隣りの大陸
碧黎は、アレクサンテリと共に北西の方へと飛んだ。
何しろ気が少なくなっていたので、アレクサンテリはそんなに遠くまで飛ぶ気力がない。
なので、碧黎はアレクサンテリを気で掴んで進んでいた。
探りながら飛んでいると、アレクサンテリの治めていた大陸の隣り、確かに海を隔てた場所に、また違う大陸があった。
そちらはアレクサンテリの方よりいくらか小さめで、街は活気があり、人も多く行き交っていた。
街の真ん中に大聖堂らしき建物があり、その辺りに神の気配がする。
碧黎は、言った。
「…あの中よ。」と、上空から指差した。「感じ取れるか?」
アレクサンテリは、興奮気味に何度も頷いた。
「ここまで来たら分かる!確かに神の気配がする…が、ここの人々は、我らがこんな所に浮いておるのに、全く気付いておらぬな。あちらでは、外に出たら見咎められるゆえ、面倒であまり出なくなっておった。」
碧黎は、人々を見下ろした。
「…確かに。こちらの人々は、あちらとは性質が違う。道具を使っておるだろう…恐らく、魔法とか申すものが使えぬのだ。ゆえに気が消費されることもなく、ここの神はいくらか少なめの気で人々を賄えておるのだろう。」
アレクサンテリは、顔をしかめた。
「…確かに。あちらでは魔物を倒すのでも気力を使うゆえ、我には全てを供給しきれずで。火を灯したり、そんなことにも魔物を使うので、気力が多く消費される。畑を耕すにも、気力が必要なのだ。」
そうか、他に方法があるのなら、道具というものを作り出す必要がないものな。
碧黎は、思った。
すると、下から声がした。
《…主らは、なにか?》その声は、落ち着いた女声だった。《どこから参った?まさか、神か?》
アレクサンテリは、答えた。
「我は神。あちらの土地を世話するアレクサンテリと申す。これは別の次元の地の精霊なのだと聞いている、ヘキレイぞ。主は、こちらの神か?」
すると、大聖堂からそれは美しい、銀色の髪に金色の瞳の、女がスーッと浮いて出て来た。
「ああ、他にも神が居ったのですね。我はクリステア。人はそう呼んで我を崇めるが、見える人はほんの一握りで。嬉しいこと、訪ねてくれたのですね。」
アレクサンテリは、クリステアに近付いてその手を握った。
「他にも神が居ったとは。我は、ずっとただ一人と思うて…絶望していたのだ。クリステア、話を聞いて欲しい。」
クリステアは、頷いた。
「なんなりと。他の命と話すのは、誠に久しぶりのことで…最後の巫女が死んでから、話し相手も居らずに寂しく思うておりました。」と、碧黎を見た。「主も。驚くほどに大きな気でありますね。別の次元など、想像もできませぬ。」
碧黎は、息をついた。
「やっと他の神の存在を認識したばかりの主らにはそうだろうの。とはいえ、我にはこちらは別の次元のことで、あまり深くは関われぬ。とにかく、アレクサンテリと話して、問題解決の糸口を見つけよ。その間に、別の神も探して参るわ。あちこち話をつけて来てやるゆえ、主らはアレクサンテリの所の問題の話し合いをせよ。」
クリステアは、首を傾げた。
「問題?何かありましたか。」
アレクサンテリは、頷いた。
「クリステア、聞いて欲しい。我は行き詰まっておるのだ。」
クリステアは頷いて、そうして二人は大聖堂の中へと降りて行った。
碧黎は息をついて、また大陸を遠く探って他の神を探して、飛んで行ったのだった。
その頃維月達は、月も傾いて来ていたので、褥へと滑り込み、皆で横になりながら話していた。
恵鈴は、もう寝息を立てている。
維月の両隣りには、綾と多香子が居た。
先程まで言葉を返して来ていた明日香も紅蘭も、もう返答かなくなっているところをみると、寝入ったのだろう。
多香子が言った。
「…皆、寝静まったか。維月よ、思い出すの。こうして主と休むのは、我がここに輿入れ前に行儀見習いに来ておった時以来よ。」
維月は、頷いた。
「覚えておってよ、多香子。あの後攫われたり、大変だったわね。今にして思えば、あの時はとても楽しかったわ。」
多香子は、頷く。
「そうだの。お互いの責務も忘れて、時を忘れて話したもの。懐かしい。」
綾が、言った。
「我も前世にこうして共に休ませて戴いて。覚えておりますわ。我はあの時、誠に友ができたのだと、己の幸福に身悶えしたい心地でした。今も、こうして共に居られる幸福を思います。」
隣りの部屋から、王達の叫び声が聴こえて来る。
維月は、苦笑した。
「平和でありますこと。こうしてゲームなどに興じておられるのも、我らが褥で話しておられるのも、王達が作り上げた太平の世であるからこそ。感謝したい心地です。」
綾は、頷いた。
「はい。それにしても焔様には、また瀕死になられたのかしら。我が王がひたすらに皆を蘇らせていたのを、誇らしく見ておりました。今も同じなのでしょうね。」
翠明は、己の立ち位置をよく分かっている。
維月は、頷いた。
「翠明様にも、昔は破天荒な所がお有りでしたけれど、歳を経て落ち着いておられて。綾様のお陰でもあるのかしら。」
綾は、フフと笑った。
「まあ、確かに。お若い頃はあちこちして気を揉んでいらっしゃいましたけれど、今は落ち着いて政務に励んでいらっしゃいます。奥は我がおさめておるので、安心できると申されていましたわね。」
いろいろあった。
維月は、思って窓から見える月を見た。
…お父様は、どうなさっておるのかしら。
次元を越えたら、時など関係なく行き来できるので、碧黎のことだから、あちらで数ヶ月経っていても、こちらでは数時間の位置に戻って来るのだろう。
そして、何事もなかったかのように、もう終わったと皆に結果だけ報告するのだ。
恐らくいろいろ苦労して来ただろうにも関わらず…。
「…そろそろ、休みましょう。」維月は、二人に言った。「王達は夜通し遊ばれるのでしょうから。」
二人は、維月の両隣りで頷いた。
そうして目を閉じて、維月は起きたら父の気配があればいいな、と思って眠りについたのだった。
碧黎は、アレクサンテリをクリステアの大聖堂に残して、他の神を探して大陸を渡った。
結果、あちこち結構な数の神が点在しているのが分かった。
特に大陸の裏側、南からも北からも行ける場所に、また大陸があるのが分かったのだが、そこには多くの神が居た。
ちょうど、島の神のように大陸のあちこちに拠点を作り、そこで多くの神達と共に、地上を世話して生きていたのだ。
碧黎は、一際大きな神の集合地へと、足を向けた。
そこは、神の宮のように、一つの大きな建物を囲んで、他の神の住処が建てられてある場所だった。
人々は、それを認識していない。
が、大聖堂のようなものはあり、人々がそこに祈りに来るのを、神の数人が見に来ているような、そんな場所だった。
つまりは、まんま碧黎の地と同じ有様だった。
碧黎が降りて行くと、武装している神達がわらわらと寄って来た。
が、気の大きさに恐れをなして側まで寄っては来られず、遠巻きにして取り囲んで、言った。
「…主は何ぞ?!ここは我らが王、シアン様の結界内ぞ!何故に事も無げに入って参る!」
…そうか、結界があったか。
碧黎は、いつなり結界には弾かれることがないので、意識していなかったので、言われて気が付いた。
なので、答えた。
「すまぬの、気が付かなんだ。我には結界などあってないようなものであるしな。それより、そのシアンという神と話したいのだ。我は別の次元から来た、碧黎と申す。敵対するつもりは全く無い。あったら今頃ここは塵ぞ。左様、シアンに伝えよ。」
話し掛けて来た神は、困惑した顔をした。
「…別の次元とな?聞いたこともない。」
碧黎は、息をついた。
「だろうな。良いからシアンに話したいと申せ。別にいきなりシアンの前に出ても良いのだぞ。それをこうして言っておるのに、待たせるでない。我はさっさと用を済ませて帰りたいのよ。待っておるものがおるゆえな。」
その神は、仕方なく踵を返した。
「…分かった。お伝えはする。そこで待て。」
そうして、他の神達をそこに残して、一人大きな建物の方へと降りて行った。
碧黎は、いつになったら帰れるのだと、ため息をついたのだった。




