臣下の宴
その頃、臣下達は臣下達で、蒼から許されて酒を大量に下賜されて、宴を開いていた。
非番の者が集まって、コロシアムの小会議場で、軍神達も文官達も、楽しく酒を酌み交わしている。
夜番の者たちは、自分の番が終わった者から参加して、段々に人数が増えて来ていた。
義心は、珍しく義将と共にそこに参加していた。
夕凪が言った。
「誠に珍しい。義心と酒を飲むなど、初めてではないか。主はいつなり務めがあるからと、同席せぬでこんなにゆっくり話したことはなかったの。」
義心は、答えた。
「常は軍務で来ておるからな。此度は休めと言われて非番であるし。やることもないゆえ、良いかと思うて。」
弦が、頷いた。
「その通りよ。たまには羽目を外しても良いのだ。主は硬いからのう。」
嘉韻が言う。
「我は己の務めはないとはいえ、己の宮に居るゆえ落ち着かぬ。まあ、月の結界の中で何某ないのだがな。あるとしたら、外よ。」
夕凪が言う。
「外か。ということは、外回りの奴らの方が重要か。」
嘉韻は、頷いた。
「その通りよ。ここ月の宮では、上位の軍神ほど見回りに出る。今も次席の李心が見回りの番を担っておるわ。」
宮が変わればということか。
皆が、それを聞いて思った。
他の宮では、外より内の方がしっかり見ておかねばならないのだ。
領地が広大なのでどうしても穴が生じ、中に入り込む輩が後をたたない。
そんな中に入り込んでいる輩が、王や王妃に近付くことを避けるためだった。
しかし月の結界だけは、中に居る者を浄化してしまうので、仮に入り込めたとしても、余程のことがない限り大丈夫だった。
そもそも中には月やら地やらが跋扈していて、悪い輩も捨て身でなければ何かをするのは困難だった。
そんなわけで、月の宮では内より外ということなのだろう。
勝己が、言った。
「それにしても主の甥子はよくやるものよ。主と立ち合っている様を見て驚嘆したわ。あれでは我らも一本取られるな。主の跡を継ぐのは誰かと思うておったが、義将なのではと思うほどよ。」
義将は、顔を赤くする。
義心は、微笑んだ。
「確かに義将は、そのつもりで育てておるのよ。」義将が、驚いた顔を上げた。義心は続けた。「こやつは試験でもよう励んでかなりの上位に食い込んだ。見込みがあるゆえ、できる限り時を取って育てたいと思うておる。我は婚姻するつもりもないしな。」
夕凪が、息をついた。
「主もか。筆頭ともなると忙しゅうてそんな暇もないと言うのに、王も他の者たちも誰か娶れとうるそう申す。筆頭の血を残せだのなんだの…そんなもの、休める神に申して欲しいわ。そもそも、女神が哀れよ、年に一度屋敷に帰るか帰らないかの夫を待つなぞ、幸福ではなかろうし。」
皆、激しく頷いている。
筆頭軍神は、忙し過ぎてそんなことを考えている暇もないのだ。
それなのに、跡を残せだの皆にヤイヤイ言われて、もうとにかく面倒なのだ。
皆でため息をついていると、そこに誠、公林、栄加が入って来た。
義心は、入口付近でキョロキョロしている、三人に声を掛けた。
「誠!こちらぞ。」
三人は、こちらを向いた。
そして、義心達を見留めて急いでこちらへやって来た。
「呼ばれて来たが、思うたより大勢居て戸惑った。皆非番か?」
誠が言う。
義心は、頷いた。
「そう。非番になるまでここには来れぬ。当番予定の者もな。月の宮の軍神が多いのよ。」と、同席している夕凪、嘉張、圭司、勝己を見た。「うちの四位の誠。それに公林、栄加ぞ。」
弦が、盃を置いて身を乗り出した。
「お、聞いておるぞ!洪、公李、兆加なのだろう?試験結果が配られた時に、我が王が申されておったわ。洪相手に勝てるものか、とな。」
誠は、苦笑した。
「ははあ、焔様は軍神にまでそのことを申されたのですな。その通り、我は洪、こちらは公李、兆加でありまする。ゆえに義心とも、気安く話せるのでありますがな。」
夕凪は、言った。
「なんとの、誠か。我が王は何も。」
夕凪の王は、志心だ。
志心なら、口が硬いので言わなかったと思われた。
誠は、微笑んだ。
「志心様ならば仰いますまい。あの方は何事も腹の内に一度収めて、後に出すべき時に出すために温存される方なので。」
弦が、むっつりと言った。
「なんぞ、まるで我が王が考えなしのような言い方であるな。」
誠は、フッと微笑んだ。
「焔様は何でもお顔にもお口にも出されまするが、肝心なことはその影に上手にお隠しになりまする。なので相手は油断するのです。焔様は、炎嘉様とよう似た策士でありますぞ。」
勝己が、両手を軽く上げた。
「誠に洪よ。我は会うたことはないが、聞き知った洪そっくりぞ。全てを見抜いてその頭に持っておるのだろう。龍王が最強なわけよ。」
義心は、微笑んだ。
「心強い限りよ。」
そこへ、七瀬が一人で入って来るのが見えた。
同じようにあちこち見ているので、誠はこちら側から呼んだ。
「七瀬殿、こちらへ。」
七瀬は、ホッとしたように誠を見て、こちらへやって来た。
「すまぬな、誠殿。うちの軍神達がどごに居るのか、これでは分からぬで。」と、他の軍神達に頭を下げた。「お邪魔致します。高彰様の重臣筆頭、七瀬でございます。」
皆は、頷いた。
「獅子の宮勝己ぞ。高彰様の所の軍神は、今回少なかったようで当番が何度もあってな。まだ来ておらぬ。」
七瀬は、言った。
「ははあ、確かに。正月は休みとここ最近は決まっておりまして、筆頭の大伊殿を休ませねばと王が最小限に留められたのでございますゆえ。皆様お忙しいのでしょう。」
義心が言った。
「うちも王が休めと仰って、我は休暇中よ。ついでにこちらへ連れて来て頂いたのだ。」
七瀬は、義心を見た。
「そのお顔は…義心殿?」
義心は、頷いた。
「我は龍の宮筆頭軍神、義心ぞ。」
七瀬は、それは驚いた顔をした。
「なんと。義心殿と同席できるとはなんと幸運な。こんな機会は滅多にないのに…七槻も早う来れたら良いが。」
誠が、言った。
「そういえば七槻殿は?帥斗殿と帥加殿も見えぬな。」と、義心を見た。「本日は共に話しておって。」
義心は、頷く。
七瀬は、答えた。
「あれは恵鈴様に呼ばれて控えの間に。いつまでも七槻に頼るようではと、王に教育係のお役目を下ろして頂く嘆願をしようと思うておったので、呼びに来た侍女にいい顔をしなかったのだが、その侍女が言うには、王はこの正月が終われば、教育は王の侍女長の清子に換えると申されておるようで。ならばこれが最後と行かせたのだがの。」
誠が、眉を上げた。
「高彰様が、そのように?」
七瀬は、頷く。
「そう。安堵したわ。このままではあやつを跡目にできぬと焦っておったゆえ。」
夕凪が、言った。
「我は白虎の宮筆頭夕凪。そうか、確かに妃にずっとついておったら、政務など関われぬのものな。我らとて、専属警護の任を時に賜るが、仮にそれが皇子皇女であっても、何年もついては軍務から遠ざかってしもうて腕が鈍るゆえ、出世は見込めぬようになる。なので、長くても週替わりで輪番を組むもの。まあ、宮の中のことであるから、滅多にないがな。」
弦が、頷いた。
「いずこも同じか。こちらも我が息子の潤がそこそこになって来た。無事に次席にまで育てて、今少し励めば我も隠居と思うておるのだ。ここまで気を揉んだが、いろいろ経験させてやることができて、ホッとしておる。」
弦は隠居か。
夕凪が、言った。
「え、主はもう退くのか?」
弦は、苦笑した。
「我はこれでも結構な歳ぞ。王が幼い頃よりお仕えしておって、老いは止まっておるがそろそろ楽をしたい。苦労したのだぞ?王は幼い頃より自由であられて、軍務の傍ら追いかけ回しておったわ。すぐに結界外へ行ってしまわれるようなお子であったからな。」
そうか、弦は恐らくかなりの年月生きている。
若い頃より王の跡継ぎの焔について、焔が王座に就いてからは宮を閉じていたのに、開いて外の世界との交流を再開すると大騒ぎで、それは大変だったろう。
「…隠居するのに鍛錬か。」勝己が、息をついた。「主は志が高いな。」
弦は、笑った。
「あれは我の趣味よ。義心と立ち合えるのに、やらぬなどあり得ぬだろうが。己自身のため、我は己の限界を知りたいし、伸ばしたいのだ。」
皆がウンウンと頷いていると、そこへ新月が入って来て、足早に義心に近付いて来た。
「なんぞ。」義心は言った。「どうした、慎也は?夜番は無かろう。」
新月は、首を振った。
「違う、宴席に来たのではないのだ。義心、結界外に気になることがある。嘉韻もぞ。少し、来てもらえぬか。」
結界外に…?
嘉韻が、素早く立ち上がった。
「参る。」と、義心を見た。「主はどちらでも良いぞ。」
しかし、義心は立ち上がった。
「我が王、王妃がここにおわすのだ。我も参る。」
そうして、嘉韻と義心は新月について、その場を辞して行ったのだった。
途切れ途切れの投稿になって申し訳ありません。お知らせしたようにGMに忙しくしていて、こちらが遅くなっています。申し訳ありません。




