問題
維心達は、碧黎からの情報で、真っ先に一番遠くの国へ向かって飛んだ。
が、そこは遠く、魔力が尽きて来るので、結局途中途中で降りては食事をしなければならなかったので、通り道の国という国で神に出逢い、それらと話すことになった。
なので、やっと遠くの国へたどり着いた時には、現実世界では夜が明けて来ていた。
サイアが、言った。
「最後に出逢った神が、隣りに多くの神が居ると聞いているが、会ったことはない、と言っていましたね。ヘキレイ様が仰る通りだ。」
炎嘉は、頷いた。
「あやつが間違ったことを言うはずはないからの。とはいえ、巫女の女は何の役にも立たぬのに、連れて歩いて食わせて…途中で置いて来たら良かったわ。」
維心は、頷いた。
「誠に。他の国では巫女だの聖女だの知らぬし関係ないものな。とにかく、早う話をつけてアレクサンテリに巫女を返そう。この女の目的は、アレクサンテリなのだろう。」
皆が、頷く。
巫女のアリアは、見た目こそ美しいのだが性格に難ありの設定で、どこかに立ち寄る度に話す場面が強制的に出て来るのだが、いちいち皆の神経を逆撫でした。
最初は巫女様だからと庇うような言い方だったサイア達も、今では何も言わなくなっている。
そもそも巫女とは、いったいどんな選別方法で任されることになるのだろうか。
志心が、言った。
「主らの土地では、巫女とはどうやって選んでおるのだ?性格は関係ないのか。」
サイアは、首を傾げた。
「いえ…初代の巫女様から続く筋で、神に認められて聖女と称されます。聖女の能力は、無制限に放てる癒しの力と聞いておりますが、この巫女は全く我らを助けてはくれませんね。」
寝ていたはずの、焔の声が割り込んだ。
「…どうせ見た目で選んだのではないのか。だったらうちの翠明は聖女よ。」皆がそちらを見ると、焔は続けた。「して?どこまで進んだ。」
志心が、呆れたように言った。
「何を偉そうに。寝ておる間に我らがどれだけ大変だったか。」
焔は、伸びをした。
「知らぬ間に寝ておった。何やら見知らぬ地に着いておるな。地図は?新たな場所が開いたのか。」
サイアからコントローラを受け取り、焔は欠伸をした。
炎嘉が、むっつりと言った。
「教えてやらぬ。勝手に察して行け。」と、維心を見た。「維心、早うシアンとアレクサンテリに会おう。先に進まねば。」
維心は頷いて、疲れ切っている翠明や駿、仁弥を後目に、目の前の城の中へと入って行ったのだった。
その頃、碧黎が見つめる次元の扉の向こうでは、シアンとアレクサンテリが土地を見回り、話し合っていた。
そして、土地の気がシアンの土地より少ないが、それでも人を養うなら問題ないのは分かった。
シアンの土地のように多くの神を養うには足りないが、人なら難なくやれるだろう。
問題なのは、アレクサンテリただ一人でその土地の気を吸い上げて振り分けることに、限界が来ているだけで、気自体は行き場を失ってあちこちに漂っているだけなのだ。
シアンは、言った。
「…これなら問題ない。人は多いが、養うための気は問題なくある。ならば我が、こちらへ臣下を貸し出そう。それらにやらせたら、ここは落ち着こうぞ。とはいえ、人々が我らの土地より気が多く、まるで神よ。力の小さな神が、あちこちしておる感覚かの。」
アレクサンテリは、驚いた。
「誠か。我はその昔よりこれらに囲まれておるゆえ…人はこんなものだと思うておった。」
シアンは、言った。
「主らの過去に何かあるのやもな。術が使える人など、あちらには居らぬ。これなら少し気の多めな人を見繕って神殿に召し上げて、それらにやり方を教えて主の仕事を手伝わせてはどうか?聖堂には、仕える人が居るのだろう。」
アレクサンテリは、頷いた。
「確かに居るが…」と、遠い目をした。「…言われてみたら、昔は多くが側に居て、何やら手伝ってくれておったような記憶が。そもそもが、我が目覚めてこの方、神のやるべきことを教えてくれたのは、聖女と呼ばれる女だった。昔は聖女が母ように思うておったもの。今は…聖女が一人。ただ居るだけで、特に何もしておらぬ。何故にそうなったのだったかの。」
シアンは、言った。
「己をもっと知らねばならぬわ。その昔、果たして何故に主がここに一柱なのか。あちこちに散る一柱ずつの神達も、何故にそうなのか。」
アレクサンテリは、シアンを見た。
「そうだ、そうだの。昔のことだと放置しておったが、そういえばその頃の人々は、何かを石に刻んで聖堂の地下に残しておったわ。」
シアンは、頷いた。
「それを調べよう。」と、足元をキョロキョロと見た。「どこの聖堂ぞ。あちこちあるが。」
アレクサンテリは、足をそちらへ向けた。
「あの、山脈の。」と、飛び始めた。「最初に我が目覚めた場所ぞ。今はこちらに大きな街ができてそちらへより大きな聖堂を建てたので、人も居らぬし荒れ果てておるが、あの場所が一番落ち着くのよ。」
シアンは、アレクサンテリについて飛んだ。
「参ろう。己を知らねば解決などできぬわ。」
そうして、二人は山脈の聖堂の方へと飛んで行った。
碧黎は息をついて、他の場所へも目を向けたのだった。
碧黎は、ふと視線をクリステアの聖堂へと向けた。
そこには、聖女と聞いているアリアと共に、見たことのある顔の男達が居た。
…もしや?
碧黎は、己の分身が見ているゲーム画面を見た。
画面には、サイア、ライラ、メイアの名の下に、ラキア、シオン、メアとあって、その残りの三人の姿が、どう見ても今、アリアと共にクリステアの聖堂にいる、三人の男に似ていたのだ。
…あれは仲間か。
碧黎は、耳を澄ませた。
「…我が神に、会わせてくださいませ。」
アリアが、クリステアに談判している。
クリステアは、困惑した顔をした。
「我が神とは、アレクサンテリですか?アレクサンテリは、他の神に相談するとこちらを出て参りましたよ。我と共に何とかしようという話になっておったのですが、ヘキレイがあちらに多くの神が居ると申して…連れて行きました。」
しかしアリアは、聞かなかった。
「そのようなことを申して、隠されておるのではないですか!我が神をお返しください!」
クリステアが困っていると、後ろから男の一人が言った。
「巫女様、落ち着いてください。」と、クリステアを見上げた。「女神様、私はラキア。私達の土地の荒廃を、神になんとかして頂こうと旅をしておるものです。アレクサンテリとは、我らの神の御名でしょうか。」
クリステアは、頷いた。
「はい。主らが隣りの国より参ったのならそうです。アレクサンテリは、土地の荒廃を何とかしようと奔走しております。主らにできるのは、待つことです。アレクサンテリは、必ず主らの土地に戻るでしょう。それを待つのですよ。」
待つ…。
我が神は、土地の荒廃を憂いてあちこちに飛んでくださっているのだ。
「ならば巫女様、帰ってお待ちしましょう。このままでは女神様にご迷惑を。それは本意ではありませぬ。我らがご迷惑を掛けたとなれば、アレクサンテリ様のお顔にも泥を塗ることになります。」
しかし、アリアは聞かなかった。
「ならば、主らで戻れば良いではないですか。私はここに残ります。」
ラキア達もだが、クリステアも驚いた顔をした。
「え、ここに?」
クリステアは言う。
メアが、言った。
「そのような。クリステア様は我らの神ではないのですよ。共に戻りましょう。」
アリアは、しかし断固として首を縦に振らなかった。
「私はここで神を待ちます。主らは戻りたいなら戻りなさい。帰りの船は、私が居なくても乗せてくれるでしょう。こちらへ私を送り届けたのだと言えば良いのですから。とにかく私は、ここから動きません。」
ラキア達は顔を見合わせた。
ここまで僅かな間、共に旅しただけだが、この聖女が頑固な性質なのはもう知っている。
ラキア達は、仕方なく、来た道を引き返して行ったのだった。
碧黎は、息をついた。
いろいろ何とかなりそうな雰囲気だったが、あの女が面倒なのではないか。
碧黎は、思った。
詠み人はこちらの世を詠んでいるだけだが、それを人の開発者が採用してゲームにまでしたということは、何事もすんなり行かない筋であるはずだ。
あまりに簡単に問題が解決してしまうと、お話にならないからだ。
神サイドでは上手く行きそうなことも、もしや人サイドから妨害が入るとかなのではないのか…?
碧黎は、案じながらもまた、アレクサンテリ達に目を移した。
分身の目は、維心達の進む先を見つめていた。




