その王
碧黎は、待てと言われたのでとにかく待った。
すると、去った神が、まだ警戒しながらこちらへと飛んで来た。
「…王が面会されると申される。案内する。こちらへ。」
…なるほど、中へ通すか。その王は、愚かではないようよ。
碧黎は、頷いた。
「ならば参ろう。」
そして、その神について、建物へと降りて行く。
後ろからは、これまで碧黎を遠巻きに取り巻いていた、神達がぞろぞろとついて来ている。
碧黎は、お構い無しに建物へと降りて行った。
中は、どうやら碧黎の地の北の大陸の城のような形だった。
広い謁見の間のような場所へと到着すると、両脇にズラリと多くの神が立ち並ぶ中、正面の玉座に、黒髪の男が座ってこちらを見ていた。
なかなかの気の大きさで、恐らくは炎嘉くらいにはあるのではないだろうか。
アレクサンテリが駿ぐらいの気の量なので、この地では結構な力を持つ神なのだと分かる。
碧黎がその神の前まで進み出ると、その神は言った。
「我はシアン。主は別の次元から来たヘキレイとか申す神か。」
碧黎は、頷いた。
「まあ神と申すか、地そのものの精霊と言った方が主らには理解ができるかの。」
シアンは、眉を寄せた。
「精霊には、そんなに力はないわ。我の結界すらまるで無いように入って来おって。こちらが断れぬのを知っておるのだろう。して?話とは何ぞ。」
碧黎は、頷いた。
「主はここの神を統べておるのだの。我はここより南の神が、たった一柱で必死に地を守って難儀しておるのを知って、とりあえず何とかできぬかと力になる神を探しておる。あちらの地は荒れて、人は死に逝きその神は自暴自棄になっておってな。」
シアンは、答えた。
「あちらにも土地があるのは知っておる。が、我は昔からここらを世話して来ておるので、ここを出たことはないのだ。出ておる間に何かあってはならぬと、臣下達がうるそう申すゆえな。なので、そちらで何があっても、我には関係のないことよ。主とて、別の次元から来たのなら、こちらのことには責任はあるまい。何故にそんな神のために立ち働いておるのよ。」
碧黎は、ため息をついた。
「我とてこんなことはしとうないわ。だが、あちらの神…アレクサンテリというのだが、そやつの管轄の命が、我の次元へ迷い込んで来ておってな。それをこちらに返すため、交渉に参った。そうしたら、荒れ果てて大変な様で、とてもではないがうちの迷い人達を、あんな場所には返せぬと思うて。死ぬのは目に見えておる。寝覚めが悪いではないか。」
シアンは、息をついた。
「それで。主が世話好きなのは分かった。さっさとこちらへ帰して構い存ぜぬで済むのに、そやつらのためにあちこちしておるのだろう。我にどうせよと申す。何を頼まれても、主に言われたら我には断ることはできぬ。主、その気になれば皆塵だとそこの軍神に申したらしいの。それが事実であるのが分かるゆえ、我は主に従うよりない。」
碧黎は、答えた。
「主に申すが、我はこちらの神を、いや人も、塵にするつもりなど毛頭ないわ。ならばこちらに着いた時にさっさとやっておる。なので脅すつもりなどないが、アレクサンテリを助けてやって欲しいのだ。ここにはかなりの数の神が居る。が、あちらには一柱ずつ、ポツンポツンと居るだけぞ。アレクサンテリもその一人。己がこの地で全くの一柱の神だと思うて生きて来たらしい。ゆえ、人が増え過ぎて己の与える気では賄えず、諦めて引っ込んでおって、地上が荒廃してしもうておる。アレクサンテリという名すら、我がさっき付けた名ぞ。哀れに思わぬか。」
シアンは、驚いた顔をした。
「何と申した?たった一柱と?」
碧黎は、頷いた。
「その通りよ。あちらの人は気を使って術を放つので、その分多くの気を消費する。ゆえに、あやつは消滅の危機に瀕してしもうてな。何もかも嫌になって、山奥に引きこもっておったのを、我が見つけ出したのだ。」
臣下の一人が、言った。
「…王、聞けば何やらご不憫なご様子。一度そのアレクサンテリ様のお話を聞いてみても良いのでは。」
シアンは、頷いた。
「そうだの。我であってもたった一柱では、確かに自暴自棄にもなろうかと。とはいえ、そのアレクサンテリに、こちらへ来るように申せるか。それとも気を失っておって無理か。」
碧黎は、答えた。
「無理であろうな。来られるのならとっくに嘆願に自ら参っておったろう。我としては主にこの件を丸投げしてもう帰りたい心地であるが、さりとて放置もできぬ心地よ。仕方がない、我が連れて参るゆえ。話を聞いて、助けてやろうと思うのならば、後は主らで何とかせよ。この地は丸く、球のような形であり、アレクサンテリの地は主らの地の裏側にある。ここより北であろうが南であろうが、真っ直ぐに参るとそこに着く。この球の上で、神が密集しておるのはここのみ。他は皆、アレクサンテリのように個々にたった一柱で、その土地を守って生きておる。ゆえに範囲は狭い。それを念頭に、この球の上を滞りなく見てやるが良い。我が見たところ、その中で一番気の量が多く、あちらへ出掛けて問題ないのは、主だけよ。シアン、主がこの球を統括して、何とかするよりない。」
まあ、維心でも無理なのに、炎嘉ほどの気の量のシアンに、それは面倒この上ないことだろうがの。
碧黎は思った。
シアンは、顔をしかめた。
「また壮大な話よ。あちらにも神が居ると、今聞いたばかりなのにの。」と、息をついた。「まあ良い、考えておく。とにかくアレクサンテリをここへ。話を聞こうぞ。」
碧黎は頷いて、そうして急いでまた、クリステアの大聖堂へと向かったのだった。
その頃焔は、息をついた。
「…して?この女を連れていれば、隣りの国とやらに渡る船に乗れるのだろうの。」
画面上では、一度街道を抜けて港町へと辿り着いたが、そこで特別な立場の者でなければ、国を渡る許可は降りないと言われてしまい、仕方なく戻って来て、巫女を説得することになった。
巫女なら特別な立場だろうし、他にそんな人には心当たりがない。
そして、また巫女に会うと、あれだけ同じ事しか言わなかった女が、神が居なくなったとオロオロしていたのだ。
どうやら、神は他にも神が居る気配がすると、そちらへ向かったようだった。
巫女は、アリアという名で、神のもとに行きたいというので、サイア達に護衛としてついて来るなら船に乗せると言ったのだ。
巫女の身分ならば、問題なく国を渡れるらしい。
巫女というお荷物を庇いながら、また街道を港町へと進みながら、焔は悶々としていた。
「神も、やる気になるならさっさと隣りの神に会いに行ってくれていたら良かったのよ。そうしたら、会った時にはすんなりこの女もついて来たろうに。」
漸がいう。
炎嘉が、息をついた。
「そうなっておるのだから仕方がない。とにかく、隣りの国へ行って、その神と隣りの神と話をせねば。話の分かる奴らなら良いがの。」
志心が、息をついた。
「行ったり来たり。こうなって来るとあちこちに神が居ってもおかしくはない。こやつらはずっと歩いて旅をするのか?それは面倒この上ないな。」
確かに、もう一人居たということは、もっと居ると考えた方がいい。
炎嘉は、息をついてサイア達を見た。
「主らも難儀なことをしておるな。帰ってからあちこち、これは大変であるぞ。山賊に襲われたのはまだ序盤なのよ。そこでこんなことになっておったら先々が危ぶまれるの。」
サイアは、舌を向いた。
「は…。確かにこうして安全な場所より試演できておるのとは違い、実際にあちらに居ればかなりの重労働。肝に銘じて帰ってからは励むように覚悟しておきます。」
仲間達は、大丈夫だろうか。
サイアは、急に残して来た仲間が心配になった。
自分達抜きで進んでいたら、街道に出る大型の見たこともない魔物相手に、苦戦しているだろう。
もしかしたら、もう倒れているかもしれない。
そう思うと落ち着かず、早く帰りたいと気ばかりが焦って来てどうしようもなかったのだった。




