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気になる何か

「あー!」焔が、叫んだ。「だから西にしようと申したではないか!西で聖杯を見かけたとか言うておる!」

画面上では、話を聞きに立ち寄った旅籠の、主人がこちらを向いて立っていて、それを信じられない数の、色とりどりの甲冑を身に着けた者たちが囲んでいる、というあり得ない状態を映していた。

今、主人が聖女の居場所は知らないが、西の礼拝堂に、大聖堂にあるはずの聖杯が、何故かあったと証言したのを皆で聞いたところだ。

その文言が、画面の下にテキストとして表示されている。

炎嘉が、言った。

「…が、さっき行った礼拝堂の修道士が案内してくれた地下の壁の絵は、東に来なければ見られなかったではないか。あれで世界の成り立ちとやらを知れたのだからの。どのみちこっちも来なければならなんだわ。」

志心が、言った。

「とにかく、この街で調べられることは皆調べてしまおうぞ。さらに東にも街はあるし、西へ行くのか決めねばなるまい。街と街を繋ぐ街道沿いには、山程化け物が出るのだ、移動は簡単ではない。維心でも苦戦しておったし、焔、主は幾度瀕死になった。翠明が回復していたのは、主が一番多かったぞ。」

焔は、むうっと頬を膨らませた。

「だからこそよ!もう、我は移動が面倒なのだ!」

とはいえ、頑張って戦って生きていればレベルは上がる。

化け物を倒した時に生き残っていることが、レベル上げのための報酬をもらえる条件なので、とにかく誰かが倒してくれるのを、生き残って待てばなんとかなるだろう。

維心ばかりが生き残るので、ここまで維心のレベルは激しく高いが、他はまちまちだった。

最初に選択する時に、どの技のスキルが高いキャラにするのか、使える技を5つまで決められたのだが、回復関係に特化したスキルを選んだのは、翠明だけだ。

他はとにかく戦闘に強いところばかりを設定していたので、回復が追いつかぬでこんなことになっているのだった。

志心が、息をついた。

「仕方ない。我は回復技を一つ入れておこう。維心には戦ってもらわねばならないしな。」と、他の者たちを見た。「そら、他も。一つは入れておけ。瀕死になった者を生き返らせる技もな。那佐は前にばかり出ておるが、時には後方支援も大切だろうが。」

渡は、眉を寄せた。

「我が後方支援とな?やらぬ。我は前衛ぞ。維心の助けになっておるはずよ。」

維心は、息をついた。

「確かに那佐はすぐ死ぬが我の助けになっておる。とにかく、志心に従って那佐以外皆、技を差し替えよ。我にばかり頼るな。だからレベルの差がこんなことになるのだぞ。」

皆は、全員のステータスが表示されている左端を見た。

最初5レベルだった皆のスキルは、一番上の維心が50、炎嘉38、志心34、箔炎30、焔20、漸30となり、他も似たりよったりだ。

ただ翠明だけが、後方で皆を回復していて死んでいないので、維心と同じレベルだった。

結局、皆頑張っているのだが、倒した時に生きていないからこうなるのだ。

とはいえ、まだ序盤で維心のレベルは高過ぎた。

今なら最初の街道で、維心が一番前で一太刀したら、皆倒してしまうだろう。

蒼が、見かねて助け船を出した。

「ええっと、西へ行くなら、最初の街道へまた戻りますよね?その時に、維心様でなく他の方々で倒して行ったらいいんです。魔物のレベルは同じですから、今ならそんなに強くないと感じると思いますよ。一番弱いキャラでも、一太刀でもしていたら報酬もらえますから。ね?そうしましょう!」

維心が、頷いた。

「そうよ。我も戻る時には設定を替えて回復技を入れて、後ろから主らを援護しよう。このままではバランスが悪いのだ。我の回りでバタバタ、気になってしようがないわ。少しは避けぬか、前に出て斬るばかりで。」

まあ、維心様目線ではそうか。

蒼は、苦笑した。

炎嘉が、言った。

「そら、先は長い。とにかくさっさとせよ。先へ進むぞ?」

そうして、またゲームは進み始めた。

蒼が、それを眺めていると、嘉韻がやって来て後ろで膝をついた。

「…どうした?」

蒼が小声で言うと、嘉韻は同じく邪魔をしないように小声で答えた。

「は。王に、急ぎ確認して頂かねばならぬことが。結界外のことでございます。関の房へお越しくださいませぬか。」

関の房とは、結界に設置された、文字通り外から入る者の関だ。

「…分かった。」蒼は、王達を見た。「あの、ちょっと出て来ます。そのまま続けていてください。」

炎嘉が、振り返りもせずに頷いた。

「こちらは気にするでないぞ。」

画面上では、また戦っている。

蒼は、それを後目に、嘉韻についてそこを出て行ったのだった。


その頃義心は、新月共に月の宮の領地の端にある、断層の切り立つ崖の上に浮いていた。

何故か数人の人がその下に倒れて事切れており、まだそんな惨事になっているのを人は知らないのか、捜索隊の気配は全くない。

人は地場逆転の折に、それまで使っていた電波を奪われてしまったので、全世界を地下ケーブルで繋いで通信し合っている。

月の宮は、そんな人のケーブルが来ている人の道路の方から、勝手にケーブルを繋いで来てインターネットに接続しているので、この近くにもケーブルは通っているはずだが、そんなことは人は知らないので、生きて遭難していたとしても、通信できずに力尽きたのかもしれなかった。

ここの断層は月の宮の結界の端に位置し、人には登って来られたとしてもそこから先には行けない。

別の景色が目に映り、結界の中には入れない仕様になっているからだ。

もしかしたら、一度上まで上がって来たものの、足を踏み外して落ちたのかも知れなかった。

「…人は何も知らぬしな。」義心は言った。「この正月に穢れを王にお見せすることはできぬ。ここは蒼様にご報告に留めて、後のことは蒼様のご判断にお任せする方が良い。」

新月は、頷いた。

「そうだの。人のことはそれで良い。が、あの具合を悪くしておる神は何故?こんな所でこんな時間に何をしていたのよ。放って置くわけにも行かぬし、李心は関の房へ連れて参ったが、胡散臭い奴らよ。確かに穢れに突然遭遇したらそうなるだろうが、月に浄化してくれとばかりに。」

義心は、頷いた。

「確かにそうよ。この辺りに他の神の宮はない。ここまで来るのは月の宮にようがなければあり得まい。今頃蒼様がお越しになっておるだろう。我らも関の房へ行こう。」

新月は頷いて、そうして二人は、関の房へと飛んだ。


嘉韻は、蒼を関の房へと案内しながら、蒼に状況を話していた。

「…つまり、断層の所に人が何人か死んでて、その近くで神が具合を悪くしてたんだな?」

嘉韻は、頷いた。

「は。見回りの李心が見つけ、我は見に参りました。詳しく調べるのは義心と新月に任せて、我らはとりあえず動けなくなっていた神を関の房に。放置するわけにも行きませんでしたし。」

蒼は、考え込む顔をした。

「…ってことは、この時間にそんな所をウロウロしてたってわけだ。本神はなんと?」

嘉韻は、息をついた。

「それが要領を得ず。とにかく蒼様にお会いしたい、とそればかりで。強めに脅しても口をつぐむだけ、一度は関の房から放り出してもみましたが、外から泣いて叫んで話にならずで。ならばと、蒼様にお出まし願いました。」

蒼は、息をついた。

「まあ、とりあえず話は聞く。でも、おかしなことを言い出したら放り出して放置でいいかと思ってる。嘉韻も知ってる通り、ここには何とかして入りたい輩が多く居るからな。いちいち構っていられないよ。まして今は、維心様方が来ていらっしゃるんだからね。正月からご面倒をお掛けしたくないから。」

嘉韻ら頷いて、そうして蒼と共に関の房へと入って行ったのだった。

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