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別の次元とは

蒼は、急いで維心達がいる応接間へと戻った。

画面上ではまだゲームが進められていて、脇の妃達が居る畳の方では、几帳に囲まれた中で、皆が楽しげに話しているのが、小さく聴こえて来ていた。

一応、王達の邪魔をしてはと考えて、声は抑えているのだろう。

しかし、一際大きめの声が、蒼を呼び止めた。

「蒼。」蒼は、足を止める。声は続けた。「隣りに休む場所を準備して欲しいと申しましたけど、どうかしら。」

維月の声だ。

蒼は、頷いた。

「ああ、侍女に言ってあるから、多分準備できてるんじゃないかな。もう移るの?まだ早くないか。」

維月は、言った。

「ここだと話すのも遠慮がちになるから。まだゲームも序盤だし、きっと以前のように通し掛かるでしょう。どうせなら女同士、楽しく話しながら休もうかなって。」

蒼は、頷いた。

「いいんじゃない?」と、維心に言った。「維心様、維月が隣りの部屋で他よ妃達と休むのに、移動すると。」

維心は、忙しなくコントローラを操作しながら、頷いた。

「そうか。維月、参るが良いぞ。隣りなら、用があれば侍女に申して呼ぶゆえ。まあ、恐らく今夜はこちらは忙しいだろうがの。」

渡も言った。

「ああ、もう皆で参るが良い。こちらは忙しい。好きにせよ。のう、駿よ。」

駿も、画面を凝視しながら頷いた。

「参るが良い。とにかく今は死ぬわけには行かぬから。」

他の王達も、画面に必死で頷くばかりだ。

維月は、ため息をついて立ち上がった。

「ならば、参りましょう。」

皆は、嬉々として頷く。

「蒼、恵鈴様がいらしたら、あちらにご案内させてね。」

蒼は、頷いた。

「任せて。」

そうして、維月達はぞろぞろとその部屋を出て行った。

蒼はそれを見送って、ホッと息を付く。

画面上では、戦闘が終わって次の街に到着していた。

炎嘉が、振り返った。

「やっと街道を抜けたわ。して、蒼。何かあったのか。」

蒼は、答えた。

「はい、あの、塔矢の所に世話になっていた神…いえ人?が居て。故郷に帰りたいが、塔矢では話が通じないので、聞き知ったここへ参ったようなのです。」

焔が、眉を寄せた。

「なんぞ、神なのか人なのか?塔矢に探せぬのなら、こちらへ来ても同じだろう。」

蒼は、困ったように顔をしかめた。

「それが…話を聞いてたら、どうもこの世界の者ではないみたいで。碧黎様に聞いてみたら、他の次元から迷い込んだ人達のようなんだ。神なのか人なのかって言ったら、人なんだけどこの世界の人とは違って、神が見えるし戦闘の技も魔法というのが使えるらしくてね。だから、塔矢も神と判断して、世話してたみたいなんだけど。」

志心が言う。

「ほう。それは、我らが今遊んでおるこのゲームの中のような世界から来たということであるな。」

蒼は、頷いた。

「はい。オレもそう思いました。」と、画面を見上げた。「別の次元には、こんな世界が…。」

ふと、蒼は皆のステータスが表示されてある、画面左端を見た。

維心を筆頭に、下へアイコンが並んでいて、その下に名前が書いてある。

その白いカタカナ文字を見て、蒼は固まった。

「え…?」

炎嘉が、蒼の視線の先を見て、言った。

「ああ、レベルか?街道で戦いまくって皆上げたのよ。維心も上がってしもうて、差は縮まっておらぬが。」

蒼は、首を振った。

「いえ、違うんです!名前ですよ、そのままにしてるんですよね?変更してませんよね?」

維心は、頷いた。

「面倒だからそのままにしておる。それが何か?」

蒼は、その名をガン見した。

上から、サイア、ライラ、メイア、ラキア、シオン、メア、兵士1と並んでいる。

「…まさか…。」

確か、あれらは一柱の神に仕える巫女を探して旅をしていた、と…。

「なんぞ?」炎嘉も眉を寄せる。「名が何か?」

蒼は、ハッと我に返って、言った。

「名前なんです!オレが今会って来た三人の名前が、サイア、ライラ、メイアというんです!たった一柱の神が統べる世界で、巫女を探して旅をしていたと…。」

「え?!」

全員が、画面を見つめる。

確かにこの世界では、神はたった一柱でそれに仕える巫女探しを、皆はしている。

維心が、言った。

「…もしやそれらはこのゲームの世界の者たちではないのか。」皆が、維心を怪訝な顔で見る。維心は続けた。「違う。このゲームは人が作ったのだろう。つまりは、内容も人が考えたものぞ。人には、詠み人が居るのではなかったか。それが、そうと知らずに書いた筋なのではないのか。」

言われてみたらそうだ。

「つまり、人の詠み人があやつらの世界を詠んで、それを己が考えたと思いながらこれを作ったのだと?しかし時系列はどうなる。これは完成しておって、結末までできておるが、それらはまだ旅の途中なのだろう。」

蒼が、言った。

「いや、次元が違うんですから、時は関係ありません!あちらではもう終わっているが、サイア達は旅の途中の時系列の時にこちらへ飛ばされて来たのかもしれない!大変だ、早く帰さないと、あっちで完結しませんよ!もう数カ月もこっちで足留めくってるんです!」

皆は、顔を見合わせた。

維心が、言った。

「…確かにそうなのか、それらをここへ呼べ。」維心は、コントローラを置いた。「この世界をそのまま知るなら、間違いなくそれらはこの世界から来たのだ。確認しようぞ。碧黎はどこに?」

蒼は、答えた。

「はい、早く返したいからと、次元の扉を使ってあちらの神に話を聞きに行ってます。あれらは、碧黎様の管轄外なので、碧黎様の気では養えないらしいのです。このままでは、皆命を落とすからと。」

また厄介な。

皆が顔をしかめる中、蒼は三人をここへ呼べと、侍女に指示を出した。

碧黎が早く戻ってくれたら良いのにと、蒼は思っていた。


その頃、何も知らない維月達妃は、隣りの部屋で、重い袿を取り払い、中の襦袢だけになって、それぞれの褥の上に座って、楽しく歓談していた。

「こんな姿で皆様と過ごすなんて。」明日香は、フフと笑った。「全く初めてのことですわ。常何やら堅苦しい様でいて、幼い頃に姉と過ごした時のことを思い出します。思えば、あの頃は何の憂いもなかったなあと…何やら懐かしいですわ。」

紅蘭も、言った。

「誠に…歳を経ると、様々柵に囚われて、開放的になれずにいましたことを、思い出しました。誠の友とは、このように過ごしてこそなのかも知れませぬ。」

維月は、頷いた。

「本当に。」と、そこへ、多香子と恵鈴が入って来た。「あら、多香子様、恵鈴様。どうぞ、そちらの褥がお二人の物ですわ。」

多香子が、かっちりと宴用の着物を着ていたのに、驚いて皆を見回した。

「まあ、いったい何としたこと。休むのでこちらへと聞いて、信じられませんでしたが誠にそうでしたのね。」

恵鈴も、綺麗に着付けられてそこに立って戸惑っている。

紅蘭が、言った。

「恵鈴様、さあお手伝いを。王達は皆、お遊びに夢中であられるのです。我らはこちらで、休むまで気兼ねなくお話をと維月様が準備させてくださいましたの。こちらへ。」

恵鈴は頷いて、畳の上に上ってくる。

維月も、多香子を促した。

「さあ、多香子様も。朝までご一緒出来るなど、なかなかありませんわよ?こちらへ。」

多香子も頷いて、そうして着物を脱ぎに掛かる。

明日香が、言った。

「恵鈴様には、お気持ちも落ち着かれましたか?ここなら気兼ねなく、何でもお話くださって良いのですよ。我らしか居りませぬし。」

恵鈴は、答えた。

「はい。あの…我は、七槻と話しましたの。」

「え。」

明日香は、固まる。

…まさか、好意を伝えたとかでは。

皆が一気に緊張する中、紅蘭に手伝われて着物を取り払った恵鈴は、自分の褥の上に座った。

「ようやってくれたと。これよりは己で考えて、自分で出来るように腹を括ると申しました。皆様…我は、己の務めを思い出しましたの。ご心配を掛けてしまって、申し訳ありませぬ。」

つまりは、七槻への想いを断ち切ったのだ。

維月は、恵鈴の手を握った。

「…よう悟られましたね、恵鈴様。臣下と皇女ならば問題ないことも、臣下と妃となると途端に面倒になるのが世の常ですわ。そのことに気付かれて、妃らしゅうお話しになったこと、ご立派であると思いますよ。とはいえ、まだ正式に妃ではあられないのですし…ゆっくりと、心の中で折り合いをつけて行かれたらと思います。」

恵鈴は、頷いた。

「はい。」と、涙ぐんだ。「…ですが、今はまだ…。お話を聞いてくださいますか。今夜限りでもう、こんな話は致しませぬ。七槻は、我のことなど王の妃以上には思うてはおりませなんだ。それを、話の中に悟って…。ゆえに、正気に戻りましたの。ならばせめて、七槻にとって仕えるにたる賢く良い妃であるように、と…。」

維月は、涙をこぼす恵鈴の背を、優しく撫でた。

「全て吐き出しておしまいになるとよろしいのです。我らがついております。今夜は、好きなだけ御心の内を聞かせてくださいませ。」

他の妃達も、頷く。

そうして、妃達は恵鈴を囲んで、話を聞いて過ごしたのだった。

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