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事情

碧黎は、だんまりな神をチラリと見てから、アリアを睨んで言った。

「…たかが数十年生きただけの人が、神の在り方に口を出したと申すか。」

アリアは、怯まず頷いた。

「確かに数十年ではありますが、私は幼い頃よりずっと神にお仕えしておりました。神の御業はお側でずっと見ておりました。あなた様こそ、今こちらへ来られたばかりでそのようなことを仰る。神のご努力を、ご存知ではないくせに。」

碧黎は、答えた。

「我らの存在意味は、地上の命が己の命を成長させるために学ぶのを、見守ることにあるのよ。我らに追い付いて来ることを助け、学びに関係のない災厄から守って育む義務がある。それを成せぬようになれば、神は死ぬ。地上に居る意味がないからだ。主は、その神を殺そうとしているのだぞ。つまりは、死ねと言うたことと同義よ。」

アリアは、驚いた顔をした。

「そのような…!あのままでは、神ご自身が消えてしまわれると、守ろうと…!」と、神を見た。「そうでございますわね?」

神は、息をついた。

「…アリア、主にそんな心地がないのは分かっておった。が、我は、主の言うのを聞いて、それも良いと思うた。どのみちたった一柱では、もう地上は賄えぬ。ならば、最期にここ、始まりの地で消え失せるのも良いかと。我は、このままここに留まれば消える。その後どうなるのかは、我には分からぬがな。」

アリアは、目を見開いて口を押さえた。

「そんな…!こうしたら、消えると分かっておられて、我とここに…?!」

碧黎は、言った。

「…神よ。いや、主、名は?」

神は、首を振った。

「名などない。皆、神と呼ぶ。」

まあたった一人ならばそれで事足りたのだろうの。

碧黎は、首を傾げた。

「ならば、名を与えようぞ。そうだの…ここの名…。」碧黎は、維月もこんなふうに自分の名を付ける時、悩んでいたなと思った。「…アレクサンテリはどうか?あちらにもそんな名の神が居る。」

適当だが、とりあえず呼称ができるならそれでいい。

その神は、驚いた顔をした。

「アレクサンテリ…我の名か?」

碧黎は、頷いた。

「違う名が良ければ、己で考えよ。とにかく、我はそれで呼ぶ。神など、あちらには多く居て、呼称にするには似つかわしくない。神と呼んだら皆振り返るわ。アレクサンテリ、この世界は広い。主が守っていたこの土地には、確かに主より他に神は居らぬが、遠くあちら…この地の向こうに、別の土地が多くある。そちらに行ったことはないのか。」

アレクサンテリは、答えた。

「ない。この土地だけで、手一杯であったから。」

碧黎は、頷いた。

「ならば、共に参ろう。ここへ着いてから、我はあちこち気を探っておったが、ここらには神は全く気取れぬ。が、ここへ来て話しながらもっと広範囲に気を飛ばしてみると、あちこちに神の気配が点在しておるのが見える。神は主だけではない、この広い土地には、多くの神が主のようにその土地その土地を守って生きておるのだ。それらに会いに参ろうぞ。」

アレクサンテリは、目を輝かせた。

「誠か。誠に他にも神が?!」

そうか、神の気ではそこまで遠くを探るのは無理だものな。

碧黎は、頷いた。

「居る。それらと話すのだ。そして必要とあれば、それらと親交を深めて、共に地上を守って生きて行けるやも知れぬ。」碧黎は、アレクサンテリに手を差し出した。「さあ、共に。」

アレクサンテリは、その手を掴んだ。

しかし、アリアが叫んだ。

「お待ちを!」アレクサンテリは、アリアを見る。アリアは必死の形相で続けた。「こちらで私と共に暮らして行くと仰っていたのではありませぬか!他の神など…神は一柱だけなのです!」

アレクサンテリは、アリアを見つめた。

「我もそう思うておった。が、他にも同じ命が居るのだ。ならば我は、それらと共に生きる希望が出て参った。喜べ、アリア。我は主が望んだ我の幸福というものを探せるのだ。」

碧黎は、黙ってアレクサンテリの手を引いて浮き上がった。

アリアは、必死に追いすがるように走って来たが、浮いている相手にすがる手は空を切った。

「そんな…!神よ…!」碧黎とアレクサンテリの姿は、遠ざかって行く。「私無くして、幸福になれると仰るのですか…!」

その声は、もうアレクサンテリには届いていなかった。

二人の姿は、そのまま小さくなって、消えて行ったのだった。


その頃、応接間の一同は、困惑した顔をしていた。

焔は、むっつりとして言った。

「なんだ、あの女は。」皆が、焔を見る。焔は続けた。「何故に神に会わせぬとか申す。あちこち荒廃して、明らかにあの場所だけ豊かなのは、神が居るからだろう。皆が困っておるのは分かっておるのだろうに。西の街でも、我らが食料を分けていなければ、道端のあの子供は死んでおったやもしれぬのに。あのような者たちが、あちこちゴロゴロしておるのを知らぬわけでもあるまいに。ここは共に神を説得するべきだろうが。」

山脈へ来て、サイア達が言ったように山賊が出て来て、それを苦労して蹴散らしてやっとのことでここまで辿り付いたのだ。

二手に分かれた仲間達とも、この古い神殿前で合流できた。

それなのにやっと見つけた巫女は、中にも入れてくれずに門前払いだ。

何度話し掛けても、同じことを繰り返すばかりで、中へ進むことはできなかった。

仕方なく新たに開いた北西へのルートを辿っているが、文句も言いたくなるだろう。

「…とにかく、あの女は協力する気はない。となると、さっき寄った宿場町の商人が言っておった可能性に賭けるしかなかろう。そら、これまで一柱とか聞いておったが、北西にはまた違う信仰があって、女神を崇めておるとか。そっちへ行って、女神にうちの神を何とかしてくれと頼むしかなかろう。」

志心が言う。

サイアが、困惑した顔で言った。

「まさか巫女が…あのようなことを申されるとは。我らが無事に辿り着いていたら、同じことになっていたのだろうか。」

ライラも、メイアも困惑している。

炎嘉は言った。

「恐らくはの。これは、主らの世界をそのまま写し取った鏡のようなものだと思えば良い。つまりは、こうしたらこうなると、先に知れるのだ。もし主らの仲間が無事に辿り着いていたなら、恐らく同じように門前払いされておるだろう。つまりは、これからぞ。我らとこれを何とかして、道を開くための筋を模索して参れば、あちらへ帰ってからそう時は取らぬで問題を解決できるということよ。良かったではないか、先に知っておれば失敗もない。こちらで無駄にした時間を取り返せるぞ。」

三人は、それを聞いて頷き合った。

ライラが言った。

「…こちらの人の魔法に感謝して、先に安全な場所で道筋を知って帰りとうございます。」

しかし、維心は言った。

「とはいえ、全く同じ状況とも限らぬぞ。」皆が維心を見る。維心は続けた。「忘れておらぬか。あちらに碧黎が行っておる。あちらの神と、話しておるはずよ。巫女が阻止しようとしても、碧黎には関係ない。たかが人が碧黎を阻止できるはずはないからの。主らはとりあえず、何がどうなってこうなっておるのか、その原因を頭に入れて帰れば良い。そうしたら、違った状況でも対応はできる。仲間達がどうしておるのか案じられるが、恐らくどこぞで主らを探しておるのか、困って宿にでも滞在して情報を集めておるのか、どちらかだろう。仲間のためにも、早う攻略して原因を探ろう。」

サイア達三人は頷いて、そうして画面上で、北西へ向けて進んで行ったのだった。

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