのか?と。
志心は、息をついて名残り惜しげにそれを厨子へと戻した。
「…なんと残念なことよ。これほどの物は世にないのに。」
維心は、微笑んで頷いた。
「まあ、だが我はこれを主に譲ろう。」え、と志心が顔を上げると、維心は続けた。「今は我らは友であり、種族同士は争う事もない。何もこれは、持っておるだけで持ち主を縛るほどの力があるわけではない。使わねば良いわけよ。それに、龍と共に戦う時にはかなりの力になろうほどに。その時だけ、出して参れば良いではないか。その他は、いつもの主の剣を使うが良い。まあ、護りのような物よな。」
今は、太平の世。
龍と戦おうなど思った事もなく、確かに面倒など起こりそうもない。
何より維心は、これの弊害を明かしてから、使おうが使おまいがどちらでも良いと言っているのだ。
志心は、頷いてその剣を再び手に取った。
「…そうだの。主と敵対する危険があった昔なら、これは面倒な物であったろう。だが、今は違う。何かの折に、出して使わせてもらおう。」
維心は、頷いた。
「そうせよ。こやつも使ってもろうた方が喜ぶだろう。使わずとも、頻繁に出して愛ででくれる存在は有り難いだろうしな。」
志心は頷いて、両方を手に取ってみた。
それは嬉しげな明るい気を放ち、まるで志心を歓迎しているようだった。




