進捗
王達は、今度は地図上に多く現れた、土地を目指して進んでいた。
アリアと共に渡った大陸には、クリステアという女神が居る大聖堂があって、そこで女神と話すことができた。
驚いたことに、こちらの人々は皆、その女神のことが見えないようだった。
しかし、サイア達にはハッキリ見えていて、難なく話ができた。
クリステアが言うには、探している神の名はアレクサンテリというらしい。
アレクサンテリは、他の場所にも神が居るらしいという情報をクリステアから聞き、そちらへ話をしに出て行ったらしい。
どこまでも神に会えないのに皆、萎えて来ていたが、クリステアはなんと、移動手段を与えてくれた。
こちらの人には使えないものらしいが、サイア達なら使えるらしい。
人の足ではつらいだろうと、それは神具の一つである空を駆けるという乗り物だった。
それを使えば地図上の次の場所までひとっ飛びだった。
街道を苦労して進む必要がなくなり、ゲームのシステムに感謝した。
が、それを使うと術を使うための力のゲージが著しく減るので、それを回復させるために街で食べ物を補充せねばならず、そこは面倒だった。
とはいえコツコツ歩くことを思えば、格段に楽だ。
サイアは、コントローラを手に言った。
「そういえば、外国人は術を使えないと聞いています。」皆がサイアを見る。サイアは続けた。「遠いので、行商人の一部から伝わる事しか我らは知りませんが、我らの土地の人々だけ、魔法を使うことができるのです。だから、神具を使うこともできるのではないでしょうか。」
維心は、考えた。
他の国の人々は術を使えない、しかし繁栄している…。
「…なんとのう、分かって参った気がする。」炎嘉が振り返ると、維心は続けた。「もしかしてサイア達の土地は、術に消費する気の量が多くて、命を繋ぐための気の量が足りぬようになっておるのでは。術の使えない土地は、普通にやっておるではないか。」
言われてみたらそうだ。
炎嘉は、言った。
「確かにの。」と、サイアを見た。「サイア、主ら術を使う時、気を消費しておるな?つまりは、腹が減るのではないのか。」
サイアは、頷いた。
「はい、確かに。多く使い過ぎると、空腹で倒れそうになります。」と、ハッとしてゲージを指した。「もしかしたら、あの表示が力の?」
炎嘉は、頷いた。
「そうよ。あれが無くなると、何か食わねば術を放てぬようになろう。食物から気を補充しておるのだ。だが…そうなると根本的な解決は難しいな。主らの神のアレクサンテリは、もしかしたら誰かと交渉して気を確保しようとしておるのでは。」
志心が言う。
「だとしたらどこも難しいのでは。他所の民を養うために、己の民を犠牲にはできぬし。やはりこうなると、アレクサンテリの土地では術の禁止令とか出して、何とかするよりないのでは。」
とはいえ、ここで結論を出したところで、ゲーム上ではなるようにしかならない。
サイアは、コントローラを握った。
「とにかく先を。解決方法を探したいです。」
サイアが何故にコントローラを握っているのかと言うと、焔が寝落ちしたからだ。
前の畳で大の字になって眠っているので、仕方なくサイアが代わっている。
ちなみに渡と漸も眠ってしまい、ライラとメイアもコントローラを握りしめている。
蒼も限界だと寝入っているので、メインコントローラは維心の手にあって、維心は二つのコントローラを前に、必要なことを入力する任を得ていた。
「…では進むぞ。次はこちらの神よ。」
維心が言い、皆は新しい街の中へと足を踏み入れた。
その時、碧黎が何の前触れもなく、パッと目の前に現れた。
皆が仰天して、碧黎を見つめた。
夜半、維月はハッと目を開いた。
…お父様がお帰りになった。
維月は、起き上がった。
両隣りでは、多香子と綾がスヤスヤと眠っている。
維月は、起こさないようにそっと褥を抜け出すと、袿を羽織って急いで碧黎の気配を探って宮の中を飛んで行った。
碧黎の気配は、思った通り次元の扉の間にあった。
維月がそこへ入って行くと、碧黎は扉の向こうを凝視して、じっと耳を澄ませているようだった。
「お父様。」
維月が声を掛けると、碧黎は振り返った。
「…維月。どうした、正月の宴会は?」
維月は、苦笑した。
「もう夜も更けておりますわ、お父様。突然に意識を感じられなくなって、どれほどに案じましたことか。」
碧黎は、眉を上げた。
「…そうか、入ってすぐの時に戻ったつもりであったが、やはり数時間はズレがあるのだの。」と、維月の手を握った。「すまなんだの、維月。何も言わずに行って、主が案じるのは分かっておったのに。すぐに戻るゆえ問題ないと思うたのだ。十六夜が見ておるゆえ、あやつに任せておいたら主にも伝わるだろうと。」
維月は、頷いた。
「はい、十六夜から聞きました。なので戻ったのを気取って、こうして参りましたの。」と、碧黎が見ている、次元の扉を見た。「あら。何やら見覚えのあるような景色ですこと。」
王達が遊んでいる、画面の映像そのものなのだ。
碧黎は、頷いた。
「そう。確かに詠み人は、詳細にあちらの様子を読んでおるようよ。とはいえ、あちらも面倒があって、荒廃しておってな。とてもではないがあのまま放置もできぬで…迷い人を荒れた土地に返すこともできぬし。あちらの神の手助けをしておった。」と、遠い目をした。「…今、我の分身を維心達の所へ送った。あやつらの様子も見ておかねばならぬ。あのゲームとやら、間違いなく詠み人が作ったものだろう。どのように進んでおるのか、知っておかねばならぬ。もしかしたら、向こうの助けになるやもだしな。」
維月は、頷いた。
「はい。私も、詳しく知りたい心地でありますが…妃の皆様と共でありますので。戻って、務めの後にでもお話を聞きとうございます。」
碧黎は、頷いた。
「そうせよ。こちらは我がやっておく。案じるでない。」
維月は安心して頷いて、碧黎のもとを離れて、妃達が眠る部屋へと戻って行ったのだった。
炎嘉が、言った。
「碧黎!主な、いつなり突然出てきおってからに!驚くではないか!」
碧黎は、フンと鼻を鳴らした。
「面倒を我に丸投げして遊んでおるからよ。して?どうよ、進んだか?」
サイア達は、固まっている。
維心が、答えた。
「…あの地の神はアレクサンテリと申すのだと分かった。隣りの国の女神の所に行ったと巫女の女が申すゆえ、それを連れてそのクリステアという女神に会い、他の国にも神は居ると聞いたアレクサンテリがそちらへ向かったらしいので、我らはそれを追ってまた次の国へと渡ろうとしておるところ。ちなみにこれは、やはり別の次元の話で間違いないか。」
碧黎は、頷いた。
「間違いないの。というか、その神には名がなくてな。アレクサンテリという名は、我が適当に付けたものよ。ということは、これは流れか…先に名を読んでいたということであるからな。」と、考え込む顔をした。「面白い。次元が変わると時系列がめちゃくちゃになるゆえ、あれこれ見えて来るの。」
炎嘉が、言った。
「面白がっておる場合か。我らはサイアに先を見せるためにやっておる。ただ遊んでおるのではないぞ。このまま進めたら良いか?いきなりようけ国が出て参ってな。どこから行けば良い。主なら知っておろう。」
碧黎は、息をついた。
「遊んでおるのだろうが。まあ、我が知っておるのは、その裏側。一番遠くに配置されておる国に、シアンという王が治める神の土地がある。そこには多くの神がおり、ここのようにシアンを筆頭に様々な神が豊かに暮らしておるわ。そこへアレクサンテリを連れて行き、話をつけさせた。今はシアンと共に己の土地を見回って、気の枯渇の原因を探っておる。ちなみにシアンは炎嘉ぐらいの気があった。アレクサンテリは駿ぐらい。地はこちらと同じく丸い球体だが、こちらよりは遥かに小さい。土地の神ですら、己の土地を出たことがないゆえ、地が球とは知らぬでいた。」
ということは、碧黎は結構あちらに干渉している。
「…主、あちらに干渉しておるな。大丈夫なのか?」
維心が言う。
碧黎は、頷いた。
「我とてマズいかと思うて、詠み人が読んでおった先を見に参ったのよ。そうしたら、明らかにアレクサンテリは我の干渉によって変わっている、その未来があった。つまりは、我の干渉は決められたことで、サイア達がこちらへ飛ばされたのもまた決められたことなのだろう。ならば心置きなく干渉できると、今思うたところよ。」
そうなるのか…?
維心が、言った。
「ややこしい。もしかしたら主が干渉したからそれが未来になり、詠み人がこれを詠むことになったのやも知れぬではないか?次元が変わると時も変わるゆえの。」
碧黎は、息をついた。
「確かにそうだが、悪いようにはならぬだろうて。ちなみにこれは我の分身で、本体は次元の扉の中を見ておる。あちらは動き始めたようぞ。主らもさっさと先を見て行けばどうか?」
「主が邪魔したのではないか。」
炎嘉が呟き、維心がコントローラを握る手に力を入れた。
「行こう。夜も更けたし、早うせねば正月中に終わらぬやも知れぬぞ。」
そうかも知れない。
前のゲームの時を思い出し、皆は急いで画面に向き合ったのだった。




